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文系ってこれからどうすればいいんだろう?
製造や医療の現場をはじめとして人工知能が活躍を始め、2020年から小学校でもプログラミングが必修科目となった日本。文系のビジネスパーソンのなかには「いったい自分はこれからどうすればいいんだろう?」と漠然とした疑問を抱いている人も少なくないのではないでしょうか。
ここではこの疑問に答えるために、岩崎日出俊さんの著書『文系が20年後も生き残るためにいますべきこと』を参考に、文系を取り巻く状況と、今求められているアクションについて解説します。
「文系」を取り巻く状況
時代の変化への対応策を考えるうえでは、何よりもまず現状をきちんと認識することが重要だからだ。
引用:前掲書p49
「文系ってこれからどうすればいいんだろう?」という問いの答えを見つけるためには、まず文系を取り巻く状況を理解しなくてはなりません。以下ではこれについて「人工知能」「労働市場」の2つの切り口から考えてみましょう。
●人工知能は20年で文系の仕事を奪う
2013年に英国オックスフォード大学で人工知能(AI)などの研究をしている、マイケル・A・オズボーン准教授は、同大学のカール・ベネディクト・フレイ博士とともに「雇用の未来−−−コンピュータ化によって仕事は失われるのか」という論文を発表しました。
かなり話題になったので覚えている人も多いかもしれませんが、702の職業についてAIに取って代わられる確率を試算した論文です。これによれば10年から20年程度の間に、アメリカの総雇用者の47%の仕事が自動化される可能性があるとされています。
これはあくまでアメリカの話ですが、2015年に野村総研がオズボーン准教授らとともに日本に対しても同じ試算を行なっています(日本の職業数は601)。そしてこの試算で10年から20年程度の間に、49%もの雇用者の仕事がAIやロボットに代替されてしまうという結果が出たのです。岩崎さんは代替される職業100種の中に事務員とつく職業の多さに注意を促します。
「事務員」とつく職業が、100種類の代替可能性の高い職業のうち15種類にも及ぶ。
引用:前掲書p39
同時に受付係や窓口係、レジ店員などの接客販売も、代替可能性の高い職業に含まれていることを指摘しています。なぜかといえば、文部科学省「学校基本調書」によると実に73%の文系出身者が事務・販売・接客の仕事についているからです。
これらの人全てが10年から20年程度で仕事を失うと考えるのは早計ですが、それでもAIの発達が文系の仕事に及ぼす影響力はかなり大きいと言わざるを得ません。
「グーグルも実施している人工知能を使った採用の未来とは?」で紹介したように、Googleの人事トップは『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』の中で、人事においてAIを利用していることを明かしています。
また企業の会議や病院での診察のほか、コールセンター業務(三井住友銀行)や新商品の需要予測(アサヒビール)といった分野にもAIは進出しています。(詳しくは「転職した方がいい?人工知能時代のビジネスマンの生き残り方」を参照)
しかもAI技術やロボット技術は年々発達しています。これを無視して、今後の仕事を考えることはできません。
●日本の労働市場における文系の立ち位置
日本型経営の崩壊は随分前から言われていることですが、岩崎さんはこの日本型経営のうち、新卒一括採用の恩恵を特に受けていたのが文系だと指摘します。岩崎さんによれば新卒一括採用と終身雇用制度は「学校を卒業したばかりの、まだなんの知識も技術も持っていない学生を雇い、会社で育てていく」(前掲書p85)慣習だとしています。
大学卒業後すでに一定の知識と技術を持っている場合も多い理系とは違い、大半の文系はまさに「まだなんの知識も技術も持っていない学生」でしかありません。
文系のビジネスパーソンの中には、今の会社以外で役に立つようなスキルや経験を身につけておらず、会社内でしか通用しない人間関係などの構築に労働時間を費やしている人もいます。こうした人たちは今後人員削減の対象になったり、不満を抱えたまま非正規社員に甘んじるリスクが高くなるでしょう。
