移住で失敗したくないなら「クラウドファンディングの数」を見よう!移住と仕事のつなげ方

「移住のリスク」を最小限にするには?

NPO法人ふるさと回帰支援センターの発表によれば、移住の相談に来る人の年齢層は20代から30代の現役世代が45%を占めていることがわかっています。同じ調査では移住相談件数も大幅にアップしています。このような状況で「自分も地方へ移住したい」もしくは「転職を機に地方へ移住したい」と考えている人もたくさんいるのではないでしょうか。しかしそこで頭をよぎるのが「移住のリスク」です。とりわけ「仕事」に関するリスクは無視できません。

今回はこの点について情報発信とクラウドファンディング*で全国各地の地域プロジェクトを支援している、岡田拓也さんにお話を伺いました。岡田さんは実際に地域に足を運び、取材をしながらクラウドファンディングの支援プランを組み立てていくスタイルをとっています。そのため、支援の過程で現地の移住者たちと話す機会も多いのだとか。

地方発のクラウドファンディングという「挑戦」に、地元出身者だけでなくUIJターン者たち移住者とともに取り組んできたからこそ、わかることを語っていただきました。

※クラウドファンディング:インターネットを介して様々な取り組みやアイディアを発表し、それに共感した人たちから資金を募るサービス。

クラウドファンディングと移住者

ーまずは、クラウドファンディングの発起人がどういう出自の人たちなのかをお聞きしてもいいでしょうか。

岡田拓也さん(以下、岡田):出自としては3パターンあります。簡潔にいえば、地元の方とUターン者、そしてIターン者・Jターン者です。それぞれをご説明しますね。

まずはずっと地域にいて「なんとかしたい」と思っている若手ですね。地元内にずっといて、「このままじゃ自分の町がやばいぜ」っていう想いで何か始めた。そんな手探りの状況の中で、クラウドファンディングっていう手法に行き着いて「じゃあやってみよう」っていう人たちです。

次はUターン者です。例えば東京の大学に通って、東京で働いていた。そういう外の視点を持ちつつ地元に帰ってきて、地元を活性化させようと動き始める人達っていうのがクラウドファンディングの発起人にはいます。

最後がIターン者とJターン者です。都市部から地方部に移住するIターン者と、地方部から都市部、都市部から地方の都市部に移住するJターン者は厳密には違うグループですが、クラウドファンディングに挑戦されるときの思いは同じ。すなわち、その土地や自然、人といったモノ・コトが本当に好きだからです。

総じて言えるのは「チャンスが見える人たち」が、ひとつの手段としてクラウドファンディングを利用しているということ。地方には端的にお金がありません。ただし資源は見つけたし、事業化もできそうだ。なんとか支援者も集まっている。そこで最後のお金の部分をどうしようって時に、クラウドファンディングを選択する人たちがいる、というわけです。

「どこにでも移住できるっていうわけじゃない」


ー地元の人やUターンの人はある程度クラウドファンディングのための素地があるわけですが、岡田さんのお話からすると本来外部の人間であるIターンやJターンの人もある程度の素地を作ってからアクションを起こしているのでしょうか?

岡田:そうだと思いますね。大前提として、移住がうまくいく地域と移住がうまくいかない地域というのはあるような気がしているんですよ。ぶっちゃけていうと、どこにでも移住できるっていうわけじゃないと思ってるんです。

つまり、その地域が外からの人たちを受け入れてくれるかどうか、っていうところがすごく重要で。真剣に地域と関わっていきたいみたいな移住をするんであれば、「オープンな移住受け入れ体制」があるようなところに行く方がうまくいくという感覚があります。そして、そういう地域であるほど、クラウドファンディングみたいなチャレンジングなアクションも起こしやすいと感じています。

ー逆に言えばその土壌がないところでクラウドファンディングをやろうとしても、うまくいかない可能性が高いということですか?

岡田:うまくいかない可能性が高いというところまでは言えないかもしれないけれども、地域内での支援者が見つけにくいでしょうね。「あいつ外からやってきて1人で何かやってるよねー」みたいな状況に陥ってしまうこともあり得ます。

「移住受け入れ体制」を見極めるポイント


ーでは数々の地域を盛り上げてきた岡田さんの感覚で「あーここは移住受け入れ体制が整っているなあ」って感じるのはどんな地域ですか?

