はじめに
この記事では、大学4年生の時に突然インドへ旅立ち、1年間不動産営業マンとして働く中で、英語に加え現地のブローカーとやりとりできるレベルまでヒンディー語を身に付けた男が、「大人がゼロから語学学習を始めるにはどのようにすればよいのか?」について書いていきます。
もちろん、スペースには限りがあるため、具体的な語学の学習方法を手取り足取り書くことはできませんが、どのようなコンセプトを持って語学を学んでいけばよいのか、その指針を示したいと思います。
語学学習とは暗記である
大前提として、語学の唯一にして最強の学習方法は暗記である、というところから話を始めます。幼少期から海外に住んでいたならいざしらず、海外経験のない人間が大人になって語学を学ぶなら、単語や文法を暗記して、力技でかつロジカルに学んでいくしか方法はありません。
大人になると、もはや「感覚」では語学を習得できなくなるためです。ただ、その人にとってより効率のよい暗記方法というのは存在します。がむしゃらに暗記を始める前に、自分にとって適した暗記方法とは何か、立ち止まって考えてみましょう。
自分の認知特性を把握せよ
人にはそれぞれ、得意な暗記方法というものがあります。医者である本田真美さんによって書かれた『医師のつくった「頭のよさ」テスト』という本では、自分の認知特性(感覚器官から入ってきた情報を理解・整理・記憶・表現する「方法」のこと)がわかるテストが紹介されています。
例えば「子どもの頃に好きだった遊びは?」といった質問が列挙されており、これに答えていくと自分がどんな認知特性を持っているのかが把握できるようになっています。
認知特性は大きく分けると「視覚優位者」「言語優位者」「聴覚優位者」の3種類。さらに、それぞれ2つずつ細かい項目に分けられます。
「視覚優位者」は「写真(カメラアイ)タイプ」「三次元映像タイプ」に、「言語優位者」は「言語映像タイプ」「言語抽象タイプ」に、「聴覚優位者」は「聴覚言語タイプ」「聴覚&音タイプ」に、といった具合です。
ちなみに私もこのテストをやったことがありますが、「言語映像タイプ」「言語抽象タイプ」がダントツで高く、完全に「言語優位者」でした。
こうしたテストによって自分の得意な認知特性を把握しておくと、暗記の際に非常に役に立ちます。
それぞれの認知特性の特徴は以下になります。
視覚優位者 ・写真 (カメラアイ )タイプ
・写真として物事を記憶する
・道順を説明するときは 、路線図か地図 、あるいは 「 ○ ○駅 → □ □駅 →病院 」と図式を用いる
・ 3歳以前の記憶があるが 、その記憶は自分の目で見た情景のため 、自分はその場に登場しない
・歴史の本を読むと 、文章だけでも城や戦いの場面がスム ーズに浮かぶ
・アニメの脇役のキャラクタ ーの似顔絵も上手に描ける
・ 「野菜をできるだけ多くあげよ 」というときは 、野菜の写真やス ーパ ーマ ーケットの陳列棚をイメ ージしながら答える視覚優位者 ・三次元映像タイプ
・映像として物事を記憶する
・人の顔を覚えるのが得意
・道順は 、図式や地図だけでなく 、信号の数やポスト 、店の看板を書き加えて説明する
・歴史の本を読むとき 、城や戦いの場面が浮かびやすい
・昔の記憶を 、順序よく時間を追うように説明できる
・ 3歳以前の記憶があり 、その記憶に自分自身は登場しない
・ 「野菜をできるだけ多くあげよ 」というときは 、野菜の写真やス ーパ ーマ ーケットの陳列棚をイメ ージしながら答える言語優位者 ・言語映像タイプ
・言葉を見るのが得意
・言語を映像化することも 、映像を言語化することも得意。他人の何気ない一言で、鮮明なイメージをいだくことがある。
・比喩表現が得意
・ 「野菜をできるだけ多くあげよ 」というときは 、野菜の写真やス ーパ ーマ ーケットの陳列棚をイメ ージしながら答える言語優位者 ・言語抽象タイプ
・わかりづらい文章を図式化することが得意
・言葉を見るのが得意 ・歴史の本を読むとき 、家系図や登場人物の相関図が浮かびやすい
・英単語は書いて覚える
・初対面の人は名刺の文字で覚える
・道順は 、文章か図式で説明する
・一番古い記憶は 、言葉をある程度獲得した幼少期 ( 4 ~ 6歳 )以降のもので 、場面には自分が登場する ・読み終わった本の中からある箇所を探すとき 、どのあたりのペ ージに書かれていたのかがわかる聴覚優位者 ・聴覚言語タイプ
