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どうして「なんとなく生きづらい」のか?
仕事でうまくいっていないわけではないし、プライベートでもそれなりに友達はいる。でもいつもどこかで「なんとなく生きづらい」と感じている……。
そんな悩みを抱えている人は、「RPGを攻略するように生きる」という考え方を取り入れることで、すっと心が楽になるかもしれません。
つまるところは、自分=主人公を俯瞰し、置かれた状況やキャラクターの特性を客観的に理解するということです。
この考え方を提唱するのは、2020年4月に『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本』を出版した鈴木祐介さんです。
以下では生きづらさを感じてしまう理由と、「RPGを攻略するように生きる」という考え方の詳細を語っていただくとともに、心療内科医でもあり、「キャリアコンサルティング技能士」の資格も持つ鈴木さんの目から見たキャリア形成の考え方についても、教えていただきました。
<Profile>
鈴木 裕介(すずき ゆうすけ)
秋葉原内科セーブクリニック 共同代表院長
内科医・心療内科医・産業医。高知・東京・神奈川の病院や診療所で一般内科・へき地診療・在宅医療を経験。働く中で、組織の「弱い立場の人」に負担が集中する医療の現場をなんとかしたいと感じ、マネジメントを学ぶためにコンサルタントに転職、数々の病院の組織改善に関わる。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業。
今は生きづらさを感じやすい時代
こんなにも恵まれた日本という国で、生きづらさを感じる人が増えているのはなぜなのでしょうか?
鈴木裕介さん(以下、鈴木):逆説的かもしれませんが、日本という国が恵まれているからです。
「生きづらい」というのは、「今の生き方に納得できていない状態」だと考えています。今のようにゆたかな時代においては、構造的にこの状態になりやすいのです。
衣食住に苦労した時代や、ある程度「人生の正解」のようなものがあった一億総中流時代とは違って、今の日本では明確な幸せの形が見つけにくいんですよね。
すると生きるうえでの余裕はあるのに、目指すべき明確な「幸せ」像がないので、「自分の人生ってなんだろう?」「生きるってどういうことなんだろう?」ということをしっかりと考えられるようになった。
昔は貴族しか考えなくて済むようなことを、時代がゆたかになって多くの人が悩めるようになった。
あとはSNSなどで他人の「イケてる人生」が目に入るというのも、自分の人生の安心感や納得感を揺らがせる一因になっていると思います。
どうすれば、そうした生きづらさから抜け出せるのでしょうか?
鈴木:生きづらさを感じている人の多くは、生まれた環境やそれまで出会った人間関係などが原因で「自分の人生が冴えないのは、自分がダメだからだ」という物語を信じてしまっています。
あまりに理不尽でつらいことが多いので、「全部自分が悪い」ということにすると、起こってくる不幸の原因をいちいち考えなくて済みます。
そうやって信じ込んでしまう人たちが生きてきた環境は、そうではない人からすればとてつもなくハードモードです。だから全てを自分のせいにして、殻に閉じこもってしまうのも無理はありません。
でも、もし「自分の人生が冴えないのは、自分がダメだからだ」という物語をポジティブに書き換えることができれば、今感じている生きづらさから抜け出すことができます。
「RPG的視点」が生きづらさを解決する

物語をポジティブに書き換える方法が、今回『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本』で紹介されている内容ですか?
鈴木:そうです。物語を書き換える方法には、心療内科医やカウンセラーといった専門家のサポートを受けたり、ありのままの自分を受け入れてくれる友達などに協力してもらったりと、いろいろな方法がありますが、拙著で紹介しているのはそのうちの一つです。
人生をRPGを攻略するように生きるとは、具体的にどういう考え方なのでしょうか?
鈴木:ポイントは大きく二つあります。
一つはプレイヤーとして、「自分=主人公キャラ」や「人生=シナリオ」と俯瞰して見ること。
もう一つは「自分=主人公キャラ」の特性や能力値を把握することです。
生きづらい人は、たいがい「負のループ」のようなものをもっています。毎回同じように、人間関係がうまくいかなくなったりする。気づかずに同じ穴に何度も落ちているような感じです。
それが、プレイヤー目線で自分の人生を俯瞰していると、主観では気づかないような失敗パターンに気づけます。「いつもここでオーバーになるけど、よく見たら落とし穴があるじゃないか」といった具合です。
落とし穴があるなら避ければいい。レベルが足りないなら経験値を貯めればいい。そうやって人生をメタ認知できるようになれば、人生は格段に攻略しやすくなります。
キャラの特性や能力値を把握する、というのは?
鈴木:RPGではファイタータイプのキャラなのか、魔法使いのキャラなのかで、得意な戦い方が変わりますよね。現実も同じです。
たとえば社交力が高くても、スタミナが低ければ「他人に合わせるのは得意だけど、八方美人になると心身ともに辛くなる」という話になります。
それならあちこちにいい顔をするのをやめて、本当に仲良くなりたい人にだけ持ち前の社交力を発揮しよう、という戦い方のほうが向いているわけです。
だから自分がどんなパラメータの持ち主なのかを知っておくことは、人生の攻略に役立つのです。
どうすれば自分のパラメータを知ることができますか?
