予測できない不安な時代の戦略
人工知能が遂に将棋の名人を破ったニュースが世間を沸かせたのは記憶に新しいでしょう。昨今のテクノロジーの進展は目覚ましく、ワクワクさせられます。一方、人工知能の飛躍的な性能の向上により、人工知能が人間の仕事を奪う可能性が現実的なり得ると憂慮されるようになりました。
現状、安定している仕事に就いているとしても、いつの日かAIに取って代わられるのではないかとキャリアの不安が付きまといます。
そんな次に何が起きるか予測できない不安な時代。キャリアを考えていく上ではある1つの戦略を参考にすると良いかもしれません。その戦略とは、デリバティブ・トレーダーで作家のナシーム・ニコラス・タレブ氏で著作で繰り返しその有用性を語っているバーベル戦略です。
バーベル戦略とは、不確実性を排除することではなく、手なずけることなのだ。
ナシーム・ニコラス・タレブ 反脆弱性[上] ダイヤモンド社[Kindle版] Kindle位置番号3631
不確実性、変化、混乱に強いバーベル戦略をキャリア形成に応用していくことも可能です。本記事ではタレブ氏の反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方を参考にバーベル戦略についてご紹介します。
ブラック・スワンとは
タレブ氏の著作の「ブラック・スワン」というタイトル名はどういう意味なのか一言で言うと、「予測できない、甚大な被害を与える事象のこと」です。
ブラック・スワンは英語で羽毛が黒い白鳥のことを指します。欧州では、もともと白鳥はすべて白いと考えられていました。しかし、1697年、オーストラリアにて欧州の探検家が羽毛の黒い白鳥を発見。この発見は当時の人々が予測していなかったことであり、大きな驚きを与えました。
さらに、ブラック・スワンは羽毛が黒い白鳥のことだけでなく「予測できない、甚大な被害を与える事象のこと」という意味でも使われるようにもなりました。ブラック・スワンは金融危機、自然災害、またテクノロジーの劇的な進化で人の仕事が消失することも含められるでしょう。
ブラック・スワンを迎え撃つバーベル戦略
タレブ氏はデリバティブ・トレーダー、金融業界出身の作家です。そんなタレブ氏は10%の投機的なハイリスク・ハイリターンの資産、国債などの90%のローリスク・ローリターンの資産を組み合わせるバーベル戦略こそがブラック・スワン対策に向いていると語ります。
現にタレブ氏はバーベル戦略でブラック・スワンを迎え撃っています。2007年にサブプライムローン問題を発端とした金融危機が発生。株式相場が世界的に下がり株価も大きく下がりました。
資産が株価だけであれば莫大な損失を被る状況でしたが、タレブ氏は金融危機以前より未曽有の金融危機、まさにブラック・スワンが起こり得ると考えプットオプションを大量に購入していました。
そして、実際に金融危機が発生。株価の暴落により、ブラック・スワン対策に購入していたプットオプションが大幅な利益を出しました。このプットオプションこそがバーベル戦略における10%の投機的なハイリスク・ハイリターンの資産に値します。
もし、100%の資産をローリスク・ローリターンの株式にしていたら甚大な損失をこうむっていたことでしょう。投機的なハイリスク・ハイリターンな賭けがリスクヘッジとなった例です。
バーベル戦略は様々な分野に応用可能
タレブ氏はそのバーベル戦略を金融、交際、身体、キャリア等と様々な分野に応用できると説いています。バーベル戦略では金融と同じように90%のローリスク・ローリターンの要素、10%のハイリスク・ハイリターンの要素の両極端の要素を組み合わせることが重要です。バーベル戦略をキャリア形成に応用するとはどのようなイメージでしょうか。
タレブ氏は作家を例に挙げています。作家は周知の通り、基本的に成功する人が一握りであり、専業とするにはかなりリスキーな仕事です。
歴代のフランスの著名な作家たちは公務員のような雇用が保証されており、非常に安定した仕事を選んでおり仕事後に執筆に打ち込んでいたようです。しかし、その作家活動の成果が実るとそのリターンは非常に大きいものとなります。
タレブ氏は他にも一定期間は書籍編集者のような安定した職業について、その後に投機的でリスクの高い仕事につくケースについても言及しています。それも、バーベル戦略に近いキャリア形成となります。
もし投機的な高い仕事に失敗したとしてもすでに長い年月働き、かつ世の中から求められるスキル、実力がある編集の方に戻ることができます。
バーベル戦略で不確実性のあることにもチャレンジしていく
人口知能、IoT、電気自動車など様々なイノベーションが出現しています。従来の仕事のあり方が大きく変わる可能性もあります。安定していると思われる企業、職業が突如としてなくなってしまう可能性もあるでしょう。
私たちは予測できない、甚大な被害を与える可能性のある事象ブラック・スワンを迎え撃つためにもバーベル戦略をキャリアに応用していくと良いのではないでしょうか。
平常時では安定した仕事に90%注力しつつ、10%は成功するかしないか分からないけど面白いこと、今後ニーズが生まれそうな投機的な取り組みに対してトライしていくことがリスクヘッジとなり得るのです。
このバーベル戦略に沿ったキャリアを経た人物としてYouTuberのヒカキンのことが思い浮かびました。もちろん、彼はバーベル戦略を知っていてYouTuberになったわけではないです。
しかし、極めてバーベル戦略的なキャリア形成をしてきた人物だと思います。スーパーの店員を堅実にやりつつ(※計4年勤めたそうです)。
YouTuberという言葉が浸透していなかった2007年頃からYouTubeへの投稿を開始しています。さらに、ヒカキンは反応が薄くても粘り強く投稿を続けました。
実は、ヒカキンはアメリカで既に成功していたYouTuberであるミシェル・ファンの講演会に行ったことをキッカケに日本でのYouTubeにいち早く大きな可能性を見出していたのです。
安定した仕事を1つ持ちつつ、興味があったり、これから台頭しそうな(しかし、周りは誰も手を付けていない)領域に関わることには大きなメリットがあります。
成功するかどうか分からなくても自分が面白いと感じていること、人工知能、IoTなどこれから来るかもしれないと思うことに積極的に関わっていくこと。それが、本人に莫大なリターンをもたらしかつ最大のリスクヘッジにもなり得るのでしょう。
