地方の工芸品がアツい。現代人に売れる商品へとリノベーションするその手法とは?

注目が集まる地方の工芸品

来日観光客の急増と共にインバウンドビジネスが盛り上がっています。その流れに乗りこれまで埋もれていた地方の工芸品、職人の手作りの品に対する注目が集まっています。

これまでも地方の工芸品を発掘し、リノベーション(手を加えてよくすること)の試みは数多くありました。ただ、それらリノベーションでの成功例は決して多くないのが現実です。

しかし、成功例も出てきています。それが新潟県三条市に拠点を置く株式会社タダフサの庖丁シリーズ「庖丁工房タダフサ」です。この商品の企画支援を手がけたのは奈良拠点の中川政七商店です。

中川政七商店は伝統工芸品をベースにした雑貨を販売し、また工芸品の中小企業のコンサルティングも行っている企業で、数々の工芸品のリノベーション成功実績を持っています。

一体、どのような方法で現代の消費者のニーズに合う形に工芸品をリノベーションしているのでしょうか。

本稿では、中川政七商店社長の中川 淳氏の著書「経営とデザインの幸せな関係」「小さな会社の生きる道」を参考に、庖丁生産のタダフサの事例をメインにご紹介します。

ポジショニングが重要

株式会社タダフサは古くより鍛冶の町として知られる新潟県三条市に拠点を構えています。
ただ、歴史ある、伝統ある庖丁だからといってそれ自体が消費者に刺さる売りになるわけではありません。中川氏はポジショニングの重要性について言及しています。

庖丁業界の国内の主な競合は職人が多くて高級感のある庖丁を生産する堺、庖丁を大量生産する工場の関、問屋の木屋などです。

タダフサ拠点の三条は職人の堺と工場の関の間の「工房」サイズの生産者が多いイメージです。この「工房」と言うポジションをタダフサのブランディングに活用します(※具体的なブランディング策は後述します)

消費者が選びやすいように商品ラインナップを絞り込む

#工場見学 #タダフサ #包丁 #三条 #新潟 #パン切り包丁ゲット

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タダフサには900種類以上の庖丁ラインナップがありました。これだけ多いと消費者はどれを選べばよいのか迷ってしまいます。そこで、中川氏は一般消費者向けにシンプルな庖丁シリーズ「庖丁工房タダフサ」の商品開発を提案。

商品開発にあたっては庖丁を買う2つのタイミングとそこで提案すべき庖丁を想定。これまでの専門的な出刃(魚をさばく用)、柳葉(刺身用)といった商品名も一般消費者向けにわかりやすく改名しました。

また庖丁のデザインにも手を加えました。従来、派手なデザインとごつめの硬派なデザインの両極端に偏っていたデザイン。女性が使用しても男性が使用しても似合う中性的なデザインを採用しました。

「初めて買う=初心者用」

・万能 中
・万能 小

「ステップアップ用」

・万能 大
・魚用 大(出刃)
・魚用 小(鯵切り)
・刺身用(柳刃)

話題を呼ぶキラー商品

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さらに、中川氏は商品のラインナップの見直しと共に、話題を呼ぶキラー商品となる「パン切り庖丁」を考案しました。2011年当時、ネット上にはパンについてレビューするパンブロガーが登場したりとパン人気が熱を帯び始めていたのです。

しかし、パンへの注目は集まっているのに、確固としたパン切り庖丁はなかったのです。

タダフサには900種類の庖丁があるにかかわらずパン切り庖丁は1本もありませんでした。中川氏は、その理由をタダフサの営業部長の曽根忠幸氏に聞きました。

回答は、一般的なパン切りは波刃にしているからパンが切れにくい、そのために作っていないとのことでした。しかも、忠幸氏はパンを切る時には普通の刃の庖丁で切っていました。

それでは、パン切り庖丁の刃として普通の庖丁の刃を採用し、先端部分のみ波刃にすることでバゲットのような固めのパンでも取っ掛かりをもって切れるパン切り庖丁があれば便利ではないかと中川氏は考えました。

そして、切れ味良くかつパン屑も出ないパン切り庖丁を考案したのです。

工芸品リノベーションのノウハウ

中川氏はこれまでのコンサルティングの経験をもとに工芸品をリノベーションする方法を提示しています。志、ストーリー、ディレクションの3つの項目で商品を企画します。

・志

「問題解決」消費者が現状の商品に対して持っている不満を解決すること
「欲望」素材の良さを伝えたいなど「自ら~したい」という思いのこと
「インサイト」消費者の潜在的な欲求や欲望のこと

・ストーリー

商品の根幹に筋の良いストーリーがあると消費者の共感を集めることができます。ストーリーを作るためには資料館に行くなどして会社や商品に関連した関連した情報を収集し、1つのストーリーに仕上げます。

・ディレクション

まず、すでに市場に出回っている商品を調べて、その商品の構成要素をリサーチします。たとえば、商品が手帳であればサイズ、価格、カバーの種類、栞や右下のギザギザの切り取り線といったスムーズに開けるための工夫、ビジネスマン向けか主婦向けかの属性などの構成要素があります。構成要素を徹底的に洗い出し、重要な要素を抽出します。

これら3つの項目を商品コンセプト(20文字程度)やPOPの文章(200~300文字)へ落とし込みます。

3つの項目でパン切り庖丁を企画すると以下のようになります。

・志

パン切り庖丁のキラーアイテムにしたい

・ストーリー

三条は刃物の産地→タダフサには900種類の庖丁がある→パン切り庖丁ではない→家では普通の庖丁で切っているらしい→一般的な波刃のパン切りは「刃がついていない」らしい→ハードなパンもあるので波刃は必要→先端だけ波刃のパン切り庖丁

・ディレクション

男性的でも女性的でもない普通のデザイン

⇒商品コンセプト
職人がつくるパンくずの出ないパン切り庖丁 」

引用:中川淳(2016年)「経営とデザインの幸せな関係」1358[Kindle版] 第3章 商品企画 Kindle位置番号1358

志、ストーリー、ディレクション(言い換えると独自性に相当する)を組み合わせて商品企画とブランドイメージを構築していきます。

ブランディングにつながる商品パッケージへのこだわり

도쿄에서 1년 웨이팅 해야 한다고해서 못사고 , 캐나다 직구로ㅋㅋ물건너온 일본칼????#タダフサ #tadafusa

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商品パッケージに前述のタダフサのポジションである「工房」感ある人のぬくもりが感じられる素朴な段ボール、ハトメ紐を採用。さらに、タダフサは気の利いた仕掛けを庖丁の商品パッケージに盛り込みました。

庖丁は研がなければ切れ味が落ちていきます。しかし、研ぐことに慣れている顧客ばかりではありません。そこでタダフサは研ぐタイミングを説明するリーフレットを入れました。

さらに、リーフレット自体が問診票となっており、段ボールの商品パッケージに庖丁を入れてタダフサに簡単に郵送できます。タダフサで庖丁を研ぎ直した後、送り返してくれるようにしています。

このような顧客へ良い意味での驚きを与えるパッケージと言うのはどこかアップルのiPhoneのパッケージを彷彿させるものがあります。

競合とバッティングしないポジショニング、一貫したぶれないブランドイメージの構築、共感を呼ぶストーリー、顧客視点。これらが工芸品のリノベーションにおいて欠かせない要素だとタダフサの庖丁のリノベーション事例から考察できます。

これは、工芸品だけでなくすべての商品開発においても重要なことと言えるのではないでしょうか。

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いい包丁は何本か揃えたいですよね。
[文・編集] サムライト編集部