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「指示待ち部下」の原因は「優秀な上司」だった
「最近の若い奴はみんな指示待ち人間だ。自分の頭で考えられないのか」と指示待ち部下に頭を悩ませている人ほど、優秀な人が多い。そう看破するのはtogetterに『「指示待ち人間」はなぜ生まれるのか?』というタイトルで自身の考えをまとめて50万以上の閲覧者と反響を受け、著書『上司1年生の教科書 自分の頭で考えて動く部下の育て方』を書いた篠原信さんです。
「優秀な上司」は部下の至らなさをすぐに指摘し、的確な指示を与え、失敗に怒ります。しかし篠原さんいわく、このような優秀な人にありがちな行動が部下たちが「もう自分で考えるのはやめよう」と決断する原因なのです。ではどうすればいいのでしょうか?ここでは篠原さんの著書を参考に、自分の頭で考えて動く部下を育てるコツを5つ紹介します。
教え方の基本は「蔵・修・息・游」
まずは教え方の基本として篠原さんが挙げる「蔵・修・息・游(ぞう・しゅう・そく・ゆう)」から理解しておきましょう。「蔵」とは仕事を覚えるために必死にインプットする段階です。この段階にある部下に対してはできるだけ丁寧に仕事を教える必要があります。この際に重要となるのが次の7つのステップを踏むことです。
1.相手に話を聞く姿勢を作ってもらう。
2.仕事をやってみせる。
3.仕事をやらせてみる。
4.結果を確認し、ミスがないか自分で確認してもらう。
5.フィードバックを与え、続きをやるよう指示して、その場を離れる。
6.終了の報告をしてもらい、追加のフィードバックを行う。このとき、伝え忘れなどでミスがあればこちらが謝罪し、やり直してもらう。
7.問題のない状態になるまでやってもらう。
このステップには「正しいやり方」を教えるための全てが揃っています。大切なのはミスを上司が指摘するのではなく、質問するなどして自分で確認してもらうこと。
これによって部下に「自分で考える習慣」がついていきます。また一通りやり方を指示した後にその場を離れることも重要です。自分のペースで作業ができるので部下がインプットしやすくなるからです。
こうして正しい仕事を覚えてもらったら、あとはこれを繰り返してもらって仕事の精度を上げる段階「修」に入ります。覚えてもらった仕事が必要になったらその都度同じ部下に指示し、自分の中で反復してもらうのです。
修の段階では部下がその仕事に慣れた頃に上司がチェックする必要がありますが、「息」の段階に入ると完全にその仕事を任せられるようになります。「游」の段階に入るとその仕事に関して部下は上司の手を離れ、新しい作業工程などを上司に提案するレベルになります。ここまでいけば「自分の頭で考えて動く部下」の完成です。
しかし優秀な人ほどこの基本の「蔵・修・息・游」を忘れがちです。以下ではそうならないために覚えておきたい4つのコツを見ていきましょう。
「無能」であれ、「口下手」であれ
指示待ち部下を量産してしまう人の特徴として次の3点が挙げられます。
・自分の有能さを部下に対してもアピールしようとする。
・「上司は部下にたくさん伝えねばならない」と意気込んでいる。
・「上司は威厳に満ち溢れてなければならない」と肩肘張っている。
これに対して篠原さんは「上司は部下より無能でいいし、話し下手でいいし、威厳も必要ない」と言います。第一に、プレイヤーとして優秀な人が「上司になったんだからしっかり頑張らないと」と張り切ってしまうと、部下は「追いつけないよ」と途方に暮れてしまい、かえってその人の指示を待つようになってしまうからです。
マネージャーに求められるのは自分がプレイヤーとして活躍することではなく、部下の能力を引き上げて活躍してもらうこと。考え方と頑張り方を切り替える必要があるのです。
第二に「ちゃんと指導してやらないと」と部下に情熱的に色々なことを伝えたり、叱咤激励ばかりしていても、部下は思考停止に陥ってしまいます。むしろ大切なのは部下の話に興味を持ち、耳を傾けることです。
それが部下から上司に対する信頼関係につながります。また上司からしても部下の価値観や仕事観がわかるので、どうすれば期待に応えてくれるかも把握できるようになります。
第三に「ナメられてはいけない」と部下を叱りつけたり、減給やクビをチラつかせて恐怖で統率するのは最悪の上司のやることです。こんなことをすれば上司の逆鱗に触れないようにと、指示待ち部下になっても仕方ありません。もし「上司=威厳のある存在」と思い込んでいたら、まずその勘違いを捨てましょう。
部下に「答え」を教えてはいけない
教育心理学に「自己効力感」という言葉があります。何かを自分の力で成し遂げられたという感覚で、これを味わうと人はチャレンジしたくなり、自分の頭で考えたくなります。
