近年、大企業を中心に徐々に浸透している「オープンイノベーション」の取り組み。これは、自社の垣根を超えて組織・機関などと協力関係を築き、新たな価値を創出、事業を加速させる一連の活動を指します。
国内企業や大学・研究機関と提携するケースが目立つものの、なかには国境を超えて国外企業と提携するケースも。互いの優位性をかけ合わせることで、これまで世の中になかった革新的なサービスや製品が誕生することも多く、今後の事業発展に欠かせない戦略とも言えます。
本記事では、ILS (イノベーションリーダーズサミット) 実行委員会、及び経済産業省 新規事業創造推進室が2020年9月に発表した「イノベーティブ大企業ランキングTOP30」をもとに、新規事業開発に積極的な大手企業1位〜5位までのオープンイノベーション事例を探ります。
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【5位:ソニー】独自プログラムで実績も豊富
上述したイノベーティブ大企業ランキングで5位に入賞したソニーは、スタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムとして、2014年に「Sony Startup Acceleration Program」をスタート。2021年8月現在までに、115件の事業化を支援しています。結果的に、80件以上の事業化を検証、17の事業を創出しました。
当初は、自社内における新規事業の創出に取り組んでいただけでしたが、共通の課題をもった社外からの問い合わせが多数あったために、2018年10月から、社外向けに有料で提供できる新規事業創出プログラムに発展させたそうです。
具体的な共創事例をご紹介すると、ソニー・東京大学・JAXAがコラボレーションした「宇宙感動体験事業」の創出が、現在進行中とのこと。ソニーのカメラ機器を搭載した人工衛星を開発し、リアルな視点での宇宙空間の映像を人々に届けることを目指しています。
また、他社の新規事業創出支援事例としては、京セラとライオンが共創した子どもの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi」の開発も。ブラシの振動による骨伝導技術により、歯磨き中に音楽が聞こえるという新たな価値をもつ商品です。クラウドファンディングでの反響を受け、2020年12月に京セラにて正式に事業化が決定しています。
同プログラムでは、オープンイノベーションをテーマにしたカンファレンスの開催や事例の発信も、積極的に行われています。
【4位:JR東日本】スタートアップと共創し、課題解決へ
ランキング4位に入賞したJR東日本では、2018年にJR 東日本スタートアップ株式会社を創業。自社との共創による社会課題の解決や豊かで幸せな未来づくりを目指し、毎年「JR東日本スタートアッププログラム」を実施するほか、スタートアップへの投資やJR東日本のリソース・アセットを利用した実証実験、外部の専門家によるサポートなど、幅広い活動を展開しています。
過去数年間で、多くの実証実験も行われており、たとえば、AI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」の特許技術をもつサインポスト株式会社との共創では、赤羽駅のホームにこのレジを組み込んだポップアップストアを展開。顧客が棚から取った商品をAIが把握することで、自動的に購入商品の合計額が算出されるという、これまでにない体験を提供しました。
また、コロナ禍の開催となった2020年のスタートアッププログラムでは、時代の流れにマッチした案も採用されています。株式会社ABALとの共創では、コロナ禍により地方への訪問や名産品などのPR機会の減少を補う目的で、観光体験をVRで提供する試みが予定されています。地方の名産品などを扱う実店舗で、観光地や名産品といった旅のダイジェストをVRによって体験し、それが購買につながるかどうかを検証するそうです。
【3位:ソフトバンク】共創する法人パートナーを積極募集
ランキング3位に入賞したソフトバンクでは、「新しい時代の、新しいサービスは1社だけでは生み出せない。ソフトバンクもひとりの乗組員である」との思いから、イノベーションの実現を目指す企業が連携し、共創する法人パートナープログラム「ONE SHIP」を2019年2月より展開、自社のパートナーとなる法人をHP上で募集しています。パートナーの種類は、「ソリューション」「セールス」「イノベーティブ」の3種類で、「日本国内でのビジネス展開を希望する法人格であること」等の必要条件を満たすことで、無償でパートナープログラムに参加可能。現在のパートナー企業は、ONE SHIPのHPから検索できます。
