「優秀な部下を正しく指導できてる?」産業カウンセラーが語るリアル

非公開のセッション内容をストーリーに

2017年の現在、若いビジネスパーソンはどんなことに悩んでいるのでしょうか。開業してから6,000件以上のパーソナルセッションを実施してきた産業カウンセラーで『仕事は人間関係が9割』の著者、宮本実果さんに、セッションのリアルなやり取りをプライバシーに配慮した形で、再現したストーリーを寄稿いただきました。

相談者や登場人物の立場になってストーリーをなぞることで、自分の思考のクセを見つめ直すことが可能です。日ごろの人間関係のトラブルや悩みが整理されて気持ちがラクになるでしょう。マネジメントをされている方は自分の部下が日常的にどんなことを感じているのか、照らし合わせて、参考にしてください。

宮本 実果(みやもと・みか)/MICA COCORO代表 産業カウンセラー
1975年、札幌生まれ。フリーアナウンサー、鉄道企業本社広報、人材開発コンサルタントなどを経て、産業カウンセラーを取得。2007年、MICA COCOROを設立。10年間で6,000件のセッションと社員研修を行いビジネスパーソンの問題解決を多方面でサポートする。2015年から社内外で通用する人材育成を目指した「NEXT STAGE PROJECT」をプロデュース。著書は「仕事は人間関係が9割」(クロスメディア・パブリッシング)

第一章「いま世代間ギャップで起きている事」 (Episode1・2・3)

様々な悩みは世代を超えると言いますが、生きてきた時代や背景が違うと、会社に対する想い、ワークライフバランスへの考え方や結婚や恋愛観も少し違いを感じる場面が多いかもしれません。今回は「世代間ギャップ」をテーマに3つのエピソードの中からエピソード2「自分よりも優秀な部下にへこむ」をご覧ください。

※エピソード1はコチラ
【月曜が憂鬱な人必見】産業カウンセラーに聞いた、仕事のストレス原因とは?

「Episodeチェック☑」下記の項目に心当たりがある人、必見です!

部下でお悩みのあなた
☑ 今の若い世代はテクニカルスキルが高いと感じている
☑ 優秀な部下に焦りを感じている
☑ 部下を通して入社したばかりのフレッシュな気持ちを思い出したい

上司でお悩みのあなた
☑ 上司には理想のロールモデルやメンターでいてほしい
☑ 上司のマネジメントスキルに疑問を感じる事が多い
☑ 実は、メンタルが弱いので、仕事や気分にムラがある。

Episode2

自分より優秀な部下にへこむ
―視点を変えると、ダメ上司から優秀な上司へと変わる

若い世代とテクニカルスキルで勝負しますか?


新入社員世代は義務教育前後から一般的にITが普及しています。ITスキルを中心とした世代間ギャップも起きているのも事実です。ここ数年で、若者のIT知識や大学で学ぶ授業内容が様変わりしました。その世代間ギャップに自分のITスキルに悩む上司が多いのは、この時代背景も原因なのかもしれません。若い世代と向き合うべき本当のスキルとは何か?についてのストーリーです。

 

クライアント(相談者)
35歳 女性 山本さん(仮名)独身
金融関連企業勤務 総合職 勤続13年目 新卒から現在
趣味はミュージカル鑑賞。年上の男性に憧れるが、好かれるのはなぜか年下の男性ばかり。大学時代の女友達は全員結婚したので気軽に飲みに行けず、休日は疲労が溜まって一日中寝ている事が多い。

 

 

 

部下
25歳 女性 Aさん 勤続3年目 独身
新卒から現在3か月前から同じ課に配属された部下。ほんわか美人で年の離れた男性社員に人気が高い。会議中でも躊躇せず、自分の意見を発言する。一方で、なぜか突然会社を休むことがあり、少しメンタルが弱い側面もある。

 

 

ため息がでるほど優秀な部下


会社帰りに筆者のオフィスに来た山本さんは優秀な部下に恐怖を感じると話しだしました。

山本:あーあ…最近若い子が優秀過ぎて怖いです。

―優秀過ぎて怖いとは?

山本:私が今まで頑張って手に入れたものを、今の若い世代は簡単に手に入れているように見えるんですよね…。

―本来は、簡単に手に入らないもの?

山本:ええ、私は入りませんでした。それなのに、私が10年以上かけてやってきたことを、部下は3年目で既にできているんです。すごいですよ。
彼女がすごく優秀なのか、私がダメなのか、わからなくなってきました。

―具体的にはどんなことが優秀なのでしょうか?

