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二賢人が語る人生100年時代の生き方
いわゆる人生100年時代が現実味を帯びてくると、不安が際限なく湧き出てきます。「老後のお金は大丈夫だろうか」「いつまで健康でいられるだろうか」「今の会社は潰れないだろうか」など、考え始めればキリがありません。
しかしもしかすると、人生100年時代はそれほど心配するようなことばかりでもないのかもしれません。そう思わせてくれるのはライフネット生命創業者である出口治明さんと、日本屈指のブレーン竹中平蔵さんの対談本『人生100年時代のお金の不安がなくなる話』。ここでは本書から人生100年時代の不安を解消するヒントを7個紹介します。
歴史を知れば「今の不安」も気にならなくなる

終身雇用制度や年功序列賃金制度といった日本的な慣習が崩壊し、「大企業に勤めている=安定した人生が送れる」という時代ではなくなりつつあります。このような状況を見て「昔は良かった」「これからどうしたらいいんだ」と不安になっている人も多いかもしれません。
しかし歴史的に見れば日本的な慣習が成立していたのは、高度経済成長期のごくごくわずかな期間だけです。明治維新以前の日本では「専業主婦」のような概念もなく、男も女も関係なく働いていましたし、会社が何年、何十年と継続して運営されるようになったのも1600年前後に設立された東インド会社が最初ですから、たかだか数百年の「常識」でしかありません。
当たり前のものや常識とされるものは、たいていの場合個人やその時代に特有のものです。その中で生まれる心配や不安は、歴史という長い時間の流れで捉えれば気にならなくなり、目を向けるべきは「じゃあ今何をするか?」ということなのだということがわかるはずです。
お金や健康の心配より「自分が何をしたいのか」を考える

「どうやったらお金が貯まるのか」「どうやったら健康を維持できるのか」「老後に備えてどれくらいお金を用意しておけばいいのか」を考えることより、「自分が何をしたいか」を考えるほうが、よほど大事だと思います。
引用:前掲書p93
これは健康やお金に対する心配についての、竹中さんの言葉です。出口さんも「そんな心配を忘れることが一番です」と言っており、ある程度のリスクヘッジは必要でも、それ以上は考えなくていいとしています。なぜなら健康やお金に対する心配を対症療法的に考えると、いくらでも心配できてしまうからです。
しかし「自分は60歳で引退して遊んで暮らしたい」だとか「自分はずっと働いていたい」といった具合に、自分がやりたいこと、こうありたいと思う姿が定まれば、そのためにどんな体のメンテナンスが必要で、どの程度の蓄えが必要かも定まってきます。だから大切なのは「自分が何をしたいか」なのです。
長く元気で働けば「老後資金」は必要ない

例えば80歳まで現役レベルの収入を維持できれば、老後の資金をわざわざ用意する必要はなくなります。現役レベルの収入まででなくとも、その半分程度を確保できれば老後資金の工面も格段にラクになるでしょう。このように考えると、人生100年時代には体への投資が非常に重要になってくると言えます。
健康寿命の伸び具合を考えれば、現役として働ける期間も今よりずっと長くなるはずです。もちろん無茶な生活を続けすぎたり、病気を放置していたりすればその期間も短くなりますが、きっちり気を遣っていれば老後資金を心配する必要はそれほどないのです。
AI時代の到来に過剰な心配は無用
僕は、AIについてはあまり心配していないのです。
引用:前掲書p108
これはAIの台頭やIT化の進行に話が及んだ際の出口さんの言葉です。出口さんは18世紀に起きた水力や蒸気機関がもたらした第一次産業革命と、現在起きている第四次産業革命を比較して、人の手から機械の手で作るように変わった第一次産業革命の方がインパクトが大きいと言います。
そのうえで、第一次産業革命によって雇用の増加や景気の改善がもたらされたことを考えれば、第四次産業革命も良い方向に進むのではないかと予想しています。
技術の進歩により社会に変化が生まれれば、それに合わせて新しい産業や仕事が生まれます。大切なのはそこで消えゆく産業にしがみつくことではなく、新しい産業や仕事にシフトしてく柔軟さなのです。
置かれた場所で咲けないなら、咲ける場所を探す
人には向き不向きがあります。それはその分野で全力を尽くさなければわからないことですが、一生懸命頑張ってみても芽が出ないのであれば、それは向いていないということです。それ以上同じ場所で頑張っても、辛い時間になるだけです。
そのため『置かれた場所で咲きなさい』というベストセラーがありますが、出口さんは必ずしもそれが正しいとは思わないと言います。そして「置かれた場所で咲けなければ、別の場所を探せば良い」(引用:前掲書p124)と指摘しています。
実際、別の分野でパフォーマンスを発揮できる人が、パフォーマンスの低い分野にとどまり続けるのは、社会全体の生産性を考えてもマイナスです。日本ではまだ「置かれた場所で咲くまで粘れ」という文化が根強いですが、今後は自分が咲ける場所はじっくり探せば良いんだという価値観がスタンダードになっていくでしょう。
「すごい人」にぶらさがってラクをすればいい
産業化、工業化の中で成長する社会は、いわば「綱引きの世界」でした。(中略)ところが今は、綱引きからオリンピックに変わっています。
引用:前掲書p141
高度経済成長期までの日本の経済は、没個性と協調性の中で急速に発展していました。それはこの竹中さんの言葉にあるように「綱引きの世界」です。しかしこれからの時代はスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスといったスター人材がイノベーションを起こすオリンピックの世界に変わっていきます。
このような世界では、個性が重んじられ、自分の言いたいこと・やりたいことをはっきりと言う人材が求められます。しかしそれは自分がスター人材にならなければならないということではなくて、スター人材にぶら下がれるレベルの人材になればいいということです。
彼らの足を引っ張るのではなく、ぶら下がって一緒に高みに上っていく。それができれば、人生100年時代も楽しく働いていけるはずです。
労働人口が激減するのは「めちゃめちゃラッキー」
総務省「労働力調査」、全国自立生活センター協議会「平成27年労働力需給の推計」により作成された「就業者の見通し」というデータによれば、このままでは2015年から2030年の間に日本の労働人口は800万人減少すると言われています。
これを見ると「日本は衰退していくんだな」と暗い気持ちになる人もいるかもしれません。しかし出口さんはこれを「めちゃめちゃラッキー」だと言い切ります。なぜなら今の若い人たちにとってみれば、800万人も働き手が減れば食いっぱぐれることは絶対にないということだからです。
無駄に悲観的になるよりも、楽観的に「じゃあそのとき、自分は何をしていたいだろう」と考える方がよほど建設的です。
アランは『幸福論』の中で「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意思によるものである」と書いています。これはまさに、悲観ムードいっぱいの現代人に必要な言葉と言えるでしょう。
無駄な心配は止め、やりたいことをやろう
人生100年時代というキーワードを聞いて思い浮かぶ心配事は、実はどれもさほど心配する必要のないことばかりです。むしろ心配や不安に囚われて何もしないでいると、時代の変化についていけず、不必要に辛い思いをしかねません。
したがってこれから大切になるのは、先のことを考えすぎて立ち止まることではなく、自分のやりたいことをやるために考えながら行動することです。そうすれば自然と明るい未来が切り拓けるはずです。
参考文献『人生100年時代のお金の不安がなくなる話』
