上海出身・元SEの執行役員が「日本のIT業界で働く理由」と、肌で感じる中国との違い——ベース株式会社・孫輝さんインタビュー

「いうなれば、日本と中国のSEの“いいとこ取り”なんですよ。国籍も考え方も多様な社員が集まることで刺激し合い、新しいアイデアが生まれやすくなるのです」

そう自社について語るのは、ベース株式会社の執行役員・孫輝(Son Ki)さん。同社は1997年に中国から単身来日した創業者・中山克成さんが設立し、最新IT技術によるソリューションを武器に、顧客の課題解決や競争力の強化に取り組んできました。

はじめは4人だった従業員も現在は約850人に。2020年には東証一部上場を果たし、毎年前年比120~130%の成長を続けています。

同社はなぜ“高速成長”できるのか――。そのヒントは、「日本人と外国籍の社員比率が5:5」という社内の多様性や、「芝生戦略(※)」の実施に伴う若手管理職の育成方法にあるようです。
SE出身で来日15年目を迎える孫さんに、日本と中国のIT企業の違い、日本で働く魅力、同社の今後の展望について伺いました。

※芝生戦略とは、同社の事業拡大を目的とした事業戦略です。具体的な施策のひとつとして、本人の主体性と実力・実績に応じての管理職抜擢、および管理職育成に力を入れています。

「さらに上流工程の仕事がしたい」と15年前に来日

――孫輝さんをはじめ、貴社には外国籍のメンバーが多く働いているとか?

はい、日本人と外国籍の社員比率はおよそ半々で、外国籍のほとんどは中国籍ですが、最近は韓国、インド、ベトナムなどの出身者も増えてきており、国際色豊かなのが特徴です。

――創業者である中山克成社長も、中国出身とか?

そうなんですよ。中山が上海から単身来日した1987年頃はまだ中国が貧しく、月収は日本円に換算して1000円ほどの時代でした。SEだった中山はIT先進国である日本に憧れ、月収約20年分の大金を借金して来日。まずは日本語学習からスタートし、「10年後に必ず起業する」という目標を立てて入社した企業でITスキルを磨き、1997年に夢を実現しました。

――孫さんも上海出身で2007年にベース株式会社に入社されたとか。日本にいらした理由を教えていただけますか?

私が地元の大学を卒業した頃には、すでに上海は国際的な大都市に成長しており、当時の大学生の多くがMicrosoft社やIBM社など外資系企業への就職を目指していました。

私も外資系企業でオフショア開発と保守を経験。ただ、まだ若かったこともあり、さらに上流工程の仕事にも挑戦してみたいと海外に飛び出すことを決意しました。そこからさまざまなご縁をいただいて来日することになり、出会ったのが弊社(ベース株式会社)です。

入社後に待っていたのは、期待通りのチャレンジングな仕事でしたね。日本はサービスのレベルも高いし、人もすごく優しくて居心地がいい。想像以上に日本が気に入って、気づけば今年で来日15年目になります!

――入社後は、主にどんなお仕事を?

最初に取り組んだ仕事がSAP CRM(企業基幹システムであるERP領域で世界一のSAP社製品)の案件でした。当時は担当できる人材が少なかったためさっそくキーマンに任命され、2年ほどで軌道に乗せることに成功しました。いまでは弊社の中核をなす事業の一つです。

高速成長の理由は「芝生戦略」と「プラスα精神」

――貴社は毎年前年比120~130%の高成長を続けています。要因は何でしょう?

入社当時から創業者の中山は「一流企業を目指そう。上場しましょう。」とよく口にしていました。現状に満足せず、社員人数100人の壁、500人の壁、現在は1000人の壁をどう乗り超えていくのか。毎年マネージャーたちによる戦略会議を開き、自分たちの成長をもってその壁を突破しようと努めてきたことが、“高速成長”につながったと考えています。

優秀な幹部社員が育っていく「芝生戦略」も弊社ならでは。毎年、部長レベルの管理職を輩出しようと目標を掲げ、社内教育にとても力を入れています。

――孫さんが牽引役となったSAP事業を軌道に乗せるまでには、どんな苦労がありましたか?

入社当時から中国の一流大学を卒業したメンバーもそろっており、IT技術だけは他社に絶対に負けないという自負はありました。しかし業界的にもSAP事業に精通する人材が不足しているなか、どうやってお客様の信頼を勝ち取ればいいかと頭を悩ませる日々でしたね。

そこで大切にしたのは、顧客の期待以上のサービスを提供する「プラスαの精神」です。「やっぱりベースさんの技術力はすごく高いね」、「言わなくてもここまでやってくれたんだね」とお客様にちょっとした感動を生む。この地道な積み重ねが、事業拡大の要因ではないでしょうか。

感動を生むにはIT技術への執念も大切。さまざまな最新技術を勉強してノウハウを社内に蓄積し、それをお客様にも発信することで、案件が発生した際には我々に依頼してもらえる流れを地道につくっていきました。

日本と中国のIT企業の違いと、肌で感じる変化の兆し

――現在、中国はIT業界に限らず経済成長が目覚ましいですけれど、孫さんや貴社の社員が日本で働き続ける理由とは?