実際の共創事例も、すでに生まれています。たとえば、ONE SHIPの情報にアクセスできるポータルサイトを制作するにあたり、ソフトバンクでは、パートナー企業の一社である株式会社サイト・パブリスが開発したCMSを利用して、サイトを制作。この共創を皮切りに2社では、新たなプロジェクトも開始しました。
また、ソフトバンクの汐留本社にある「5G×IoT Studio」汐留ラボの展示・体験ルームでは、「ONE SHIP」のソリューションパートナー限定で、同スタジオへの展示を公募。その結果、NFC(近距離間無線)専用端末「CUONA」を提供する株式会社コノルが選ばれ、製品の展示だけでなく、お台場にある検証ラボで5Gでの実証実験も進める予定とのこと。
まだ、始まって日が浅いプロジェクトということもあり、大きな事例は見られなかったものの、ソフトバンクでは500社のパートナーを集めることを目標に、精力的に活動を展開しています。
【2位:トヨタ自動車】独自のプログラムで5社を選定
ランキング2位に入賞したトヨタ自動車では、サービスの共同開発を目的に、2016年12月からオープンイノベーションプログラム「TOYOTA NEXT」を開始。その結果、5つの企業を選択としたとして、HP上で発表しました。
たとえば、不正アクセス検知技術を持つ株式会社カウリスとは、同社の「リスク検知サービス」を活用したコネクティングカー(インターネットへの常時接続機能を具備した自動車)等のモビリティーサービスへの応用、セキュリティー強化を目指すとのこと。
また、総合IT企業の株式会社エイチームとは、同社のWEBマーケティング技術と自動車関連サービスを活用した、中古車ビジネスにおける顧客の利便性・安心感を高めるサービスの開発に取り組むそうです。
ただ、ランキングでは高い評価を受けたトヨタ自動車ですが、上位に入ったそのほかの大企業に比べると、発信頻度や情報量が著しく低い様子が見られます。2016年の発表以降、プロジェクトの進捗は発表されておらず、もしかすると何かしらの要因でプロジェクトが停滞している可能性もありそうです。
【1位:KDDI】スタートアップとの共創で事業創出へ
堂々のランキング1に入賞したKDDIでは、スタートアップとの共創により事業創出を目指す「KDDI Open Innovation Program」を展開。企業間共創により新たな価値を創造する事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」のほか、スタートアップへの資金提供も実施しており、2021年8月現在、99社への出資実績があります。
ムゲンラボの活動もユニークで、2021年は2つのプログラムを実施中です。1つは、KDDIのパートナー連合56社が提供するさまざまな課題やアセットを通じて、スタートアップの事業を支援するプログラム。HPには、関西電力、西武鉄道、マイクロソフトなど誰もが知るような大企業の名前がズラッと並び、それぞれの課題とアセットの詳細が掲載されています。
もう1つは、パートナー連合2社以上で策定された特定の事業テーマに基づいて、スタートアップと共に新規事業創出を目指す事業共創プログラム 「∞の翼 (ムゲンノツバサ)」 です。2021年は、「新たなコンテンツマーケティング手法の創出」と「新たなアニメ・マンガIPビジネスの創出」の2つの事業テーマが掲げられています。
さらには、東京大学、経営共創基盤、KDDI、東京大学エッジキャピタルパートナーズ、松尾研究所の5者で、起業家創出の加速を目的に「アントレプレナーシップ教育デザイン寄付講座」も創設したばかり。あらゆる角度で、新規事業創出に注力している様子がうかがえます。
今やオープンイノベーションの機会は、どこにでもある
今回、ご紹介した5社以外にも、大企業、大学、研究機関といった垣根を超えて、さまざまなコラボレーションが日々生まれています。
オープンイノベーションは無限の可能性を秘めている一方で、ハンドリングが難しく、成功率が低い一面もあります。しかし、SDGsの17項目目に「パートナーシップで目標を達成しよう」とあるように、世界的にオープンイノベーションが推奨されている今、もはや自社のノウハウやアセットだけでは課題解決が難しい時代に差し掛かっているのも事実。
今回ご紹介したような大企業が、積極的に他社とのパートナーシップを求めるように、今やオープンイノベーションの機会は、身近なところにも広がっています。スタートアップであろうと、中小企業・大企業であろうと、オープンイノベーションを視野に入れて今後の事業戦略を練っていくことで、自社だけでなく、社会全体の可能性が広がっていくのではないでしょうか。
[文]小林 香織 [編集]サムライト編集部