2017年に公開した記事「プロのライターがガチで選んだ徹夜必至の最高の小説25選」は、2018年3月現在で1500はてブ超え、640シェア以上の人気記事となりました。
今回ご用意したのは前回セレクトした25作品に負けずとも劣らない、これまた徹夜必死の25作品です。どれを読んでも次のページを繰る手が止まらないこと間違いなし。騙されたと思って読んじゃってください。
Contents
徹夜必至の最高の小説25選
1.未来の二つの顔
著者:ジェイムズ・P・ホーガン 訳:山高 昭
初版年:1979年
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ハードSFの第一人者で、日本SF大会参加登録者のファン投票によって選ばれる優秀なSF作品に贈られる賞「星雲賞」を3度受賞するほどの人気を誇る、ジェイムズ・P・ホーガンのSF巨編。
テーマ自身は「意志を持たない人工知能がなぜ人類に反乱を起こすのか」という、今となっては何度となく描かれてきたものではあります。しかし本作が面白いのはマサチューセッツ工科大の人工知能学の権威マーヴィン・ミンスキーの協力を得て、詳しいコンピュータ工学にのっとって書かれている点にあります。
そのため40年前の作品にも関わらず、仮想技術にリアリティがあり、実際に本作に登場するデバイスの中には現在実用化されつつるものも多く登場します。
ページをめくるたびに小説の世界がはっきりと目の前に現れ、物語に没入していくこと間違いなし。SF小説としての面白さはもちろん、昨今各方面で話題になっている人工知能について改めて考えるきっかけにもなる一冊です。
2.虎よ、虎よ!
著者:アルフレッド・ベスター 訳:中田 耕治
初版年:1957年
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世界的に権威のあるSF賞「ヒューゴー賞」の第一回受賞作『分解された男』の著者でもあるSF作家、アルフレッド・ベスターの代表作です。
復讐譚のモデル的作品とも言えるデュマの『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』をモチーフにしたSF作品で、人類にテレポーテーション能力が発見された24世紀〜25世紀が舞台。テレポーテーション能力「ジョウント」の発見により人類の生活は一変し、これを利用した窃盗や収奪、戦争が巻き起こります。
そんな世界を背景にテンポよく展開していく主人公ガリヴァー・フォイルの復讐譚の面白さもさることながら、漫画『仮面ライダー』や『サイボーグ009』に影響を与えた様々なSFアイディアも本作の大きな魅力。SF好きはもちろん、漫画好きにもおすすめできる古典的なSFです。
3.残像に口紅を
著者:筒井康隆
初版年:1989年
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『時をかける少女』『文学部唯野教授』などSF問わず様々な分野で活躍する筒井康隆による実験的なSF作品。
日本語表記の音を文面上から1種類ずつ消していき、同時に主人公佐治勝男の周りでもその音を含む名前を持つものが片っ端から消えていくという、設定からしてかなり奇妙な物語です。「あ」が消えれば「愛」も「あなた」も消えてしまう。「び」が消えれば「ビール」が消え、「む」が消えれば「村田さん」も消えてしまいます。
文面上使える音が限られてくれば、自ずと使える言葉にも制限が生まれ、その中でいかに小説を成立させるかという実験になっていきます。
物語の後半に入る頃にはすでに28音が失われますが、それでもきちんと小説が成立しているあたり、さすがは筒井康隆といったところでしょうか。物語を楽しみながら、日本語や言葉そのものについても考えさせられる作品です。
4.高い城の男
著者:フィリップ・K・ディック 訳:浅倉 久志
初版年:1962年
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『ブレードランナー』『トータル・リコール』『マイノリティー・リポート』など大ヒットSF映画の原作を書いたフィリップ・K・ディックの代表作であり、1963年のヒューゴー賞長編小説部門受賞作。
ジャンルとしては歴史改変SFで、舞台は第二次世界大戦が枢軸国(ドイツ、日本、イタリア)の勝利に終わった世界です。「高い城の男」という謎の男が書いた、「連合国(アメリカ、ソ連、イギリス)が第二次世界大戦に勝利していたらどうだったか」という歴史改変SF小説『イナゴ身重く横たわる』が流行中。
『イナゴ身重く横たわる』はドイツ支配下のアメリカやヨーロッパでは発禁本とされ、当局は「高い城の男」殺害のために奔走しています。
本作の魅力はそんな世界で繰り広げられる人間群像劇と、フィリップ・K・ディックの創作テーマでもあった「本物とは?偽物とは?」といった哲学的な議論です。骨太な歴史改変SFをお探しの人ならきっと気にいる作品です。
5.ジェノサイド
著者:高野 和明
初版年:2011年
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2001年に死刑制度をテーマにしたミステリー『13階段』で江戸川乱歩賞を受賞した高野和明が、山田風太郎賞受賞・本屋大賞第2位・日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞ほか「週刊文春ミステリーベスト10」と「このミステリーがすごい!」の両方で1位に選ばれたSFミステリーです。
死んだはずの父からの謎めいたメールを受け取った創薬科学専攻の大学院生・研人、不治の病を患う息子の治療費を稼ぐためにコンゴ潜入任務を引き受けた傭兵・イエーガー。
一見全く接点のない二人の主人公の物語は、研人がメールの謎を追うにつれ、イエーガーがコンゴの森を進むにつれ、少しずつ接近していきます。そしてその先には読者が想像だにしない驚愕の事実が待ち受けています。
