中途で入り直したほうが得なの?転職エージェントに聞いた、営業の転職市場のいま【2018年度版】

営業の転職市場

「営業ができれば応用が利くだろう」と思って営業職に就いたものの、今後のキャリア像が描けない。

キャリアアップのために転職を考えているが、営業として何をアピールするべきなのかわからない。

営業としての自分の将来について、こうした漠然とした不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。

そのような人のために今回は「LHH転職エージェント」のコンサルタントとして10年以上のキャリアを持つ森彩乃さんにお話をうかがいました。

営業が転職市場で置かれている状況や、営業の転職に必要な準備やスキルなど、リアルな現場からの視点は必見です。

営業の転職希望者の「8割」は営業職志望

−営業として働いている人は、どのようなパターンでキャリアアップしていくものなんですか?

森彩乃(敬称略、以下森):王道は営業として入社して実績を残し、役職を上げていくパターンですね。

他には新規事業開発などの企画サイドやマーケティングサイドに進んでいくパターンと、営業経験を生かした数値管理といった事務サイドに進んでいくパターンが多いです。

−営業を経験してきた転職希望者にはどういう人が多いですか?

森:私がお会いするお客様の場合約8割はそのまま営業希望ですね。特に男性の場合はほとんどが営業希望です。

営業という仕事は精神的にも肉体的にもタフなので、本音としては「営業の仕事に疲れたから事務などのバックオフィスに回りたい」と思っている人もいないわけではありません。

ただ一度事務になってしまうと、そこから次のキャリアに進もうとなったときに営業に戻れないとか、年収が下がるといったリスクが出てきます。

なので「営業の仕事が疲れた」という人は、営業の中でも時間や目標設定などが比較的ゆとりを持って働ける営業職を探すケースが多いですね。

また中には「これまでプラスチックを売ってきたが、次はクラウドサービスのようなIT分野に挑戦したい」という転職希望者もいます。

こうした有形のモノを売る仕事から、無形のサービスを売る仕事への転職は不可能なことではありません。

しかし目に見えるものを売るのと、目に見えないものを売るのとでは営業の手法が全く違ってきます。

それを理解した上で勉強をして、相応の知識を身につけていないと転職は難しいというのが実情です。

そのため私が転職エージェントとしてコンサルティングする場合は、本人の希望と経験をしっかりヒアリングしたうえでご判断いただくか、

一度実際に面接を受けてもらい選考を進めながら考えをまとめていっていただくという方法をとっています。

営業が転職を考えるなら「今」

−現在転職市場の動きが活発化していて、売り手市場になっていると言われます。これは営業でもそうなんでしょうか?

森:完全な売り手市場で、人材の何倍も求人がある状況です。特に大手は採用にかなり積極的です。

転職市場では比較的価値の高いとされる「大卒の一社経験」をはじめとして、めぼしい人材は大手が10人、20人という単位で採用しているという感じですね。

また5年ほど前ならなかなか転職が難しかった「若年層での大卒の二社経験」「大学中退」「短期間での退職」といった経歴の持ち主でも、近頃は内定が出るようになっています。

そんな状況なので転職エージェントとしては営業をかけなくても採用枠はいくらでも増えていくんですが、逆に人材を探すのが大変になっています。

私自身も転職セミナーに行って名刺を配ったり、マーケティング部門以外も集客しないと人材が足りない。それぐらい売り手市場です。

ただ東京オリンピックのある2020年以降は金融や建設の業界を筆頭に、比較的求人の数は減っていくと思います。

過去の傾向を見てもオリンピック開催国はオリンピック後に経済的に低迷しがちなので、いきなりガクンと減るということはなくても、多少は影響が出てくると思います。

そういう意味では「転職をするなら今」だと言えますね。

−「中途入社だと新卒入社より不利」という話も聞きますが、実際はどうなんでしょう?

森:超大手は別ですが、中堅から大手くらいの企業であれば「中途で入り直したほうがお得」というケースも多いですよ。

確かに課長とか部長といった役職を上げていこうとすると新卒入社のほうが有利です。

しかし、年収の分だけ求められる仕事のレベルは高くなるものの、そもそもの年収は中途入社の方が高くなることも少なくないです。

「非公開求人」ってありますよね。あれは現職の社員がその求人を見て「中途入社の方が年収が高いじゃないか」といって辞めてしまわないように非公開にしていることもあるんです。あまり大きな声では言えませんけど。

営業が転職を成功させるために必要なものとは?

−しかし完全な売り手市場にあるとは言っても、「どんな人でも転職できる」というわけではありませんよね?

