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履歴書の読みやすさは転職の成否を分ける
転職活動をするとなると、避けては通れない履歴書の作成。学歴や職歴だけならともかく、長所や短所、志望動機を書くとなると、一定以上の分量の文章を書かなければなりません。このときのポイントが文章の読みやすさです。
どんなに立派な長所があっても、どんなに熱のこもった志望動機を書いていても、読みにくい文章で書かれた履歴書は相手に伝わりません。最悪の場合、読まれないことすら考えられます。必然的に書類選考の時点で不採用となり、転職は失敗してしまいます。ここではそんな事態を回避するために、「読みやすい文章」の書き方について解説します。
「読みやすい文章」とは何か?

そもそも「読みやすい文章」とはどんな文章を指すのでしょうか。ここでは「相手を大切にした文章」「サービスの行き届いた文章」という2つの視点から解説します。
●「相手を大切にした文章」
読み手にとって読みやすい文章とは、自分のことを大切にしてくれている文章です。例えば読み手が一般的な小学生の場合、専門用語や難読漢字ばかりの文章は、内容がどんなに素晴らしくても伝わりません。
転職の書類選考で言えば、事務畑出身の読み手に対して、エンジニアにしかわからないような専門用語や表現を多用してしまうと、これも伝わりません。「相手がわからないのが悪い」と文句を言うのは簡単です。しかし相手の気持ちになって行動するのは、組織の一員として必要不可欠な態度です。これができない人間を不採用にするのは、合理的な判断でしょう。
では「相手を大切にした文章」を書くにはどうすればいいのでしょうか。具体的なテクニックについては後述しますが、テクニックよりも重要なのは「相手が大切にしていることを、自分も大切にする」という姿勢です。例えば読み手が中高生の場合、彼らが大切にしているのは緻密な論理よりも直感です。
したがって中高生の読み手に古城の素晴らしさを伝える時は、城の歴史を長々と説明するよりも「総勢10万の軍勢が、この城を舞台に血みどろの戦いを繰り広げた!」というような、「ヤバイ」「スゴイ」「カッコいい」と思える文章にする方が伝わりやすくなります。逆に歴史好きの大人や、専門家に対しては、できるだけ客観的で論理的な文章にする方が「相手を大切にした文章」に近づくでしょう。
本当の意味で読みやすい文章を書くには、読み手の経歴や好み、価値観などを熟知しておく必要があります。親しい間柄の文通やメールのやり取りが読みやすく、伝わりやすくなるのはこのためです。
とはいえ同じことを転職希望先の、顔も知らない書類選考担当者に対してできるはずもありません。だからこそ綿密な企業研究・業界研究によって相手が大切にしていることを調査し、それに合わせた文章にする必要があるのです。
●「サービスの行き届いた文章」
考え方の面からの視点といえる「相手を大切にした文章」に対して、「サービスの行き届いた文章」は技術的な視点です。サービスの行き届いた文章とはすなわち、読み手がストレスを感じないよう配慮された文章を指します。
例えば論理的な飛躍のある文章は、読み手自身が改めて論理の道筋を作らなければならないため、読み手はストレスを感じます。あるいは狭いスペースに言いたいことを「あれもこれも」と詰め込んだ文章も、読み手からすると「結局言いたいことはどれだったのか?」と混乱を招く危険があります。
こうしたストレスを排除するための配慮は、ときに「小手先」と言われがちです。確かに文章は内容が重要です。本来語るべき価値のない内容は、いくら技巧を凝らしたところで採用を勝ち取れるような文章にはなりません。しかしどんなに素晴らしい内容でも、「小手先」の基礎ができていなければ伝わりません。そして少なくとも転職の履歴書においては、伝わらない文章に価値はないのです。
以下では「内容は立派でも、伝わらない文章」ではなく「サービスの行き届いた文章」にするための、誰でも取り入れやすい4つの基本を紹介します。ぜひ自分の文章のブラッシュアップに役立ててください。
「サービスの行き届いた文章」のための4つの基本