実際非正規労働者の割合は理系17%文系38%と文系が高く、男性に限った場合でも理系12%文系19%と文系の方が高くなっています。また年収の面でも差が出ており、男性文系出身者の平均年収が550万円(平均年齢46歳)に対して男性理系出身者の年収は601万円(同左)となっています。
もちろんこうしたデータはあくまでデータに過ぎず、現実を正確に示しているとはいえません。しかしこういったデータが出るほどには、文系と理系の間には差があるという事実は厳然として存在するのです。
「文系」に求められるアクション
数字やITに弱いのが「文系」だとすれば、そのような枠組みに収まっていることは、人工知能と労働市場の変化からしてかなり危険な状態です。これを克服するためには「文系/理系」の枠組みから脱出し、より柔軟にスキルを獲得していく必要があります。
以下では岩崎さんが著書で挙げている「文系のあなたの人生を一変させる『9つの戦略』」を参考に、そのエッセンスを紹介します。
●「三種の神器」を会得する
岩崎さんが挙げる三種の神器とは「英語」「ファイナンス」「プログラミング」です。現在英国リアクション・エンジンズ社が開発しているエンジン「SABRE」や、米国ブーム・テクノロジー社が開発している超音速旅客機は、2020年代にニューヨークと東京をたった3時間で結ぶ可能性を強く示唆しています。
世界は時間的な意味でますます小さくなっていくでしょう。このような状況で英語は重要なコミュニケーション手段になるはずです。
ファイナンスとは企業にまつわるお金全般の知識を指します。ファイナンスの知識を持っていれば、より経営者に近い場所と思考で仕事ができるようになるでしょう。もちろん企業をするときにも役立ちます。
川崎さんは「やさしい本が出ているので、まずは基礎から体系的に身につけていってほしい」(前掲書p171)と、基礎から地道に学ぶように勧めています。
プログラミングについてはまずどんな仕組みでプログラムが動いているのかを理解するだけでも、仕事に役立ちます。訳も分からずプログラムの恩恵だけを受けていては、早晩AIに仕事を奪われかねません。
コンピュータが何が得意で何が不得意なのかを理解すれば、AIとどうやって住み分けをすればいいかもわかります。子ども向けのビジュアルプログラミング言語「Scratch」や、Googleがオープンリソース化している自社開発の人工知能ライブラリ「TensorFlow」に触れてみるのもいいでしょう。
●思考力を身につける
思考力とは論理的思考力と科学的思考力、そして自分の頭で考える力を指します。論理的思考=ロジカルシンキングについてはキャリアサプリでも「ロジカルシンキング超入門!『考える』ための8つのポイント」などで触れてきました。論理的思考力がなければ建設的な議論はできません。
建設的な議論ができない人材は意思決定の場には不要です。理系ならば潰しが効くスキルがあるかもしれませんが、文系にはそれがありません。そうして仕事を失わないためにも論理的思考力は必要なのです。
科学的思考力については「文系でも身につけられる!科学的思考のエッセンスと科学との『正しい付き合い方』で、そのエッセンスについて解説しています。分析されたデータをどのように解釈するか、あるいは意思決定のためにはどんなデータが必要なのか。
ビッグデータがより大きな力を持つ今後のビジネスにおいて、そうした思考力は文系・理系問わず重要になっていきます。
論理的思考力や科学的思考力はいわば技術ですが、自分の頭で考える力は意志の力です。日本の組織は同調圧力が強い傾向にあります。同調圧力に「屈している」感覚があるうちはまだマシですが、それが当たり前になっていくと自分の頭で考えて判断するリスクを無意識に回避するようになります。
こうなればもはやAIには勝てません。組織の中にあっても自分の頭で考える意志の強さ、組織とは違う意見や価値観を受け入れていく寛容さ。それこそが今後求められる自分の頭で考える力です。
「文系/理系」の境界線を乗り越えよう
私たちは「文系/理系」という区別を当然のように受け入れていますが、そのままではいつまでたっても「自分は文系だから」という言い訳から逃れられません。
ここで見てきたようにいわゆる文系を取り巻く環境は悪化しており、いままで理系のものとされてきたスキルや知識が求められています。いまこそ「文系/理系」の境界線を乗り越え、20年後も生き残る人材になっていきましょう。
参考文献『文系が20年後も生き残るためにいますべきこと』