岡田:実は僕自身も5月から二拠点生活をしているんです。宮崎の新富町っていうところと東京に家があります。その時に感じたことですが、やっぱりいきなり移住っていうのはめちゃくちゃハードルが高いです。なので、実際に行ってみてその土地の環境に肌が合うかという点はすごく重要だと思います。

一般的なイメージで「東北はこうで」とか「南国の宮崎とか高知はこうで」と言うのは簡単です。でもそういうのにいちいち振り回されるんじゃなくて、自分が「ここがいい」って思ったらまず1週間くらいの時間を作って行ってみる。どうやって仕事探そうとか、ネットワークを作ろうとかも関係なく、まず行ってみた方が良いと思います。

そのうえで人に会ったりとか、どんなコミュニケーションができるんだろうとか、スーパーあるのかなとか、そういった「自分はここで生活できるのかな」というところをちゃんと確かめるという順番が良いでしょうね。

あとは地方創生や移住に関連づけたイベントとか講座をやってるかどうかを調べるのもおすすめです。やっぱり頑張ってる地域はそういうことをやってるんですよ。「地域ビジネス講座」とか、「農業ビジネスについて学ぶ」みたいなことを、商工会議所とか僕らみたいなNPOがやっています。官民連携で行政のお金使ってやってる場合もありますよ。

これはつまり、外部から受け入れる動きを具体的に起こしているってことです。その対象者は地域内の人だったりもしますが、全てが外部をシャットダウンしているわけじゃなくて、外部からも参加できるというイベントや講座もあります。それこそ移住受け入れ体制が整っているかどうかを見極める、リトマス紙みたいなものになるんじゃないでしょうか。

ー「オープンな移住受け入れ体制」がないところではクラウドファンディングは難航しやすいとのことでしたが、逆に言えばクラウドファンディングをやっている地域は「オープンな移住受け入れ体制」があると考えることもできますか?

岡田:はい、そんな気はしますね。おそらく閉鎖的なところだと、地域と関連づいたプロジェクトが上がってこないと思うんです。「地域の特産品を東京に売り出したい!」といったプロジェクトは、そういう土壌では上がってこないんじゃないかなと。

クラウドファンディングの数というのは地域から生まれている挑戦の数だと思います。その数が多いってことはそういうアクションを起こしやすいオープンな地域かどうかという、一つの指標になるでしょうね。

移住と仕事をどう考えるか?

ー移住を考えている人にとって、「仕事」の話は非常に重要な論点だと思います。2016年6月に総務省が公表した「移住の実態等を把握するための聞き取り調査」では、相談者の関心事として「住まい」の次に「仕事」が挙げられていました。これを岡田さんはどう考えられますか?

岡田:キャリアアップの移住っていうのも、これからは自然に考えられるだろうと思っています。話はすごく単純ですよ。自分がデザイナーだとしましょう。仮に渋谷でデザイナーをすると、競争率はむちゃくちゃ高いわけです。でも例えば宮崎の片田舎に行くと、デザイナーでウェブもできて、チラシのデザインもできますって言った途端、仕事がいっぱいくるわけですよ。

さらには仕事を生むこともできます。「このパッケージ新しくしませんか?」みたいな話を、野菜の直売所なんかに行って言えたりするわけです。そういうのが今求められてる移住かなあっていう感覚がありますね。

ーそう考えると都会から地方への移住って成功する可能性がむちゃくちゃ高いと?

岡田:むちゃくちゃ高いですね。自分のキャリアの中で「地域の仕事をすることでレベルアップしよう」といった、ちゃんとした狙いを持っていくと成功しやすくなるでしょうね。逆になんとなく移住しても「普通だな」ってなると思うんですよ。おそらく普通に働けてしまうし、普通に生活もできるので、ただ「過ごしやすいところに来た」という感じで終わってしまうと思います。

ー普通に働けてしまうんですか?

岡田:難しくはないと思います。収入は下がるかもしれませんが、働き口はかなりありますから。

ー移住を志す人たちの中でネックになるのが、きっとその「収入」だと思います。収入を減らす覚悟をどこまですればいいのか、それを最低限に抑えるためにはどうすればいいのかって考えてしまうと、二の足を踏んでしまう。

岡田:多くの人にとって、移住すると収入が減るのは間違いありません。そこは自分で徹底的にシミュレーションするしかないですね。

●「攻めの移住」こそが収入の問題を打開する

岡田:ただ打開策はありますよ。キャリアアップの移住や「地域に貢献したい」という想いをもっての移住といった「攻めの移住」をする方法です。攻めの移住では、収入よりもその土地との相性やどんな地域なのかというのがむしろ優先事項になってくるからです。

