フリーランス1000万人時代!企業と社員の雇用関係はどう変化する?

いよいよ日本にもフリーランス社会が到来

ダニエル・ピンクが『Free Agent Nation(邦題:フリーエージェント社会の到来) 』を上梓したのが2001年、邦訳は2002年に出版されました(新装版が2014年に刊行)。

刊行当時でアメリカではすでに4人に1人がフリーエージェントとしての働き方を選択しており、15年以上経っていよいよ日本でもその機運が盛り上がってきています。

日本ではフリーエージェントではなくフリーランスという呼び名が板についてきており、ランサーズ株式会社のフリーランス実態調査2018年版によると、広義のフリーランスは1000万人以上、経済規模は20兆円との驚きの数値が公表されています。

この流れは今後も加速すると見られ、フリーランス経済圏はますます拡大していくことでしょう。

このような時代において、企業と社員の関係はどのように変化していくのでしょうか。加熱する言葉の独り歩きに警鐘を鳴らしつつ、今後の展望について解説します。

企業と社員の関係の実態は何か

企業と社員は雇用契約を結んだ労使関係にありますが、これはあくまで契約上の話です。企業と社員の関係をエンゲージメントと捉え、もう少し実態を紐解いてみます。

エンゲージメントとは、つながりの程度を指します。企業と社員に限らず、アーティストとファンの関係や、メーカーの商品とユーザーの関係にも用いられることがあります。

ではこの「つながりの程度」を左右する要素にはどのようなものがあるのでしょうか。

枝葉を取り除いて大別すれば、つながりの程度は「交換」と「統合」の2種類で決まります。

お互いに何かを差し出して交換することでつながりを保つか、
想いやベクトルなどを統合することでつながりを保つか、

このグラデーションでエンゲージメントは成り立っています。

交換で1番わかりやすいのは、パフォーマンスと報酬の交換です。この場合、仕事で成果を出す代わりに報酬(給与)をもらうことでつながりを成立させています。

統合とは、想いやベクトル、哲学、喜びなどを両者で分かち合うことで、究極の状態が「好き」という感情です。

どちらが良い悪いの話ではなく、企業と社員のエンゲージメントも両者のグラデーションで程度が決まります。

永続的なエンゲージメントから期間限定のエンゲージメントへ

高度経済成長時代は報酬を引き上げる交換アプローチを主流としてエンゲージメントを高め、経済成長が一巡した後は企業理念やミッション・ビジョンと個人の想いを揃える統合アプローチでエンゲージメントを高める。

企業と社員のエンゲージメントのあり方は、大まかに捉えると上記のような変遷をたどってきました。企業はあの手この手で社員とのエンゲージメントを高める方法を模索し、人事的にもエンゲージメントは話題の中心であり続けました。

ところが現在、SNSを中心とするテクノロジーの発達と利用環境の整備、ワークライフバランスに代表される優先順位の変化、幸福感の変化などにより、企業と社員が永続的にエンゲージメントを保ち続けなくても良いのではないか、という考えがうねりを上げ始めています。

以前は「家族」をメタファーとして考えられてきた企業と社員のエンゲージメントが、より「チーム」的に、すなわち目的が達成されれば解散も含めて構成やつながりのあり方を再定義する、というものに変わりつつあります。

このような背景においては、エンゲージメントは、企業と社員で永続的に結ぶものというよりも、プロジェクト(ジョブ)と個人で期間限定で結ぶものと捉える方がしっくりきます。

個人は、大きな報酬が必要なときは交換アプローチを用いて、やりたいことをするときは統合アプローチを用いて仕事を選択する。この変化の結果が冒頭のフリーランス1000万人ということでしょう。

このような期間限定のエンゲージメントのあり方をリンクトイン創業者のリード・ホフマンは『ALLIANCE』と呼び、人と企業の新しい関係について解説しています。

過度なムーブメントは揺り戻しが来る

上述の流れの中で日本では週末起業、副業・複業という流行りのワードとともに、企業と社員の関係は明らかに変化を迎えつつあります。

ただ、現在は少し過熱気味かなというのが筆者の正直な感想です。

プロジェクトやジョブの目的にもよりますが、生活を送るのに十分な額を稼ぐような仕事をする場合、フリーランスという存在はプロジェクトオーナーからすれば助っ人外国人のようなものです。他の誰よりもパフォーマンスを出して当たり前とみなされます。

また、勤めている企業が副業・複業OKだと認めたとしても、自社でパフォーマンスを出すという前提あってこそです。交換アプローチは給与とパフォーマンスの交換です。9時から17時まで会社に在席していることがパフォーマンスではありません。

それなのに、パフォーマンスを出さずに会社から給与をもらって他でさらに副業・複業をしたい、というのはそもそも交換さえ成立しておらず、不誠実です。

最近はSNSの台頭やメディアの煽りによって個人の権利が過度に守られがちな世の中になっていますが、筆者は仕事や業務に関する個人の主張は、必ずパフォーマンスとセットで語らないと片手落ちだと考えています。

働き方改革、残業規制、副業・複業解禁、ワークライフバランス、これらの言葉は大きな流れを見ればますます当たり前のものになっていくとは思いますが、どこかで揺り戻しも含めて波を経験しながら、潮流として落ち着いていくものになるでしょう。

フリーランスとして仕事がしたい人にまず伝えたいこと

この流れに乗って副業・複業したい、という人は多いと思います。あるいは、それらも含めてもっとプライベートを充実させたいであるだとか、残業時間を少なくしたいと思っている人も多いかもしれません。

一歩を踏み出すことを妨げたくありませんし、想いを後押ししたいという気持ちを持ちつつ、「流行りに乗りたい」「他の人もやっているから自分も」という考えだけでフリーランス的に動くことはやはり筆者は推奨しません。

転職でも起業でもフリーランスでも、キャリアのトランジションをポジティブなものにしたいのであれば、今の仕事でパフォーマンスを出すということが大前提です。あるいは、今の仕事でなくても良いのですが、活躍したという事実を作ることです。

キャリはどこまで設計するべきか?プロが教えるキャリア戦略にも書きましたが、Done増やすことでしかキャリアは前向きに進んでいきません。大きな潮流の中で出番が来たら(トランジションのタイミングが来たら)いつでも登板できるように事実を積み重ねてほしいと思います。

Career Supli
フリーランスが働きやすい環境も少しづつ整ってきています。

著者プロフィール:鈴木洋平(すずきようへい)‬
‪2002年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。システムエンジニアとして入社後、同社内で人事に転身。同社を退社後、「株式会社採用と育成研究社」を設立、同副代表。 企業の採用活動・社員育成の設計、プログラム作成、講師などを手掛けている。‬
‪・米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー‬
‪・LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター‬
‪http://rdi.jp/about-rdi‬

[文]鈴木洋平 [編集] サムライト編集部