ローカルビジネスのカギ「元気な商店街」の秘密を探れ!

「元気な商店街」の秘密って何だろう?

「地方創生」や「ローカルビジネス」は今後の日本において重要なキーワードです。転職や企業を考えている人にとっても知らないでは済まされない分野になるでしょう。

商店街は日本の小売商業の雇用・消費の概ね4割を担う存在でありながら、その7割以上が「衰退」か「やや衰退」という状況です。しかし全国には数多くの「元気な商店街」があります。ここでは東京の「元気な商店街」にスポットを当てて、元気の秘密と商店街だからこそできることについて考えていきます。

地元でお金が回る仕組みを作れ!ー烏山駅前通り商店街

●スタンプ事業のパイオニア

渋谷や吉祥寺などへのアクセスも良く、烏丸寺町には寺院が立ち並ぶ烏丸駅周辺。烏丸駅前通り商店街では昭和40年から商店街内で集められるスタンプを利用した、スタンプ事業を運営しています。

「烏丸方式」と呼ばれる同商店街のスタンプ事業の特徴は「町全体で使える」という点です。商店街内の金券としてはもちろん、銀行の預金としても使用可能。駐輪場券・旅館宿泊券との交換もできるほか、通常は100円につき1枚のスタンプを2倍・3倍発行するセールや、通常はスタンプの冊子1冊500円として使えるところを1000円にするなど、スタンプに紐付けたセールも頻繁に開催しています。

●「コミュニティポイント」というシステム

同商店街は「商店街ICカード」のパイオニアでもあります。町の清掃などの地域貢献に加算される「ボランティアポイント」、レジ袋を使わなかった場合の「ノー包装ポイント」、商店街内の駐輪場を利用するともらえる「マナーポイント」などがこのカード1枚で貯められ、350ポイントにつき500円の現金として使える仕組みです(これらのポイントを「コミュニティポイント」と呼んでいます)。

コミュニティでの行動が顧客にとってインセンティブとなり、商店街が生活の中に密接に関わってくる。だからこそ烏丸駅前通り商店街には人が集まるのです。

空き店舗をどう活用する?ー深川資料館通り商店街

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●江戸文化×現代アート

深川資料館通り商店街には江戸時代の街並みを再現した展示室などを持つ「深川江戸資料館」と「東京都現代美術館」があります。昔ながらの呉服屋や豆腐屋、石屋などの中にお洒落な古書店や喫茶店などが並ぶ、過去と現在が絶妙に入り混じる空間です。近年では商店街と東京現代美術館のコラボも行われており、商店街をハブとして住民と美術館がつながっています。

●空き店舗が新たなコミュニティとなるー「深川いっぷく」

「シャッター通り」と言われるように、商店街にとって空き店舗の活用は重要な問題です。深川資料館通り商店街では、この空き店舗を利用して新たな町のコミュニティを作り出しています。

「深川いっぷく」はその代表的な試みです。旧薬局店舗を活用し、調剤室にギャラリーを設けるなどの試みが評価され、「第3回東京商店街グランプリ活性化事業部門」でグランプリを受賞しました。現在は宝理仏蘭西菓子店が運営を引き継ぎ、美術関連のイベントはもちろん、写真教室や将棋教室、寄席など新たなコミュニティを生む場として活用されています。既成の概念にとらわれない「場」の活用が、実を結んだ一例と言えるでしょう。

「行きたいまち」を作れ!ー板橋イナリ通り商店街

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●小さな商店街が地域をつなぐ

板橋イナリ通り商店街は全長100m、営業店舗数25店舗の小さな商店街です。かつては町工場が軒を連ねる工業地帯であったこの街も、今は工場の閉鎖によって来街者が減少し、そこに後継者難が重なって商店街の空き店舗が徐々に増えています。しかしそれでも同商店街は諦めることなく、地域の魅力を伝えるためハブとしての役割を模索する道を選びました。それが「いたばしiiプロジェクト」です。