山本:たとえば、資料作成スキルが私のスキルを大きく上回っています。見やすいし、わかりやすい資料を作ります。あれって、仕事内容を理解していないと作成できないんです。すごく優秀だからなんだか怖いんです。

テクニカルスキルの高い若い世代


【カウンセラーの視点①】山本さんが「優秀」というのはテクニカルスキルの話をしているような予感がします。もう少し掘り下げてみましょう。

―なぜそんなに資料作成スキルが高いのでしょうか?

山本:彼女は今の部署ではまだ一緒に仕事をして3か月目なので、断言はできないのですが…。今の若い世代は幼少期から、パソコンやスマホを使いこなしています。学校の授業でもPCやiPadを使った授業も進んでいます。会社に入るまでの環境が私たちとは違いますよね。

―世代の違いもあると感じているのですね。他にはどんなスキルが優秀ですか?

山本:とにかくメールの返信スピードが速い!私なんて、いろんなことを考えながらメールを返信しているので、ものすごく時間かかってしまいます。

―山本さんは、どんなことを考えて返信するのでしょうか?

山本:そうだなぁ…。本音を伝えると課長になんて思われるんだろう…?とか考えちゃう(笑)。でも、それがネックになって返信スピードが遅れるのが現状ですね。

―本音を伝えることを躊躇して、メールの返信スピードが遅くなるという事?

山本:ええ。返信はある程度のスピードは重要だと思いますが、ついつい相手の気持ちを深読みしちゃいますね。

躊躇なく正論を伝える後輩


【カウンセラーの視点②】山本さんは課長や相手に常に気を遣いながらメールの文章を考えているようです。ひきつづき、仕事の効率に関する価値観や様々な事を聞いていきましょう。

―お話を聴くと、部下のAさんは躊躇なくメールの返信をしているということになりますか?

山本:そうですね。Aさんから課長に返信する内容はいつもハラハラします。私だったら怖くて、課長には言えないなぁと思うことを悪びれもなくメールに書いてあります。

―課長が怖くて言えない内容とはどんなこと?

山本:Aさんのメール内容はいつも正論なんです。でも、正論ばかりでは仕事はできないと思っています。やっぱり、上司の立場やプライドも考慮して慎重に進めたほうが結果的に良いと感じています。

―山本さんは上司の立場やプライドに配慮する方が結果的には良い事だと考えているのですね?

山本:たぶん…。でも、気を遣いすぎている私もどうかと思うんですよね…。結局、仕事ってスピードが重要な時も多いし…。あー。何が正しいのかわからなくなってきちゃう。

私も入社した時は自由だった


【カウンセラーの視点③】山本さんはスキルが高い後輩が怖いと言っている一方で、自分の仕事に対する向き合い方に少し疑問を感じはじめているようです。本質的な悩みを整理していきましょう。

―ここまでのお話を整理すると、部下Aさんは思い立ったら行動へ移すので仕事のスピードは速いけれど、山本さんから見ると納得できない部分もあるということですか?

山本:んー…そうだなぁ…。Aさんって良く言うと、まっすぐな人ですが、悪い言い方をすると危なっかしいところがあります。とはいえ、私も入社当時は彼女みたいに、言いたい事を発言してたんだよなぁ…。今は違うけど…。(笑)

―入社当時の山本さんはどんな感じでしたか?

山本:いやー。自由人でした(笑)。Aさんの事なんてまるで言える状況じゃないかもしれませんね。一番インパクトがあったのは、新人研修期間中の出来事ですね。

―差支えなければ、どんなことがあったのかお聞かせいただけますか?

山本:研修期間中に、進行の手法や研修カリキュラムに対して“なんでこんな非効率なことしているんだろう?”と思ったんです。私、昔から「もっといい方法があるはず」と考える性格なんです。あの時も何のためらいもなく、先輩を通り越して、課長に直接、「もっと効率のいい方法があると思います」みたいな言い方をしたような気がします。

―その後はどうなったのでしょうか?

山本:今でも忘れられないですが、鬼の形相で先輩に怒られました。先輩は、私の新人研修の時の教育担当の女性社員です。「山本さん!自分の立場わかってる?勝手なことしないで!あなたは言われた事だけやっていればいいの!」とすごく強い口調で言われて、とても怖い思いをした記憶があります。

教育係はフィルター?


【カウンセラーの視点④】山本さんはまだ明確には気づいていませんが、自分が入社当初に先輩の女性から抑圧された経験がこの問題解決のカギとなりそうです。

―今までのお話を聴いていると、山本さんは入社当初から自分の特質をうまく活かしきれずにいたようですね?

山本:そうですね…。あれ以来、「おかしいなと思っても、まずは、すぐに口に出さない。そして、話にくい先輩だとしても役職を飛び越えて別の人に相談してはいけない。」と言い聞かせながらここまで頑張ってきたような気がします。

―今でも問題提起することに対して抵抗がありますか?