鈴木:拙著では「愛着スタイル」という枠組みを紹介しましたが、ほかにも「MBTI」とか「FFS」、「ビッグファイブ」といった枠組みは自分の特性や対人関係パターンを把握するのに役立ちます。
今の仕事が合っていないとか、転職中の方などには、キャリアについての価値観や欲求を分析できる「キャリア・アンカー」なども効果的です。
いろいろあって迷ってしまいそうです。
鈴木:とりあえず、自分が気になる枠組みを試してみるのがいいです。できれば、その解釈に長けたアドバイザーのような人にフィードバックしてもらうと尚良いですね。大切なのは、こうした枠組みを通じて、自己理解を深めることなので、良いアドバイザーがいれば曲解のリスクを避けられます。
幸せになりたいなら、自分でサイコロを振り直そう

生きづらさを感じる原因として、そもそも仕事が自分に合っていない可能性はありますか?
鈴木:もちろんありますよ。たとえば許容できるコミュニケーション量に注目してみてもいいかもしれません。
仮に対人で仕事をしていて、人よりも疲れ過ぎてしまうという場合は、そもそも自分の許容できるコミュニケーション量を超えている可能性があります。そういう人は、大人のやりとりが少ない仕事や業務に変えてみるのもいいかもしれません。
友人であるプランナーの吉田将英さんが「コミュニケーション・スタミナ」という言葉を使っていましたが、相手のニーズに応える技術はあっても、スタミナが少ないということは往々にしてあります。残量に注意してあげて欲しいですね。
仕事がうまくいかない時に、自分に合っていないから転職すべきなのか、あるいは単に能力が足りないだけだから踏ん張るべきなのか、どう判断すればいいのでしょうか?
鈴木:ポイントは3つあります。一つ目は我慢の使いどころを知ること、二つ目は今の場所にいる自分が好きかどうかを判断すること、三つ目はサイコロを自分で振り直すという感覚を持つことです。
一つ目はとてもシンプルです。すなわち「我慢が必要な期間が短期で済む」「我慢することで得られるメリットが明確」という2つの条件が揃えば踏ん張る価値があると判断できますし、そうでなければ降りてしまってかまわないと思います。
二つ目もシンプル。今の仕事を続けていくことで自分のことが嫌いになるような場所なら、そこで働き続ける理由はありません。これは、一緒に働く人の影響もすごく大きいと思います。
自分が蔑ろにされている環境で頑張ると、だんだん自分のことも周りのことも嫌いになっていくんですね。逆に、そこにいて将来の自分が好きになれるイメージがあるなら、踏ん張って頑張ってみてもいいと思います。
三つ目はつまるところ自分の人生について、自分で意思決定をするということです。そもそも仕事のミスマッチは起こるものです。
自分の特性や能力値をしっかり把握している学生は少数派ですから、特にファーストキャリアでミスマッチが起きる可能性は高いです。いろいろな方の相談に乗ってきた経験上、ファーストキャリアがマッチしている人って2割もいないんじゃないかと思いますね。
ほとんどですね。
鈴木:はい。そこで「石の上にも三年」なんて古い常識に囚われずに何が合わなかったかの仮説を立てて、自分でキャリアのサイコロを振り直す。選んだ責任をちゃんと引き受けつづけることができれば、その人にとって本当にフィットするキャリアが見つかる可能性は大きく変わります。
一方で、明らかにミスマッチなのにズルズル続けて、「いまさら転職なんて」という考え方になっている人は、どうしても幸せにはなりづらくなってしまいます。
自分にフィットする場所は必ず見つかる
あまりにミスマッチが続くと、「そもそも自分が社会不適合者なのではないか」と考えてしまいそうです。
鈴木:確かに仕事のミスマッチは1回あたりのダメージが大きいので、一度や二度のミスで「自分が悪いんだ」と考えがちです。私自身も経験があります。
でもそれはね、ないです。ありえない。
確かに「社会人とはこうあるべし」みたいな、勝手に抱いている幻想を押し付けてくる人もいますから、「自分は社会人に向いてないのではないか」という思考になる気持ちもわかります。
しかし「社会」というのは、他者の集団です。1つや2つの小さな社会(=会社)と合わなくても、視野を広げていけば必ず自分にフィットする場所が見つかるものです。
小・中学校という選択の余地の少ない小さな社会で自分と合う友達が見つけられなかった人が、高校・大学で一生の友達に出会うこともある。コミュニティが変われば、対人関係は変わるんですよ。
多くの人は「一般社会」というものが先にあり、それに自分を合わせて当てはめていくことで「社会人」になるというイメージを持っていると思うのですが、さっき言ったように社会は他人の集合なので、最終的には社会は自分の手で定義するものだと思っています。
要は、自分がどういう人たちとどんなことをして「社会」を形成していきたいか、ということも大事なんです。常にこっちが合わせるのではなく、こっちも選ぶ立場なんですよね。
そういう感覚でいくと、閉塞感は軽減していくんじゃないかなと思います。
勇気の出るメッセージですね!本日はありがとうございました。
[インタビュー]頼母木俊輔 [文]鈴木 直人 写真©️ウートピ [編集]サムライト編集部