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好きな仕事をして生きて行くために必要なメソッド
自身の税理士事務所を運営し税理士として働く傍ら、月間40万PVのブログを運営し本の出版、さらにはセミナーの開催等、一見普通の税理士と思えないほどに多方面で活躍している、井ノ上陽一さん。
現在、様々な仕事で活躍している井ノ上さんですが、ここまで来るのにはとても長い道のりだったと言います。今回はそんな井ノ上さんの波乱万丈なこれまでの経歴と、現在のお仕事、そしてご自身の経験から、転職や独立について思うことをお聞きしました。
転職や独立を考えている人にとっては目からウロコの価値観ばかりです。ぜひ、参考にしてみてください!
【就職浪人、ノンキャリ官僚、そして独立……】波乱過ぎるキャリアステップ

ー現在、多方面でご活躍をされている井ノ上さんですが、もともと税理士として独立をしようと考えていたのでしょうか?
井ノ上:私の祖父が税理士をやっていました。その影響もあってなんとなく税理士になることは頭にはあったのですが、最初から税理士になるつもりはあまりありませんでした。大学4年の段階で就職先が決まらなかったのですが、卒業した春には東京に出てきて、就職浪人をして過ごしました。
ーいきなり就職浪人とは、すさまじく波乱の予感がするのですが……。
たしかにそうですね(笑)。東京に出てきた後、公務員試験の勉強を始めました。就職浪人から脱するには、試験を突破して手に入れるような、絶対的なモノが必要だと思ったので。いわゆるノンキャリアではありましたが、なんとか国家公務員の試験に合格することができました。
ー就職浪人から一転、国家公務員試験パスしていわゆる官僚になったのなら、その後は安定した生活が待っていますよね?
それはそうかもしれないのですが、私は入省して数日で早くも独立を考え始めていました(笑)。いわゆるノンキャリアだったので、どれだけがんばって働いてもキャリア組には地位も給与も敵いませんし、年功序列制なので仕事ができてもできなくても給与は一定でした。
幸い、自分の好きなExcelや数字を扱う仕事だったのでそれなりには楽しみながら仕事はしていたのですが、その仕組みにずっと疑問符があり続けました。そして、入省してから3年でついにやめてしまいました。私が28歳の時でした。
ーその後、税理士を目指すために勉強をされるんですよね。なぜ、官僚をやめた後に税理士を目指したのでしょうか?
もともと小さい頃から祖父みたいに数字を使って、税理士になりたいとも思っていましたし、官僚をやめる際にも上司に税理士を目指したいからやめると言っていましたので。それに資格があれば、学歴や境遇、中途など関係なく認めてもらえると思ったんです。
税理士試験は、5つの科目に合格する必要があり、取得するまで平均して10年かかるといわれています。退職後、1年間は3科目の受験に専念し、その後、税理士事務所で働きながら受験し31歳の時、およそ3年かけて税理士試験に合格することができました。
この間にも受験勉強の環境を整えるため、一度転職しています。
ー紆余曲折の末、税理士試験に合格して、ついに念願の独立だったわけですね!
それが度胸がなくて、すぐは独立できなかったんです。仕事が取れるか、お金が稼げるかという点で不安が大きかったので、とりあえず企業に勤めました。
しかし、税理士の資格を持っていても企業では大して役に立たなかったんです。そこもやめてもう一度税理士事務所に勤めたんですが、そこも嫌になってしまって(笑)。
その時、もう気づいたら35歳になっていて。これはさすがにまずいと思いやっと、独立を決意しました。
ー今お聞きしただけでも、本当にいろいろな職場に就いては退職されていますね……。井ノ上さんは組織というところが苦手なのでしょうか?