森:それはそうですね。できるだけ確実に転職できて、しかも年収アップにもつなげたいとなれば、一定のスキルや資質が必要になります。

具体的には「数字・実績」「語学力」「ITスキル」そして「キャラクター」です。

●何よりもまずは「数字・実績」

まず「数字・実績」についてですが、営業のスキルって本質的にアピールしにくいんです。

私自身もそうですが、「営業を経験することで身につけたスキルは?」と質問されても正直答えられないという人も多いと思います。

海外での営業経験があれば「外国語が話せます」「翻訳ができます」といったように言語化できますが、国内ですと「コミュニケーション能力があります」くらいしか言えません。

でもコミュニケーション能力って書類や短い面接だけで証明できるものではないので、決定的なアピールにはなりません。

だから営業が転職しようとしたときに決定的なアピールになるのは「数字・実績」なんです。

これがない営業が転職するのは難しいと思います。売れない営業を採用する理由は企業側にはありませんから。

もし転職希望者の直近1年の数字が悪かったらその前の年の数字を使ったり、「なぜ悪かったのか」「改善するにはどうすればいいのか」を数値的な根拠と一緒に話せるようにしてもらったりしています。

あと本当に転職でキャリアアップしたいなら、積極的に新規事業チームに参加したり、企画に関わったりして職務経歴書に書ける仕事をしておくことです。

言ってしまえば「職務経歴書に書くために仕事を受ける」くらいの姿勢もありかもしれません。

リーダーとしてでなくても、新しいものを一から作り上げた経験がある人は企業も評価しますし、本人にも自信がつくので魅力的に見えるようになるからです。

●日常会話レベルの英語なら「喋れて当たり前」

次に「語学力」についてですが、これはもう何が何でも身につけておいた方がいいと思います。

特に英語は、もはや日常会話レベルなら「できて当たり前」という認識になっています。

採用する企業の担当者からも「英語はもちろんですが、中国語もできればもっと良い」という注文が入ります。「英語はもちろん」なんですよ。

また大手企業になると「TOEIC680点以上ないと部長にはなれない」など、語学力が役職者の基準になっているところもあります。

今はまだ点数が基準になっていますが、今後は外国語での商談経験などが基準になっていく可能性も十分あります。

●ITスキルも「あって当たり前」になってくる

続く「ITスキル」も、今後は身につけていて当たり前になってくるでしょうね。

最低でもパワーポイントの資料は自分で作れる必要はありますし、エクセルのマクロの組み立てや効率化のためのデータ作成・分析もある程度できればなおいいですね。

こうしたITスキルが「あって当たり前」になるというのは、英語と同様プログラミングも小学校の必修科目になることが決まっているからです。

近い将来新卒で入ってきた若い人に「エクセルでマクロ組むより、プログラム組んだ方が早くないですか?」と言われないためにも、今のうちから勉強しておいた方がいいでしょう。

●強いのは「キャラクターがいい人」

手のひらを返すようですが、私が今の転職市場で一番強いと思うのは「キャラクターがいい人」です。

多岐に渡る業界で需要がありますが、特に不動産や建設系、人数が少ない分フィット感をより尊重する中小規模の企業は「愛嬌がある」「素直」「一生懸命で放っておけない」といったキャラクターの人が強い傾向にありますね。

社内イベントとか社内の飲み会を大切にしている企業も多く、積極的な人も多いですが、逆に嫌がる人も増えていています。そのため採用する企業側から「ご飯に誘ったら参加する人」「飲みに行くことが苦手でない人」みたいな注文が入ることもあります。

こういうところはスキルとか実績とかではなく、シンプルに「人」での採用になります。

キャラクターさえ良ければ経験は関係ない、というケースも一定数存在するんですよ。例えばファストフード店で働いていた人や、居酒屋の元店長などが未経験で営業になるケースもたくさんあります。

「転職35歳限界説」は存在しない

−「転職35歳限界説」なるものがありますが、実際の転職市場ではどうなんでしょうか?

森:営業経験さえあれば定年まで転職は可能だと思います。確かにただ単に「モノが売れます」というだけでなくて、マネジメント経験がある、海外駐在経験がある、新規事業開発に携わっていたなど色々と年齢なりの条件は求められます。

でもその条件に合えば一発で採用は決まりますよ。だから40代だから転職は厳しいといったことはありません。特に外資系の企業では年齢不問というところは多いです。

ただ企業を転々としている人や、営業経験はあるけど途中でバックオフィスに入ってブランクがある人などは難しくなると思います。

そういう場合は転職エージェントのコンサルタントから見ても、採用する企業側から見ても「軸」がないように見えますから、どうしても転職時の信頼度が低くなってしまうからです。

慌てず焦らず「必要なもの」を準備していこう

2020年を境に転職市場も若干冷え込むことを考えると、現時点で「必要なもの」が揃っている人は転職活動をスタートさせるべきでしょう。

とはいえ森さんが言うように、そこまで急速に冷え込むとは考えにくいため、「必要なもの」が揃っていないのに転職しようとしても失敗に終わるだけです。

まだ準備が整っていない人は、慌てず焦らず自分の市場価値を磨いていきましょう。

Career Supli
今いる職場で次のステップを考えながら仕事することが重要ですね。
[取材・文]頼母木 俊輔 [編集]サムライト編集部