●「いたばしiiプロジェクト」

iiプロジェクトの2つのiは「行きたいまち」のiであり、「板橋区・稲荷通り」のiです。「コン太村」は空き店舗を活用して「昭和レトロゲーム博物館」「駄菓子屋」「お休み処」「情報発信スペース」で構成される地域ふれあいステーション。ノスタルジックな設備で話題になり、マスコミからの取材も多く、近隣の子供達のコミュニティスペースとして支持されています。

開店当初は東京都からの補助金に依存していましたが、オープンから2年と9ヶ月経った平成23年11月には自立自営の店舗として収益化を成功させました。同プロジェクトはこのように地域コミュニティの核を商店街をハブとして、企業、町会、学校が連携して作り出す試みを実践しています。板橋イナリ通り商店街は「ポスト商店街」の形を示してくれる商店街の1つです。

ITで商店街と地域をつなげ!ー荻窪・教会通り商店街

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●「ソーシャルな商店街」

ITテクノロジーを最大限活用して「ソーシャルな商店街」を作り上げた荻窪・教会通り商店街も、そんな「ポスト商店街」の1つです。商店街は良し悪しは別として、「古い組織」。ITなどの新しいものを導入するためには、常にその古さが障壁になります。ITを導入しても結局使いこなせていない商店街がほとんどです。

しかし荻窪・教会通り商店街では「web委員会」を発足させ、すでに10年以上も委員会主導のパソコン指導を行ってきました。このたゆまぬ努力がどう商店街を「ソーシャルな商店街」たらしめているのです。

●商店街と地域、人と人をつなぐIT活用法

同商店街では公式ホームページの作成のみならず、各店舗それぞれがTwitterやFacebookを活用しています。しかもセール情報や営業時間を知らせるといった事務的な使い方ではなく、天気や季節感など「商店街の呼吸」とも言える温かみのある文章をそこに載せているのです。

SNSのみならずYouTubeやUstreamなどの動画メディアも使いこなし、アットホームな雰囲気満載の商店街の1分CMや、地域イベントの模様を配信しています。

「ハイテクになるにつれて、私たちはよりハイタッチになっていく必要がある」と言うのは同商店街のIT基盤を気付いたメンバーの1人です。「ハイテクになったから煩わしい人間関係や顔の見える関係は不要だ」と考えるのではなく、だからこそより顔の見える関係を深く結んでいくことが重要。ハイタッチとはそういう意味です。

いま、もう一度「商店街」の話をしよう。

●なぜ今「商店街」なのか?

2011年の東日本大震災以来、日本ではそれまでの行き過ぎた個人主義を反省し、人と人とのつながりや人と地域のつながりを問い直す動きがあちこちで生まれています。商店街は良いものも、悪いものも含めて人と人、人と地域のつながりが溢れている場所です。

筆者は地元の商店街をよく利用しますが、魚屋の大将は筆者の好みの魚を知っていて、本屋の主人は面白そうな新刊が入荷すると黙って取り置きしてくれています。こうしたきめ細やかな対応は大手にはできません。これは全国どの商店街にも共通する魅力ではないでしょうか。

その一方で閉業する店舗も多く、「商店街」自体が機能不全を起こし始めているのはすでに触れたとおりです。

●ローカルビジネスと地方創生と商店街

補助金制度のあるビジネス全般に言えることですが、行政に依存した運営をしている限りはそのビジネスに未来はありません。補助金制度は必ず廃止されるからです。これは莫大な商店街関連予算(平成24年度は42億5000万円程度)が用意されている東京都の商店街も例外ではありません。

板橋イナリ通り商店街の「コン太村」のように行政から自立し、自己資本で経営していけるような発想や仕組みが今後求められるでしょう。これからの商店街はこれまでの商店街ではない、「ポスト商店街」を模索していかなくてはならないのです。

しかし、それが成功すれば「商店街」を中心とした人と人とのつながりや人と地域のつながりを新たに築くことができるはず。地域創生が叫ばれる今は、もう一度「商店街」について考え直す絶好のチャンスなのです。

参考文献『TOKYOキラリと光る商店街
Career Supli
あと1〜2年以内に対策をとらないと手遅れになってしまいそうな商店街も多く存在しますので喫緊の課題といっても良いでしょう。外の人をどれだけうまく取り込めるかがポイントになりそうです。
[文]鈴木 直人 [編集] サムライト編集部