正直、苦手ですね(笑)。ずっと残業をしなければならなかったり、よくわからない人のしがらみだったり……。税理士事務所は税理士事務所で、そこの1番偉い税理士が威張っていたり。そういうのが本当に嫌なんです。
独立に向いている人と向いていない人がいるように、会社や組織にも向いている人と向いていない人がいると思います。私は公務員から会社員まで経験しましたが、やはり組織においては体育会系の人がうまくやっていけるのかなと思います。
組織や会社では、人の下にいるときは我慢してその分、上に立った時に威張る人がなんだかんだ多い気がします。給料をもらっているから我慢しなければいけない、上司だから絶対正しいというわけではないと思います。
現在私は、税理士の独立の支援といったサービスにも携わっています。そのサービスを始めたきっかけも、今現在誰かに雇われている税理士が、そうした人のしがらみを我慢せずに独立して仕事ができるという仕組みを作りたいと思ったからなんです。
税理士なのに「税理士の仕事が合わない?」ーイヤなものから徹底的に逃げ続けることで、見えてくるものとは?

ーそうした会社員時代にあった思いが、今の税理士の仕事の枠組みを超えてお仕事をするきっかけになっているのでしょうか?
そうですね。会社が合わなかったこともあるんですが、あとは税理士が合わないですよ、なったはいいですけど(笑)。税理士の仕事って、作業的な仕事がどうしても多くなってしまいますし、確定申告などの時期になると本当に死ぬほど忙しいんです。
冬はもう遊ぶ暇もないとかが普通なんですよ。人を雇ってオフィスをかまえてどんどん拡大していくのが伝統的な税理士のスタイルです。
私はそういう伝統的な税理士のスタイルが嫌いですし、必ずしもお客様のためにならないと考えています。だからこそ自分なりの税理士のスタイルを追求し、今でもあえてひとりで仕事をしているんです。
だから税理士業だけでなく、自分がやっていることや知っていることをブログに書いたり、本に書いたり、セミナーを開いたりすることで、自分の持っているものをムダなく使っています。
お金も稼ぐことができますし、税理士のイヤな仕事を取らなくて済むんです。何かしらの仕事がもしなくなったとしても他の仕事でカバーできる、いわばリスクヘッジにもなりますしね。
ー税理士なのに税理士の仕事が合わない、だから別の仕事もやるという井ノ上さんのやり方はとても革新的だなと思いました。他の税理士さんでここまでやっている方はそう多くはないと思います。
仕事の形を、自分の好きなように変えることが大切だと思います。私の場合、上司も会社も税理士もみんな好きじゃないんです(笑)。会社員時代もそうですけど、私は基本そうしたイヤなものから逃げてきました。
それも中途半端ではなく、徹底的に逃げます。しかしただ逃げるだけでは食べていけません。じゃあそこで食べていくためにはどうすればいいか。自分なりに仕事を作っていくしかありません。
作業を請け負う伝統的な税理士のスタイルではなく、節税や資金繰りのノウハウ、Excel・ITで仕事を効率化するノウハウをセミナーやコンサルティング、書籍で伝えるスタイルを作り上げてきました。
中小企業の社長というよりも、フリーランス、ひとり社長向けのサービスを提供していることも、従来のスタイルとは違うところです。徹底的に逃げた先には、自分に合ったスタイルが見えてきます。
その自分に合ったスタイルは少数派で他との違いがあるものです。そういった違いを作っていかないとこれからの時代食べていけません。これは会社にいても独立していても同じことです。
ーブログを3000日以上も毎日更新されていますが、これも他の税理士さんたちがやらないからなのでしょうか?
その通りです。ブログを始めたきっかけは、仕事をもらうためでした。やはり他の税理士から仕事を取るには、他の人がやっていないことをやるしかないと思ったので。ネットを活用している税理士って未だに少ないんですよね。
あとは本を書く仕事がやりたかったので、そのためにまず、ブログで書いてみようと思ったのもひとつのきっかけです。そしてやるなら毎日やろうと。気づいたら3000日も続いていましたね。
当初から税理士と本とセミナーと、3分割したいと思っていました。そこでたまたまブログというツールを見つけたので活用している、といった感じですね。
あとはブログを書くことで、自分自身のことを知ってもらえるのはもちろん、自分の頭の中が整理できます。これはブログを続けていく上で、非常に大きなモチベーションです。
もちろん、人に読んでもらうためにブログを書いていますが、もし仮に誰も読んでくれていなかったとしても、自分のために書いています。ブログによって発言をすることで、自分の中に覚悟ができるんです。
ー井ノ上さんはブログに関するセミナーを開くほど、熱心にブログを書いていて、ブログを広めることにも注力しています。なぜでしょうか?
