無駄な勉強は今すぐやめよう!科学が明らかにした「意味のある学習法」

「いくらやっても覚えられない」のは学習法のせい?

資格の勉強やセミナーの内容、社内研修や日々の仕事で学んだこと……社会人として活躍し続けるためには様々な勉強が必要で、かつそれらを記憶に定着させ、役立てなくてはなりません。しかし「いくらやっても覚えられない」「肝心なときに思い出せない」という悩みを抱えている人も、多いのではないでしょうか。

ひょっとするとその原因は間違った学習法にあるかもしれません。ここではワシントン大学心理学部教授らによって書かれ、米アマゾン「教育 心理学部門」で第1位に輝いた『使える脳の鍛え方 成功する学習の科学』(NTT出版、依田卓己訳)を参考に、科学的に意味のある学習法を紹介します。

「学習法の常識」はウソだった!

あらゆる分野の技術や知識を学ぶ手段として好んで用いられる「テキストの再読」と「集中練習」は、極めて非効率だ。引用:前掲書p9

私たちは小学校から大学に至るまで、勉強と言えば「テキストの再読」と、覚えるまで一つのことを集中して勉強する「集中練習」だと教えられてきました。しかし『使える脳の鍛え方 成功する学習の科学』(以下、『使える脳』)はこの方法について一貫して否定的な態度をとっています。というのもテキストの再読と集中練習は確かに比較的早くに学習内容を覚えることができますが、同時に同じくらい早く忘れてしまうからです。

例えば資格試験の前日に徹底的にテキストを読み込み、丸暗記したとしましょう。確かに資格試験には合格するかもしれません。しかし肝心の資格に基づく技術や知識を実際に使おうとしたときには、すでに必要な知識は頭の中に残っていないのです。

こうした勉強法で記憶が定着しにくいという事実は科学的に証明されていますが、わざわざ例をあげずとも心当たりがある人は多いのではないでしょうか。

以下ではテキストの再読や集中練習、つまりただ繰り返すだけの学習法ではなく、科学的に「意味がある」と認められた学習法を4つ紹介します。『使える脳』で解説された内容に加え、社会人がこれらの学習法を取り入れる際のアイディアも提案しています。ぜひ参考にしてください。

テストを学習ツールにする「想起練習」

くり返し想起すれば、知識と技術が記憶に深く根づき、反射的に呼び出せるものになって、考えるまえに脳が反応する。引用:前掲書p35

1つ目の学習法は「想起練習」です。この学習法の典型は、私たちの学生時代の苦悩の種「テスト」です。テストの一般的な役割は、学力測定や成績をつけるためです。しかし『使える脳』はこれを学習ツールとして活用すべきだといいます。

というのもテキストをただ見直すだけの学習法に比べ、テスト(=過去の学習内容を記憶から引っ張り出す想起練習)の方が圧倒的に記憶への定着率が高いことが、実験によって証明されているからです。

社会人の場合、学生と違って教師にテスト問題を作ってもらうわけにはいきません。もちろん市販の問題集を活用したり、自分で問題を作ったりすればより効果的です。しかし手軽にテストができないケースもあるでしょう。

そのような人は、テキストやレジュメをコピーし、大事な単語や概念などを修正液などで消して即席のテストを作ってしまいましょう。問題を解くのに比べれば効果は劣りますが、単純なテキストの読み直しよりは効果が期待できるはずです。

忘れた頃に繰り返す「間隔練習」


これ以降で紹介する3つの学習法は、想起練習と組み合わせることによってより記憶の定着を促します。そのうちの1つ目が間隔練習です。この学習法は一度学習してから適切な間隔を空けて再度学習することで、記憶の定着を促すというものです。

私たちの脳は記憶を定着させる際に「統合」というプロセスを踏みます。このプロセスで私たちは一度学んだ内容に意味を与えつつ、すでに覚えている内容と一度忘れてしまった内容を関連づけて記憶を強化しているのです。そのため間隔練習をするときは、学習内容を少し忘れた時期に実施するのが効果的です。

忙しい社会人は下手をすると「学習内容を少し忘れた時期」には、すでに間隔練習についても忘れている可能性があります。これを防ぐにはスケジュール管理アプリを使って、ちょどいい頃合いに「○月のセミナーの間隔練習」などと予定を入れておけばいいでしょう。

数日前にアラートも設定しておけば学習の準備も万端にできます。このスケジュールに紐づけて想起練習の考え方に基づいたテストを用意しておけば、2つの学習法の相乗効果が得られます。

記憶を統合する「交互練習」と「多様練習」

続いて紹介するのが異なる内容を交互に行う学習法「交互練習」です。1978年に8歳の児童を対象に行われた、玉入れの実験を紹介しましょう。実験チームはこの児童たちを2つのグループに分けました。1つはバスケットから90cm離れた場所から延々と練習をするグループ。もう1つは60cmと120cmの地点両方から練習をするグループです。

実験開始から12週間後、すべての児童に対して90cm離れた場所から玉入れのテストをしたところ、なんと60cmと120cmの地点両方から練習をしたグループの方が圧倒的に好成績を残したのです。このことから同じことを繰り返す集中練習よりも、交互練習の方が学習効果が高いことがわかります。

交互練習をより複雑化したのが、複数の内容をランダムに行う学習法「多様練習」です。玉入れの実験でいえば、60cmと120cmに限定するのではなくあらゆる距離からランダムに練習した場合、多様練習になります。

なぜ交互練習と多様練習が集中練習よりも効果があるのでしょうか。それは違う種類の練習を積むことで、脳の様々な部分が活性化し、記憶を統合するよう働くからだとされています。このときのポイントは、1つの学習内容が完成する前に別の学習内容に移行することです。

しかしこれは私たちの直感に反しています。というのもまだ完全に習得しないうちに別の学習内容に移行してしまうと、内容がこんがらがって覚えにくいように感じるからです。

確かに交互練習を行ったグループが、集中練習を行ったグループに対して初期の段階では伸び悩んだという実験結果も出ています。ところがこの実験でも最終的には交互練習を行ったグループが追い越したという結果が示されているのです。科学的事実は私たちの直感を否定している、というわけです。

実社会における交互練習と多様練習は、セミナーや研修などで学習した内容を実際に生かすことです。学習内容を制御してくれる上司やメンターの管理下で行えるのが交互練習で、そうでない場合が多様練習となるでしょう。

失敗を恐れず、練習を繰り返そう


人間は忘れる生き物です。忘れて、そして想起して必要な記憶だけを定着させ、記憶を効率化しています。「忘れる」という前提に立てば、私たちが失敗するのはある意味しかたないことだとわかるはずです。重要なのは失敗しないことではなく、失敗から学びながらここで紹介したような学習法を積み重ねていくことです。

そうした失敗を恐れずに練習を繰り返す姿勢が着実に記憶を定着させ、個人の成長に繋がっていくのです。今回参考にした『使える脳』にはここで触れた学習法以外に、さらに記憶を定着させる学習法や能力を伸ばす学習法などについても解説されています。興味を持った人はぜひ掘り下げてみてください。

参考文献『使える脳の鍛え方』