●「なぜ」で論理を整える
「なぜ?」という問いには、ある結論の論理的根拠を追求する力があります。この問いに答えるためには理由を用意しなければならず、その理由は結論と論理的につながっていなければならないからです。
したがって自分が考えた自己PRや志望動機に対して「なぜ?」と問い続ければ、自己PRや志望動機の論理を明確にし、整えることができます。
このとき大切なのは「そういうものだから」と妥協をしないこと。確かに自分はそれで納得できるかもしれませんが、履歴書を読む赤の他人は理解してくれません。論理的な文章にするために、もうこれ以上理由が見つからないというところまで「なぜ?」を繰り返しましょう。
●「言いたいこと」を厳選する
論理的につながっているからといって、あれもこれもと言いたいことを盛り込むと、「絶対に言いたいこと」が「ちょっと言っておきたいこと」に紛れてしまいます。これを防ぐには、思い切って「絶対に言いたいこと」だけに絞って書かなければなりません。履歴書の場合は限られたスペースに文章を納めなくてはならないため、より一層言いたいことを厳選する必要があります。
例えば「マネジメント能力がある」という自己PRをする根拠として、3つのエピソードを用意したとします。せっかく用意したのだから全部文章に盛り込みたいという気持ちもわかります。しかしぐっと我慢して「最もマネジメント能力があるとアピールできるエピソード」を選び出し、履歴書にはそのエピソードだけを書くようにしましょう。不要なものは省き、読み手がすんなり読めるものだけに絞り込む。これが「サービスの行き届いた文章」の基本です。
●「修飾語」はほどほどに
不要なものは省き、読み手がすんなり読めるものだけに絞り込む。これと同じことが修飾語にもいえます。たくさん説明したいからと、思いつくままに修飾語をつけてしまうと、文章の構造がぼやけて読みづらくなってしまうのです。例えば次のような文章は、読みやすいでしょうか。
1989年の大阪に、会社員の父と専業主婦の母の間に生まれ、長男気質で5つ上の兄と真ん中の子供ならではの一風変わった性格の4つ上の姉の下に育った私は、ひどく神経質な子供だった。
確かに「1989年〜育った」までの修飾部で、「私」の家庭環境はよくわかります。しかし修飾部があまりにも長すぎます。主語の「私は」にたどり着いた頃には、読み手は「1989年の大阪に生まれ」という冒頭の内容を忘れ始めているでしょう。
これを防ぐには「絶対に言いたいこと」だけに絞り込むか、文章を短くして主語と述語の構造が曖昧にならないように工夫する必要があります。例えば以下のような書き方です。
私は1989年の大阪に生まれた。家族構成は会社員の父、専業主婦の母、兄と姉。5つ上の兄は長男気質で、4つ上の姉は真ん中の子供ならではの一風変わった性格の持ち主だった。そんな兄姉の下で育った私は、ひどく神経質な子供だった。
こうするとどれが主語で、どれが述語かがわかりやすくなるため、読み手のストレスも軽減できます。
●「接続詞」を効果的に使う
接続詞は使い方を間違えると読み手の混乱を招きますが、効果的に使うと格段に読み手のストレスを減らすことができます。特に「列挙の接続詞」は、共通点や類似点のある事柄をわかりやすく順序づけて説明できるので、非常に便利です。列挙の接続詞とは例えば次のようなものを指します。
1.第一に、第二に、第三に
2.最初に、続いて
3.まず、次に、さらに
1に関しては接続詞以下に続く内容に時間的順序性のないものにしか使えず、2に関しては時間的順序性があるものにしか使えませんが、3に関してはどのような場合にも使うことができます(石黒圭著『文章は接続詞で決まる』より)。
こうした接続詞を効果的に使うと、接続詞が「これからこういう内容を書きますよ」という予告の役割を果たしてくれます。これが読み手の理解をスムーズにし、文章を読むときのストレスをより小さくしてくれるのです。『文章は接続詞で決まる』には接続詞から文章を組み立てる方法なども紹介されているので、興味のある方はぜひご一読ください。
文章や言葉は伝わってなんぼ

「胸を張れる実績がある」「誰にも負けない熱意がある」「だから小手先の文章術なんて関係ない」そう考えるのは自由ですが、残念ながら文章や言葉は伝わってこそ意味があります。
読みにくい文章には、立派な実績や燃えさかる熱意を、全く価値のないものに変えてしまう危険さえあるのです。だからこそ履歴書の読み手を大切にし、ストレスなく読める文章にすることが重要です。くれぐれも伝えることをさぼらず、内容と同じくらい文章にもこだわるようにしましょう。