文庫本にして上下巻1000ページを超える大著ですが、テンポの良さと意外性抜群のストーリー展開が分厚さを感じさせません。
6.停電の夜に
著者:ジュンパ・ラヒリ 訳:小川 高義
初版年:2000年
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ジュンパ・ラヒリはインド系アメリカ人として生まれ、作中でもインド系移民たちが乗り越えてきた困難や抱えてきた不安、そしてさらされてきた偏見を、平易な言葉遣いで精緻に描いている小説家です。
本作はそんなジュンパ・ラヒリのデビュー短編集で、2000年のピューリッツァー・フィクション賞受賞作。毎夜訪れる1時間の停電に、ろうそくの火をともして互いの隠し事を打ち明けあう若夫婦を描いた表題作を始め、インド系移民たちの心のつながりや軋みを、丁寧に丁寧に描いています。
劇的な展開は全くといっていいほどありませんが、向田邦子や川上弘美を読んだ後のような切ない気持ちや優しい気持ちを味わえる短編集です。
7.幻夏
著者:太田 愛
初版年:2013年
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著者の太田愛には小説家という顔以外に、『ウルトラマンティガ』『ウルトラマンダイナ』などの特撮番組では怪獣側にフォーカスを当てて王道の勧善懲悪ではない脚本を書き、『相棒』シリーズなどではトリックやアリバイよりも人間模様を精緻に描いた脚本を書いてきた脚本家としての顔もあります。
第67回日本推理作家協会賞候補作になった本作も、「冤罪」をテーマに日本の警察制度への問題提起を行いながら、同時に冤罪に巻き込まれた人々の関係性や心の描写に多くのページを費やしています。
ストーリー展開も秀逸で、23年前に失踪した親友との思い出の情景が、現在の少女失踪事件とリンクし、次々と伏線が回収されていく流れは、まさにエンターテイメント。あっという間の500ページ弱になるはずです。
8.私が殺した少女
著者:原 尞
初版年:1989年
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推理小説家として根強い人気を誇る原尞が、デビューした1988年から2018年3月の最新作『それまでの明日』に至るまで書き続けている私立探偵・沢崎シリーズの第二作です。
主人公の沢村は1本の電話をきっかけに誘拐事件の身代金の運搬係をすることになりますが、不慮の事故により受け渡しに失敗。警察の捜査の甲斐なく身代金も犯人も、さらには人質の少女の安否も不明に終わってしまいます。
責任を感じた沢村は単身捜査を続行。その結果、沢村は残酷な真実に直面することになります。
本作はミステリー的な要素もありますが、それよりも大きな魅力になっているのが原尞一流のハードボイルドな世界観です。息もつかせぬストーリー展開やサスペンスの強烈さ、そして思わず「かっこいい!」と叫びたくなる沢村の生き様や言葉遣い。
読後はつい自分も沢村みたいな言葉を使いたくなること請け合いです。
9.シャンタラム
著者:グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ 訳:田口 俊樹
初版年:2011年
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武装強盗の罪で20年の懲役刑を言い渡された男は、白昼脱獄を果たし、オーストラリアからインドのボンベイに逃走。インドのスラムにもぐりんこんで、そこで暮らす人々の怪我や病気を治療する仕事に精を出し、住人からも慕われるようになります。
しかしこれをよく思わない者たちにより、男は再び囚われの身に。文庫本にして上中下巻、総ページ数1800を超える波乱万丈の男の半生が描かれていきます。
奴隷市場に臓器バンク、凄惨なリンチや麻薬漬けのシーン、マフィアのボスにコールガールの元締め……普通に生活していたら決してお目にかかれない世界が、本作の中には精緻に描かれています。
それもそのはず著者のグレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ自身が元無政府主義運動の活動家であり、『シャンタラム』の主人公と同じ人生を歩んできた男なのです。
つまり本作は実体験を基にしたハードボイルド小説なのです。だからこそのリアリティが、きっと読者の睡眠時間を奪ってくれるはずです。
10.1000の小説とバックベアード
著者:佐藤 友哉
初版年:2007年
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19歳のときに発表した『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』で第21回メフィスト賞を受賞し、以来あらゆるジャンルを横断した作風で人気を集める佐藤友哉が描く新本格ミステリー。
特定の個人のための物語を集団作業で完成させる「片説家」という職業を27歳の誕生日にクビになった主人公木原は、同時に読み書きの能力まで失ってしまいます。
そんななか謎の女性配川ゆかりが木原に小説の執筆を依頼。木原はその依頼をこなす過程で、「やみ」と呼ばれる一派に出会ったり、全身黒ずくめの男「バックベアード」に出会ったりしながら、様々な事件を乗り越えていきます。
本作は「小説好きのための物語」ともいえる作品で、著者の「小説への希望」ともいうべき考え方が登場人物の言葉や関係、ストーリーに色濃く反映されています。
奇想天外で安直ともとれる展開には好き嫌いが分かれるかもしれませんが、そこがハマれば小説好きにとっては一気読み必死の作品になるはず。三島由紀夫賞受賞作。
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