人材教育の現場で部下がこの自己効力感を抱くのを邪魔するのが、懇切丁寧な指導に情熱を燃やす上司の存在です。優秀な上司ほど、何か問題に直面した部下が自分で考えて答えを出すまでの時間を待ちきれません。
自分は答えを知っていたり、すぐに答えまでたどり着けたからです。しかしここで答えを教えてしまうと、せっかくの自己効力感獲得のチャンスが無駄になってしまいます。さらには「いつも上司が答えをくれるし、自分で考えるのはやめておこう」と考えるようになり、指示待ち部下が完成します。
これを防ぐには「蔵・修・息・游」のところでみたように、自分で問題点を探させたり、自分の中で仕事を消化する時間を設ける必要があります。そして部下に自己効力感を持ってもらい、自分の頭で考える快感を覚えてもらう。それが自分で動く部下を育てるコツなのです。
「部下のモチベーション」は上げようとしてはいけない
意気込んで「部下のモチベーションを上げよう」と考える人ほど、それを実行に移すとことごとく失敗に終わる傾向にあります。自己効力感は「自分で考えて課題を解決した」という達成感です。
しかし上司がモチベーションを上げてやろうと意気込むと、簡単すぎる仕事を与えてしまったり、親切にアドバイスをしすぎたりして、「自分で考える」という部分を邪魔してしまいがちだからです。そこで重要になるのが「ストレッチ目標の設定」と「見守る姿勢」です。
ストレッチ目標とは簡単には達成できないが、少し頑張れば解決できるレベルの目標を指します。自己効力感は自分で「できない」を「できる」に変えたときに湧きあがります。このストレッチ目標を繰り返し達成することで、少しずつ「自分で考えて解題を解決する」という快感を覚えていくのです。
しかしこのときの目標が現時点では到底達成不可能なものだった場合、逆に無力感に苛まれてしまうので注意しなくてはなりません。ストレッチ目標を設定できたら、あとはそれを見守る姿勢が重要となります。親切な人ほどサポートしてやりたくなる気持ちもわかりますが、そこは部下を信じてぐっとこらえましょう。
上司にとって必要なのは「部下のモチベーションを上げよう」という発想ではありません。それは自己効力感の妨げになる「過度なアドバイス」や「低すぎる目標(あるいは大きすぎる目標)」を排除し、ストレッチ目標を達成しようとする部下を見守る姿勢なのです。
部下とのコミュニケーションを増やすコツ
ここまで挙げた4つのコツを実行するには、部下の能力や価値観についての理解が必要です。それにはできるだけ多くのコミュニケーションが不可欠になります。部下とコミュニケーションできていないのに、部下の能力や価値観を正確に把握することはできないからです。
しかしだからといって世間話などの会話を増やすばかりでは意味がありません。仕事に直結する疑問や意見を引き出すための「対話」を増やさなくてはならないのです。そこで重要となるのが以下の3つのポイントです。
1.質問にきちんと対応する姿勢を見せる。
→特に若い世代はこれまでの学校生活の中で「質問すると組織の中で浮く」ことを学習してしまっています。そうでなくても質問をするということは「あなたの話はわかりにくい」「あなたの話を聞いていなかった」というメッセージになると勘違いしている人は多いものです。これを払拭するためには話し出す前に「あとで質問してもらうので、いくつか考えておいてね」などとあらかじめ質問にきちんと対応する姿勢を見せておく必要があります。
2.こちらからの質問は具体的に行う。
→「どう思う?」というような漠然とした質問は、部下に「何を期待されているんだ?」と不安がらせるだけです。例えば「あのチームのプレゼンは面白かったと思うんだが、実現が難しそうだよな。何か打開策を思いつかないか?」というように、自分が何を求めているかを明確にするだけで、部下は自分の意見を言いやすくなります。
3.相手の意見はきっちり最後まで聞く。
→部下の意見の中には、経験豊富な上司からすれば陳腐なものもあるかもしれません。しかしそれを「ああその意見はね、こういう問題があるんだ」などと遮ってしまうと、部下は「なんだよ、もうしゃべんねえよ」と腹を立ててしまいます。どんな意見でもきっちり最後まで聞く姿勢が対話の回数を増やすのです。
部下を嘆くより自分が変わろう!
部下が指示待ち人間になってしまうのは、上司が上司としてのあり方を間違えているからです。これを改め、細かい仕事からでも自己効力感を刺激してあげれば、徐々に自分の頭で考えて動くようになるはずです。まずはここで挙げたコツを1つずつ実践するところから、始めてみてはいかがでしょうか?
参考文献『上司1年生の教科書 自分の頭で考えて動く部下の育て方』
