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転職エージェントをよく知ることで活用方法につなげる
「彼を知り己を知れば百戦危うからず」(現代表記に修正)
孫氏の兵法に登場する有名な言葉です。後ろに続く文もあるのですが、今回はこの一文だけで十分なので省略します。
ここでいう己とは、今回のコラムで言えば転職者自身ですよね。自分自身を知らずして、転職が成功するはずがありません。
そして一般的には転職市場における「彼」とは転職先の企業のことです。ただ、今回は目線を少しずらします。「彼」を転職エージェントと見立て、その「彼」を知ることから始めます。
転職エージェントの活用を強くおすすめする記事が最近続いたので、今回は違う角度から攻めてみます。転職エージェントの構造を含め、転職について広く考え、問題点や考えなければいけないことを明らかにします。
その上で、転職エージェント活用の百戦錬磨を目指せればと思います。
転職エージェントの戦いのフィールドについて知る
まずは転職エージェントが普段活躍している転職というフィールドについて広く俯瞰してみます。
求職者が転職先を探して実際に働き始めるまでには、おおまかに次のプロセスを踏みます。
・出会う
・お互いをよく知る(ときに省略されます)
・お互いに見極め合う
・マッチングが成立する(雇用契約を交わす)
・働き始める
転職エージェントはこの全てにおいて専門のコンサルタントが介在しながら求職者と企業それぞれの立場に立って転職(企業側からすれば採用)をサポートしてくれます。
また、重要なのでデリケートな部分に触れますが、転職エージェントは上記プロセスをサポートし、雇用契約が成立したら企業から当該求職者の年収の20〜35%程度を報酬として受け取ります。
年収1000万円の人であれば、200万円〜350万円程度です。
利益率は高いですが、それだけ専門のサービスを高い価値で提供しているということもできます。
企業は転職後に活躍してほしいと考えている

ここで話を企業に移しましょう。
企業はなぜ中途採用をするのでしょうか。良さそうに思える(選考プロセスにおいて良い評価をした)人材を採用することがゴールなのでしょうか。
もちろん、採用はゴールではありません。ある特定の業務やタスク(ジョブ)において理想とするパフォーマンスや価値提供をするためのリソースが足りないため、手段のひとつとして採用をします。
ここでリソースと書いているのは、タスクをコンピューターが実行してくれるのであれば人材は不要であるかもしれないためです。
ですので目的は採用そのものではなく、採用した人が期待通り、あるいは期待を超えるようなパフォーマンスを出したり価値提供をしたりすることで業務やタスク(ジョブ)を成功させることにあります。
転職エージェントの活躍範囲と企業の目的のギャップ

ここで再び先ほどの転職プロセスを登場させ、さらに企業の目的も追加してみます。
・出会う
・お互いをよく知る(ときに省略されます)
・お互いに見極め合う
・マッチングが成立する(雇用契約を交わす)
・働き始める
——↑↑ここまでが転職エージェントの活躍範囲↑↑—–
・働いてパフォーマンスを発揮して価値提供をする
人材というマーケットにおいて、本質的にコミットすべきは最後の「パフォーマンスの発揮」であるのに、転職エージェントはそこまでは関与しません。
もちろん、言うは易しですが、実際にはコトは複雑です。
パフォーマンスを発揮できないのは企業側のサポートや環境が原因である(あるいは求職者に知らせていた情報と現実に乖離がありすぎる)ことのほうが多いでしょう。
また、企業においても採用担当者という採用に特化した役割の人がいて、採用担当者の目的(や目標管理制度上の目標)は採用数の確保、採用期日の遵守、予算内の遂行、であり、パフォーマンスは達成すべき項目に入っていないケースが多々あります。
転職エージェントのカウンターパートがこの採用担当者だった場合、転職エージェントがパフォーマンスまで管理するのは非常に困難です。
事情はどうあれ、転職エージェントが活躍する範囲と、企業が採用の結果として本質的に求めたいこと、にはギャップが現実として存在しています。
このギャップの存在で何が起こるか
ここでの話はあくまで仮定も含め、構造上起こりうる話、という意味で書いています。
悪巧みをする転職エージェントがいた場合、求職者に多少合わなくてもやや強引に説得し、書類選考や面接をサポートして転職できれば報酬が受け取れる、と考えるかもしれません。
また、その求職者が転職先で折り合わず、やがて再度転職先を探すときにはまた同じ構図が繰り返されます(転職エージェントにとってまた報酬を受けとる機会が訪れます)。
もちろん、企業もこのような転職エージェントはおかしいと気づくでしょうから、そう簡単に悪巧みが成立するわけではありません。
あくまで構造上このようなことが起こる、という話です。
またこれは余談ではありますが、筆者は今の転職エージェントの報酬体系は制度疲労を起こしていて抜本的に変化を起こさないといけないな、とは感じています。
彼を知り、では己はどうするか
ここまで読んでいただければ、転職エージェントという存在についてある程度理解ができたのではないかと思います。
転職エージェントに転職相談したことがある人は、「この人はなんて親身になって相談に乗ってくれるのだろう」と感じたことがあると思います。もちろん、本気で転職をサポートしたいと考えてくれているでしょうし、そうすることで人の役に立ちたいと考えてくれています。
一方で邪推すれば、親身になって相談に乗らないと他の転職エージェントに求職者を奪われたり、紹介率が低いと企業から依頼されなかったり、ということが起こり、それが報酬(売上)に影響するという流れが明確だから、という見方もできます。
ここまで書いて、ようやくタイトルの話に戻ってくることができました。
ですので、転職エージェントの選び方として重要なのは、親身になってくれるかどうか、ではありません。多くの企業を紹介してくれる、ということではありません。
あなた(求職者)のこれまでのパフォーマンスの発揮の経験を聞き、「この企業だったらあなたならパフォーマンスを発揮できますよ。なぜなら●●だからです。」という根拠をいっしょに作り上げてくれる人です。
この●●に入る言葉が薄っぺらいものではなく、本当に求職者と企業のことをよく知った上で客観的で納得感のある言葉が出てきたら、その転職エージェントは雇用契約だけでなく、パフォーマンスまで見ている人です。
転職エージェントは正直なところ相性もありますし、当たり外れもあります。
また、得意な業界やハイクラスに絞った求人、地域に強い求人、など各エージェントごとに特色もありますので、よく調べて複数のエージェントをあたるのがよいでしょう。
正しく活用できれば、究極に心強い存在
ここまで多少転職エージェントに対して批判的なことも書いてきました。それは、求職者側にも正しい知識を持ってもらい、ポジティブにキャリアを形成してほしいとの想いからです。
また、誤解のないようにお伝えしておきますが、筆者は転職エージェントは多くの価値を届けてくれる世の中に欠かせない仕事だと考えています。
特に、転職のプロセスの1番目、「出会う」が実際には1番難しかったりするのです。これは家探しや恋愛など、マッチングというビジネスが存在しているすべてのマーケットに言えることだと思います。恋愛において相性が、、というのは正しいのですが、そもそも出会いがないと何も始まりませんよね。
一般的には公開されていない求人も転職エージェントは多く抱えていて、出会いの提供という意味でも究極に心強い存在です。
求職者の皆さまも正しく知識武装をして、転職エージェントを有効に活用してみてください。

著者プロフィール:鈴木洋平(すずきようへい)
2002年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。システムエンジニアとして入社後、同社内で人事に転身。同社を退社後、「株式会社採用と育成研究社」を設立、同副代表。 企業の採用活動・社員育成の設計、プログラム作成、講師などを手掛けている。
・米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー
・LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター
http://rdi.jp/about-rdi