やはり自分の中の整理がつくんですよ、実際に自分の気持ちを書き出してみると。自分が何が好きで何が嫌いなのか?起業すべきなのか転職すべきなのか?人によってブログで扱うテーマは違うと思いますが、迷っている人ほどブログを書くことをおすすめしています。
自分の気持ちを書いて、人に見てもらう(実際に見てもらっているかはわかりませんが)ことで、自分ではない人に自分の気持ちを見られているという意識が芽生えるので、背筋を伸ばす機会が自然と生まれるのです。
そして似たような考え方を持った人には、似たような考え方を持った人が集まってきます。自分の考え方を周りに示すツールとして、ブログは最適だと思っています。
他にも読書やセミナー、スポーツ、飲み会など、自分の会社や組織ではないところのコミュニティに参加していろいろな人とふれあうことで、外の考え方を知る機会になります。
ブログはあなただけのスキル(牙)を強くする、最強のツール!
ー転職や独立を考えている人の中には、多忙のため、ブログをつくる時間や外の人との考え方に触れられる時間がない人も少なからずいると思います。そうした人はどうしたらいいのでしょうか?
今後の人生を考えた時に、ブログも作れない、外の人との関わりが持てないほどに仕事が多忙過ぎるのであれば、すぐに転職を考えたほうがいいと思います。その場所にずっといるつもりならいいかもしれませんが、ずっといるつもりがないと考えているならなおさらです。
もちろん、ずっと働いていることで力がつくという考え方もわかるのですが、考える時間さえ奪われてしまうのは、正直危険だと思います。仕事の経験値は業務時間の長さだけでなく、質の部分もあると思うので。
仕事をしつつも、外の世界へ目を向けることはとても重要なので、極端な話、2日くらい会社を休んででも転職についてよく考えるべきだと思います。
ー最後に、転職や独立を考えている人に対してメッセージをお願いします。
仕事と人生のバランスを上手に取りたいと考えた時に、人は「自分に合う場所を見つける」か、「自分に合う場所を作るか」、そのどちらかしかないと思っています。そうなるともう転職か、独立かの2択になってくると思います。
いい会社、いい場所が見つかればそこに入って長く働くのが1番ですが、もし見つからないなら自分で行動を起こすしかないんです。
誰に何を言われても自分の価値観や大切にしたいことをきちんと持って、それを達成するためのスキルを磨きいつでも会社から逃げられるように「牙を研いで」おきましょう。
その「牙」は、あなたが得意なことで構いません。私の場合、それは「税理士の資格」であり「ブログ」であり「Excel」でした。
できれば異なる種類の牙をいくつか持ちあわせておくと、思いもよらぬシナジーを生み出します。そして、どんな牙をも強くするのが「話すことと書くこと」です。まずは、自分の考え方や得意なことを表現できる、ブログを始めてみてはいかがでしょうか?
税理士・井ノ上陽一氏
972年大阪生まれ。宮崎育ち東京在住。ひとりビジネス=雇われない雇わない生き方を、時間・お金の両面でサポート。株式会社タイムコンサルティング代表取締役・MicrosoftMVP for Excel・アイアンマン(スイム3.8km、バイク180.2km、ラン42.2km)・著書に『フリーランスのための一生仕事に困らない本』『ひとり社長の経理の基本』、『ひとり税理士の仕事術』など。雇われない生き方を提唱する、月間40万PVブログはコチラ