山本:たしかにそれはあります。言わなきゃいけない事と言ってはいけない事が頭の中でぐちゃぐちゃすることが多い日々ですね。アクションを起こす前にあの先輩から言われたことを思い出して思考がストップしてしまいます。

―ということは、その教育担当の先輩は山本のフィルターみたいなもの?

山本:そう、それ!フィルター!結局、何も問題を解決できていない自分にイライラしていたら、Aさんという部下に出会って、昔の自分を見ているような気持ちになったのかもしれませんね。

―山本さんは心のどこかでAさんにはのびのび仕事をさせてあげたいと思っている?

山本:かもしれませんね。こう考えると、Aさんにとってのフィルターは私です。実は、私は彼女の教育係でした。Aさんには入社以来、理不尽な事で注意したり、萎縮させることを言ったことはないですね。私は自分がされて嫌だったことを後輩や部下にはしませんから。

もしかして、私って上司として優秀?


【カウンセラーの視点⑤】気になる点は2つ。1つは、山本さんが持っている「問題提起スキル」がビジネスシーンで活かされるレベルまで成長する機会を持てなかったこと。そして、部下を育成するために大切なスキルの1つ「成長させるスキル」を、発揮できていること。この2つを今後の問題解決へつなげていきましょう。

―山本さんは自分が嫌だと思う事は部下にせず、部下の良い部分を引き出す教育方針ですか?

山本:引き出せているかは自信がありませんが、Aさんへの教育で心掛けている事は、仕事に集中できる環境を整備することです。

―ということは、Aさんの成長スピードは山本さんというフィルターを通した結果ということですか?

山本:確かに(笑)。そうか…だから彼女も自由にのびのびと発言したり、やりたい事にすぐに取り掛かるスピードがあるのかもしれませんね。私、もしかして、上司として結構優秀ですかね?(笑)

―この先、Aさんはのびのびと仕事をするだけで大丈夫ですか?

山本:よく考えるとそうですよね。のびのびだけだとダメですよね。私も上司として正しいビジネスコミュニケーションを指導しないといけませんね。現に、私以外とはあまり上手にコミュニケーションが取れていない部分も見られるんです。

Aさんはあれだけのびのび仕事をしているはずなのに、なぜか月曜日に急に休むことが多いんですよね。不思議なんです。

―上司としてビジネスコミュニケーションを指導することは大切だと感じたのですね。Aさんが月曜日に急に休むのは、何かのサインや前兆かもしれませんから、引き続きAさんが相談しやすいような環境づくりを大切にしていくと早めの問題解決に結びつきそうですね。

山本:確かにそうですね。そうしてみます。ありがとうございます!

このセッションの要点


このセッション事例は、過去に自分が体験した先輩からの抑圧体験を引きずってきたものの、上司の立場となった今の自分におけるビジネススキルがしっくり来ていない日々が続いていたようです。優秀な部下が怖いと思ったのは、自分の明確な居場所が見えなくなってきた不安からきていたのかもしれません。

ここから先は、気持ちを切り替えて、テクニカルスキルの高い部下とビジネスコミュニケーションで向き合い、上司として成長を援助するのも上司のスキルの見せどころです。新入社員や部下と接する時は、教育担当者の指導スキルは後々の相手のビジネススキル面での成長に影響することを考えながら接しましょう。

3つのポイント

1 部下のテクニカルスキルが高くてもコミュニケーションスキルはリードしていこう!
2.部下のクセも自分のクセも、実は、教育担当者の影響大!
3.部下の異変に気づけるように、話やすい環境をつくりましょう。

悩むあなたへのアドバイス

部下でお悩みのあなたへのアンサー
☑むやみやたらと部下を自分の価値観でメンタル操作しない
☑テクニカルスキルが高い部下でもビジネスコミュニケーションスキルが高いとは限らない
☑優秀な上司は、部下が相談しやすい環境づくりの整備から

上司でお悩みのあなたへのアンサー
☑カッコイイ上司も素敵だけれど、安心できる上司も素敵
☑自分も新しいスキルをマスターするのに時間がかかるように上司にも学びの時間が必要
☑日ごろから上司に相談できる環境づくりコミュニケーションを心がけましょう

問題を後回しにしていませんか?

社会人として会社のルールやあり方を上司から注意されて守ることは大切です。しかし、「本当にこれでいいのか?」と思う事は、しっかり問題提起できるように正しいビジネスコミュニケーションスキルを身につけましょう。ビジネスシーンでのコミュニケーションは部下や上司に好かれる事が目的ではなく、信頼関係を構築する事が目的です。

問題を解決するためには、周囲を考えたことに特化した「本音コミュニケーションのスキル」が有効です。参考:本音コミュニケーションについては、著書仕事は人間関係が9割」第5章に詳しく書かれています。

 

[文]宮本 実果 [編集] サムライト編集部