・言葉を聞いたり 、サイレントト ークしたりするのが得意
・一度聞いたコマ ーシャルのフレ ーズや歌詞を覚えるのが得意
・英単語は聞いたり 、暗唱したりして覚える
・講演内容のテ ープを聞き返すとき 、どのあたりに録音されているかがわかる
・難しい話題でも 、写真や資料を見ることなく 、話を一度聞くだけで理解できる
・テレビを見ているとき 、テロップがなくても意味がすんなり理解できる
・ダジャレをいったり 、人の言葉じりをとらえるのがうまい
・一番古い記憶は 4 ~ 6歳以降のもので 、映像イメ ージは曖昧で 、あとから聞いた情報もつけ加えられているケ ースが多い聴覚優位者・聴覚&音タイプ
・言葉を聞くのが得意
・英単語は聞いたり、暗唱したりして覚える
・絶対音感のような特殊な能力を持っていることがある
・CMソングや音楽を一度聞いただけで、歌詞ではなくメロディーを口ずさむことができる
・モノマネが得意
・外国語の発音が上手
学生時代に、友達から「こうやって暗記するといいよ」と言われて試したけれども、まったく覚えられなかった…などという経験はありませんか?それは、自分の認知特性と合っていない暗記方法だったからなのです。
例えば「言語優位者」の人が耳から単語を聴き続けても暗記は捗らないでしょうし、「聴覚優位者」の人がひたすら文字を書いて覚えようとしてもあまり効果はないでしょう。
語学に限らず、勉強とは「自分との対話」であり、「自分を知る」者こそが成功する、と私は考えています。まずは自分の認知特性を知り、得意な暗記方法を知ることです。
最強の暗記方法は文章をひたすら覚えること
私は中学以降一度も海外に行ったことがありませんでした。それでもインドでの1年間の労働に耐える英語力を身につけることができたのは、大学受験の時にひたすら英文を暗記して自分の中に蓄えていたからです。
私が英語を暗記するのに使用していたのは『基本英文700選』という参考書でした。まずは文法書と辞書を片手に、参考書に載っているすべての文章の文法的な構造と単語の意味を理解します。文の構造と意味が理解できたら、書いてある英文をひたすら暗記して、日本語を見たらすぐ英語が出るようにしていきます。
そうすると、単語や熟語などのパーツの部分さえ取り替えれば、どんな文章でも作れるようになります。
例えば、”My house is only five minutes’ walk from the station.”(私の家は駅から歩いてわずか 5 分の所です。)という英文を暗記していれば、”My house”や”the station”を他の場所と入れ替えたり、”five minutes’ walk”を”ten minutes’ run”に差し替えたりして、多様な英文を作ることができます。
インドの言語であるヒンディー語も同様にして学びました。私はインターネットの無料のヒンディー語学習サイトで勉強していたのですが、とにかく書いてある例文の構造を知り、単語や熟語の意味を調べて暗記し、すぐ使ってみる、それを繰り返していました。
1年のうちに、インド人同士が交わしている会話の内容がなんとなくわかるようになりました。ヒンディー語が理解できたおかげで、従事していた不動産営業のインターンシップの中で不利な契約をつかまされそうになったのを危うく回避したことも、一度や二度ではありません。
なお、文章を暗記する方法は、上述した「得意な認知特性」に紐づいたものになります。「言語優位者」である私の場合はひたすら手を動かして覚えましたが、「視覚優位者」は書いたものを眺めたり何通りもフォントを変えて絵のように鑑賞してみたりするとよいでしょうし、「聴覚優位者」は耳から例文を聴いたり、メロディーをつけて歌ってみたりするとよいでしょう。
ドイツ語学者として著名な関口存男(せきぐちつぎお)氏は、留学経験が皆無にもかかわらず、ドストエフスキーの『罪と罰』をひたすら暗記することでドイツ語を習得しました。
そのドイツ語は、ドイツ人とまったくそん色ないものであったと言います。関口氏自身が「くそ勉強」と呼んでいたこのやり方が、語学学習の王道であることは間違いありません。
語学は自分の世界を広げてくれます。この記事を読まれた方が語学を学んで、自分の人生に何かしらのプラスがもたらされることを願っています。