例えば宮崎の新富町や茨城、宮城など様々な地域で、官民が連携して地域の起業家育成や地域ビジネスの創出を促進しようという動きが始まっています。そういう地域にはチャンスがいっぱいあるんですよ。

果物とか野菜みたいな一次産業や伝統工芸といった宝物がいっぱいある。でもそれをちゃんとビジネスにする人が決定的に不足している。そういうところに、自分のスキルやネットワークをもちこんで移住するっていうのは、地域にとってもプラスだし、その人にとっても事業をひとつ起こすチャンスですよね。

そういう場合は必ずしも「年収が下がる」という議論にはならないと思うんです。ハイリスク・ハイリターンみたいな話なのかもしれないけど、そういう攻めの移住なら収入は大した問題ではなくなるのも確かです。

●地域のキーパーソンとつながる方法

ーそういうチャンスを掴むには、地方創生の窓口に直接アプローチをかけるのがベストの選択肢なのでしょうか?

岡田:それでも構いませんし、地域のキーパーソンのところに行っちゃうのもアリですよね。例えば高知だと株式会社四万十ドラマの畦地履正さんのところに話に行っちゃうとか。地域のスター的な存在になっている人のところに話をしに行く、というアプローチも良いじゃないかと思います。そうすればネットワークも効率的に広がっていきますし。

ー先ほど移住を考えるパターンとしてはまずその土地に行ってみてから、人と繋がって、地域と繋がってという流れがありました。これに対して、そういうキーパーソンから移住を考えていくというやり方もできそうですね

岡田:それはできる思いますよ。地域とか何よりも、この人と一緒に仕事したいとかって理由での移住はアリです。感覚としては移住は転職とさほど変わらないと思っています。時間も空間もみんなが自由になってきた世の中なんだから、面白そうな人が地方にいるんだったらそこに行って仕事すれば良いじゃないか、という。そっちの方がビジネスの可能性も広がります。

二拠点生活のきっかけは「新富町の先進的な取り組み」

ー岡田さんは実際に二拠点生活をしているという話でした。住む場所は他にも選択肢があったと思いますが、なぜ宮崎の新富町なんですか?

岡田:全国でも先進的な取り組みが始まりそうな上に、それをただやるのではなくて、熱い思いをもってやろうとしている方々がいるからですね。

ー「先進的な取り組み」というのは?

岡田:宮崎県の新富町は、宮崎の沿岸部の真ん中あたりにある町で、そこが「こゆ地域づくり促進機構」っていう一般財団法人を立ち上げたんですよ。「こゆ」っていうのは新富町が属している児湯郡(こゆぐん)のことです。このこゆ地域づくり促進機構が、今後お金も使って人材育成もするし、ふるさと納税とかも活用していくし、詳しくはまだ言えないんですが、さらに先進的な取り組みにも力を入れていこうと考えているんです。これが面白そうだなあって思いまして。

一番の決め手になったのが、その財団を率いる岡本啓二さんの存在です。彼は新富町生まれ新富町育ちの人で、「地域経済を盛り上げて、持続可能なまちを作ろう」と一人で奮闘していたんですよ。それが今回カタチになり、発進するというタイミングだったので、自分がそこに何かしらの貢献できるんであれば、外から協力者として支えたいし、結果を出したいなと思ったんです。

こゆ地域づくり促進機構のように、ちゃんと財団を作って数千万円とか数億円のお金を動かしていくぞみたいな動きって、前例がないんですよ。だからそういう意味でもすごく面白いだろう、と。

ーそれで外部からの人間をはじくというのは、考えづらいですもんね。

岡田:うん、そうですね。人もすごくいい人たちばかりですよ。

ー二拠点目の家はどうやって確保したんですか?