やっぱり日本が好きだからですね! アニメやドラマを観て、日本を好きになる中国人は結構多いんですよ。日本は世界一安全な国とも言われているし、人は礼儀正しくて優しくて。風景も美しいから旅行先としても大人気です。

そうそう、食べ物も大好きですよ。最初はワサビが苦手でしたけど、いまでは大好物。お刺身だけじゃなく、いろいろなお料理につけて楽しんでいます(笑)。
たしかに賃金面では格差があり、待遇は中国企業の方がよい場合もあるけれど、最近はその差も縮小してきたと感じています。

――日本と中国のIT企業、それぞれ優れた点はどこでしょう? 2つの国の視点をもつ孫さんから、日本のIT企業の改善点などは見えてきますか?

とにかく中国のIT企業はスピード重視。基本的には社内で人材を育てる「自前主義」ですので、DX推進にしても、いち早く戦略を実行できます。一方、日本のIT企業はベンダー主導の案件が多く、どうしてもサービス提供の動きが重たくなりがちだと感じています。

中国のIT企業は「とにかくやってみよう」の精神なんです。実証実験が非常に多く、もし失敗しても別の方法に切り替えてベストを模索する姿勢をよしとしています。これができるのもIT企業と、顧客企業の距離が近いから。両者がともにリスクを負い、プロジェクトが成功したら報酬を、失敗したら経費を折半する。つまり「一緒に投資する」という考え方も結構増えています。

対して日本のIT業界は「これはベンダーの責任、これはユーザーの責任」と、分岐点を重視している印象が比較的あります。どんな些細な内容でも社内で検討会を開いて議論する。来日当初はそんな意思決定の遅さにカルチャーショックを受けたものです。たしかにスピードは遅くなりがちですが、その分日本人の慎重さや品質に対しての信念は卓越したものがあり、クオリティへの安心感が非常に高いのは間違いありません。
その点中国は「成功すれば、そこから品質強化すればいいじゃない?」というスタンスが一般的ですね。

――日本のIT企業に変化の兆しはありますか?

最近はスピード重視でスモールスタートを切るお客さんが増えてきたと肌で感じています。以前は、設計書のフォントや線のズレまで指摘されることも珍しくなかったのに、近年は慎重に議論する部分と、素早く決定する部分のメリハリをつける効率重視の企業も増えてきたのではないでしょうか。

とはいえ弊社は超大手企業の案件が多いため、アジャイル(小単位で実装とテストを繰り返して素早く開発を進めること)は難しいのですが、もし将来的にエンドユーザー向けの事業を行うことになれば、効率重視のDXサービスを届けたいですね。

日本と中国の両方で採用活動を実施

――2年前に30代の若さで執行役員となられた孫さんですが、現在のミッションや貴社の展望を教えてください。

2020年に弊社は東証一部上場し、我々にとっては新たなスタート地点となりました。今後も「超一流企業」を目指して高速成長を続けていきます。SAP事業はERPシステムサポート期限切れによる移行対応の特需が2030年ころまで続くと思うので、しっかりとチャンスを掴んで売上を倍増させていけたら。

また、成長の見込める新サービスの開拓もミッションです。直近では日本でもホットになりつつあるクラウドインテグレーションのプラットフォーム「ServiceNow(サービスナウ)」にまつわる事業に注力しています。また、中国を含めた海外のソリューションを活用したサービスを日本でも提供できるよう、準備を進めていきたいです。

――貴社は、日本と中国の両方で採用活動をされているそうですね。

はい。コロナ禍もあり中国での採用は若干難航していますが、日本人と外国籍の社員の割合を5:5に維持する採用方針にいまのところ変わりはありません。国籍がどちらかに偏っていると、少数派はちょっぴり居心地が悪くなるし、カルチャーの融合の点でもスムーズにいきにくいのかな、と。

要するに、日本と中国の“いいとこ取り”をしたいわけですね。多様性があると刺激があり、新しいノウハウややアイデアが生まれてきやすいと実感しています。

――最後に、貴社へ転職に興味のある読者にメッセージをお願いします!

弊社では20代、30代で部長になる社員も珍しくありません。年功序列もなく、実力と結果重視で若い方にもキャリアアップのチャンスをたくさんご用意しています。さきほどお話しした、「芝生戦略」による管理職抜擢、育成もその一例です。
もちろん40代や50代の方も、実力があればどんどん昇格できます。ここ数年で部門数も倍増しており、ご活躍いただけるポストをご用意できますので、ご興味のある方はぜひ夢を持って応募いただければ嬉しいです。

[文・撮影]城京子 [編集]サムライト編集部