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AIは人事を変えている
みなさんは人工知能(AI)進化がすでに「人事」という極めて人間的な領域まで到達していることをご存知でしょうか。Googleの人事トップの著書『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』で明かされたのは、同社のAIを利用した採用活動でした。そこにあるのはKKD(勘・経験・度胸)頼みの日本の採用活動とは桁違いの「科学性」「客観性」です。
ここではアメリカでのAI人事の最前線を紹介するとともに、AI人事時代に人間ができること、するべきこととは何かを考えていきます。
AI人事はここまで進化している!
●サンフランシスコ スパーシット社
サンフランシスコに拠点を置くスパーシット社は、8つの簡単なゲームをプレイするだけで「クリエティビティ」「イノベーション力」という非常に重要な能力の測定ができるテストを提供するベンチャー企業です。もちろんウェブ経由で測定可能で、しかも個人だけでなくチームや企業全体のスキルの測定ができます。
イノベーション人材を採用することは、開発スピードが要求される現代ビジネスにおいては人事の使命の1つとなっています。しかし人間だけの力では、人事担当者のKKD(勘・経験・度胸)や採用希望者の「学歴」といったアナログな不確定要素に頼るほかありません。AIならばそれをビッグデータを利用して、科学的・客観的に判断できるのです。
スパーシット社のサービス利用者は提供開始から半年強で2万4000人(企業が80%、学生20%)とうなぎのぼり。今後はより普及していくと考えられます。
●ニューヨーク CAE社
ニューヨークのCAE(Council for Aid to Education)社が開発したのは、「クリティカル・シンキング力」「コミュニケーション力」を測定するオンライン・テスト「CLA+」です。
CLA+は機械学習を反復させることで、人間並みの「クリティカル・シンキング力」と「コミュニケーション力」の評価能力を備えたAIで、アメリカを中心とする世界の大学はもちろん日本でも秋田の国際教養大学で導入されています。
人間にこれらの能力を評価させた場合に生じる「お金」「時間」「労力」といったコストは全てAIが引き受けてくれ、担当者は採用の可否だけを判断する時代がすでにそこまで来ているのです。
今の日本の人事は、何が問題か?
こうした状況にあって日本の人事担当者がまずするべきは、現状の人事が持つ問題点への理解です。
『人工知能×ビッグデータが「人事」を変える』(福原正夫・徳岡晃一郎著)では問題点の1つとして「暗黙知マネジメント」が挙げられています。これまでの日本の人事はKKD(勘・経験・度胸)という非常に主観的な要素に頼って運営されてきたため、人事のノウハウが「語ることができるもの」として形成されていません。
これを前提にマネジメントをするため、どうしても個人の裁量が大きくなり、結果属人主義的なマネジメントにならざるをえないのです。それが引き起こす弊害は言わずもがなでしょう。
もう1つ問題点の具体例を挙げるとすれば、現状の人事ではAI時代に移行することさえできないということです。日立キャピタルの人材総括本部長を務める菅原明彦さんは、「タレントマネジメントで有効なデータは『どういうプロジェクトのどういう立場で何を実現したのか』というようなものですが、日本の人事部ではこういう情報を持っていないのが通常です」と言っています。
データがなければAIも有効性を持ち得ません。このままでは正当な評価を求めて国外へ流出する優秀な人材は、今よりもっと増えるでしょう。こうした問題を1つ1つ理解し、そのための解決策を講じていく姿勢がAI人事時代には必要となります。
AI時代の人事にプログラミングスキルは必須

そのために必要不可欠なスキルが「プログラミングスキル」です。何もシステムエンジニア並みのスキルを身につけろ、というわけではありません。しかしプログラミングの基本的な知識がなければAIやビッグデータを事業に活用するためのアイディアに限界が生まれます。
仮に専門家であるCIO(最高情報責任者)などを置いてみたところで、当のCIOが人事や他の業務について門外漢であれば同じです。AI単独・人事単独ではなく、いかにしてそれらを組み合わせていくかがAI人事時代には必須の考え方なのです。
プログラミングを一から学ぶにはオンライン学習を利用しましょう。すでに日本では「ドットインストール」や「CODEPREP」などのサービスが展開されているほか、「Codecademy」などの世界的なオンライン学習サービスも日本語対応し始めています。
またAI×ビッグデータなどの横断的なテーマを勉強したければ、世界中の大学の講義が一部を除き無料で受講できるオンライン学習サービス「MOOCs」(一部日本語字幕あり)を利用するのも手です。
AIに使われないために必要な「ITリテラシー」

日本の企業全体のIT投資が売上高に占める割合は1%であるのに対し、欧米のそれは4%程度とされています。このことからも現在の日本ビジネスマンの多くが、ITリテラシーを身につけないままIT時代をさまよっていることがわかります。
AI人事時代になればビッグデータを利用して、より個々人に合った人事が可能になります。しかしこれもITリテラシーがあってこそのもの。それが不足したまま個人の主観に基づいて個別人事を実施すれば、それは単なるえこひいきになってしまうからです。
これまでの日本の人事はこのえこひいきを排除するために一律の人材マネジメントを心がけてきました。ところがAI人事時代において、それは単なる手抜きでしかありません。
昨今のキーワード「ダイバーシティ(多様性)」の観点からも、もはや一律の人材マネジメントは時代遅れです。これからの人事には、オンライン学習や実地訓練を通したITリテラシーの習得が急務となるでしょう。
AIと共存するための「哲学」「価値観」
●必要条件と十分条件
プログラミングスキルやITリテラシーはこれからの人事にとっての必要条件ですが、十分条件ではありません。AIに使われる人事ではなく、AIを使いこなす人事でなければ遅かれ早かれ機械に仕事を奪われることになるからです。AIを使いこなすには各人が自分の哲学や価値観をしっかりと確立している必要があります。
現状AIができるのは「有力な選択肢を示すこと」だけです。最終的な判断を下す主体が人間であることは、今後も変わりません。しかしその時に哲学や価値観がなければ、結局はAIに使われているだけになってしまいます。
●考えずには生きていけない時代へ
これは人事に限った話ではありません。AI時代のビジネスパーソンはもはや考えずには生きていけないのです。自分の頭で考えずにただ指示された仕事だけを処理する人材は、あっという間にAIに淘汰されていくでしょう。
この事実にしっかりと向き合うとともに、AIがもたらしてくれるメリットを最大限に生かすためにも、私たちは変化し続けなくてはならないのです。
参考文献 『人工知能×ビッグデータが「人事」を変える』,『Works 125』,『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』