岡田:住まいは普通に不動産屋ですね(笑)いくつかネットで目星をつけておいて、普通に物件探すのと同じで「ここら辺見たいんですけど」という感じで。でもその段階で、地元に協力者的な知り合いがいたので、その人が「この辺が良いんじゃない?」というアドバイスはくれました。「ここはアクセスが良い」とか「ここは坂道が多いから車がなとキツイよ」とかですね。

ーそれはネットワークがないとできないことですよね。

岡田:そうですね。何回か新富町に行っているうちに色んな人と知り合って、その結果「移住するんだよ」ってなった時に「じゃあ協力するよ」と言ってくれたのがその人だったという感じです。だからやっぱり移住を考えている人はイベントなどをきっかけにして現地に行って、その地域の人たちに「移住考えてるんですよ」って話しかけてみるのが良いんじゃないでしょうか。

ちなみに本当にやる気のある地域だと、東京で移住イベントや移住促進イベントもやっています。そこで知り合いを作るとかってのはおすすめですよ。逆にそういったイベントもしないような地域は、言ってしまえば相当ハードルが高いと思います。前提として「誰かがウェルカムって思ってる」というのがないと、移住はキツいんじゃないでしょうか。

移住&転職を考えている人へのメッセージ

●「移住は定住じゃない」

岡田:「移住は定住じゃないよね」って思ってるんです。期間限定でも良い。僕も常に自分の中に「撤退カード」は持っておくべきだろう考えています。「この二拠点生活はまず1年」みたいなのを決めているんです。「移住=定住」って考えるとすごくハードルが高く感じますよね。でも「1年限定のお試し移住」みたいな感覚だとだいぶ楽かなあと。それは移住やそれに伴う転職を考えている人には、持っておいて欲しい感覚ですね。

ーなるほど。ただ、普通の人の場合、移住することになったら仕事も辞めることなると思います。「起業してやる!」って人は別としても、「現地に行って会社に入って」と考えている人たちにとっては、「1年限定」でもハードルのすごく高い選択じゃないのかなと思うのですが、その点についてはどうでしょうか?

岡田:キャリアと移住をどう考えるか、でしょうね。移住をちゃんとキャリアアップのステップのひとつとして位置付けられるかどうかが大事です。

●考え尽くせば、移住の方法はいくらでもある

ー「そういう意識がないと痛い目を見る」ということでしょうか?

岡田:いえ、実はあんまりそういう「意識が高くないと危ない」みたいな肌感覚はありません。結局のところ、合う合わないですから。家族で移住するとなるとまた別ですが、極論を言えば普通に東京内で転職したとしても、合わなかったら一ヶ月でやめるじゃないですか。それが空間的距離を伴ってるから「なんか抵抗感があるだけ」なんですよ。

その抵抗感を解決する方法はいっぱいあります。今東京に住んでいる人が九州の宮崎に移住すると一念発起したとします。普通なら「じゃあ荷物を整理しなきゃ」となりますが、例えばこっちにトランクルームを借りて家財道具一式置いておくという選択肢もありますよね。身軽に移住してみて、試してみるわけです。

ーダメだったら帰ってくるという選択肢を作っておくんですね。

岡田:そうです。そういうところまで考え尽くせば、方法はいっぱいある。「撤退カード」を持っていたっていい。ある土地をみんなが良いって言うからといって、全員に合うわけじゃありません。そこはもう自分次第なんですよ。そして自分のハードルをどれだけ下げれるかも自分次第です。

一番ダサいのは「ここが良いって言ったじゃん!」みたいに誰かのせいにしちゃうこと。自分にとってどういう懸念点があるかを検討する、お金の問題ならあらかじめ収支計算をしておく。そうすれば東京ですごく小さい部屋を持っていた方が良いみたいな結論になるかもしれませんよね。それくらい考え尽くせば、自ずと答えは出てきます。

ー真剣に移住を考えるのであれば、撤退カードも含めて徹底的に考え尽くせ、ということですね。今回は岡田さんだからこその、移住に関する具体的なお話がお聞きできました。ありがとうございました。

岡田:ありがとうございました。

「行動」と「緻密なビジョン」が移住のリスクを抑える

岡田さんのお話から、移住のリスクを抑えるためには「まずは行ってみる」という行動と、収入減や生活環境の変化などを含めた緻密なビジョンの重要性が明らかになりました。また移住向けの地域の見極め方や、地域のキーパーソンとの繋がり方など、かなり実践的な内容についても語っていただきました。移住を真剣に考えている人は岡田さんのお話を参考にして、手と足をしっかり動かしながら、移住のビジョンをより明確化していきましょう。

岡田拓也さん:プロフィール
「地域の魅力を伝える」を使命に活動。情報発信とクラウドファンディングで地域プロジェクトを支援。現地取材を重要視し、これまでに100人以上の地域リーダーを取材。現地取材から、進行管理、クラウドファンディングまで総合的なサポートをおこなっている。

Career Supli
ここに住みたいと思う場所を見つけることが大切ですね。
[インタビュー/執筆]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部