ひと昔前は、「お給料はガマン料」「転職は何かを得て、何かを失うトレードオフのようなもの」といった考え方が浸透していました。
しかし、書籍『転職2.0』の著者であり、世界最大級のビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービスLinkedIn(リンクトイン)の日本代表として日本での事業を牽引する村上 臣さんはこう語ります。「現在は自分の望み通りのキャリアを手に入れる時代だ」だと。本記事では、『転職2.0』を参照しながら、「理想的なキャリアを叶える方法」を探ります。
Contents
新時代における「転職」の考え方
村上さんが主張する「新時代の転職の考え方」のベースは、会社の指示に従う受け身の働き方から、「自分にとっての理想の働き方」を能動的に考えるところにあります。
といっても、自分だけが幸せになればいいという自己中心的な考え方ではなく、自分も、会社も、ひいては社会全体も幸せになるような転職を実現しようとする価値観と、本書では説明されています。これこそ、本書のタイトルである「転職2.0」なのです。
労働人口が縮小し終身雇用が崩れた現代では、会社の立場が弱まり、個人の立場が強くなっている傾向があります。そういった状況を利用しながら、自分の市場価値を高めていくことで、嫌なことをガマンしない働き方が実現すると村上さんは語ります。
本書では5つのコンセプトに触れられていますが、その中から2点をピックアップしてお伝えします。
●転職は「自己の市場価値を最大化するための手段」である
「転職1.0」の時代では、転職の成功自体が目的となっていて、希望の会社に入社さえできれば、あとは会社が敷いたレールの上を歩くような働き方が一般的でした。しかし、「転職2.0」においては、転職は自分の市場価値を最大化するための手段であり、転職するたびに確実に成果を出すことが求められます。
村上さんは「プロジェクトベースの働き方の一般化」にも言及。近年は、プロジェクトベースの働き方が浸透しており、フリーランスや社外の専門家のみならず、時には他社の人材が寄り集まって一つのプロジェクトチームを結成し、成果をあげる働き方も多く見られます。
会社員であっても、プロジェクトベースで確実な成果をあげることが重要になると村上さんは指摘しています。そんな有機的な働き方が当たり前の時代においては、何度も転職すること自体をネガティブに受け取られることがなくなり、“一定期間に何を成し遂げたか”が問われることになります。

これまでは目指すポジションを定めることなく、TOEICの点数アップや資格取得、社会人大学への進学等を通じて、漠然とスキルを高める人が多くいました。
しかし、「転職2.0」では、スキル思考よりポジション思考が重要になります。ポジション思考とは、目指すポジションが明確に定まっており、そのためのスキルを習得したり、そのポジションが得られる会社に転職したりする考え方です。
ポジションを選ぶ際は、十分に需要がある「熱いポジション」を選ぶことが重要。目指すポジションへのスキルが不足している場合は、何度か転職を繰り返して必要なスキルを身に付け、たどり着く戦略を立てると良いようです。
●自身の価値を高める「タグ付け」と「発信」

「転職2.0」の価値観において、欠かせないのが「タグ付け」というキーワード。まずは、自分のこれまでのキャリアを棚卸しして、浮かび上がるキーワードを並べてみる必要があります。村上さんいわく「誰もが強みを持っているが、それを明確にできていない人は案外多い」とのこと。強みの明確化は、転職のミスマッチを防ぐことにもつながるようです。
言い換えると、自分の市場価値を明確にするための作業こそ、「タグ付け」にほかなりません。そのステップは、以下の順序を意識して取り組んでみましょう。
1.職務経歴書を書く
まずは、自身のスキル、ポジション、業種、経験、コンピテンシー(ハイパフォーマーに共通する行動特性)をまとめた職務経歴書を作成します。このとき、フォーマットを活用すると便利です。
2.職種をコンピテンシーに分解する
あまり聞き慣れないコンピテンシーという言葉ですが、これは「ハイパフォーマーに共通して見られる行動特性」を指し、タグ付の過程においては欠かせない概念のよう。例えば、「チームへの貢献」「計画立案」「冷静さ」「行動志向」「情報収集力」などが、それにあたります。
3.解放
「解放」というワードだけでは実践内容が想像しづらいですが、言い換えると「外部の視点」を取り入れて自分のタグを構築していくこと。例えば、自分をよく知る友人や知人に「自分を自己紹介するなら?」と聞いてみるなど、他者のフィードバックをもとにタグを考えてみましょう。あるいは、自分が目指すポジションを募集する企業の求人情報を参照する、キャリアコンサルタントと面談するなどして、「目指すポジションに求められるタグ」を集めてみるのも効果的。
上記のステップを踏んで自分自身を「タグ付け」していくわけですが、本書では「子育て経験」もタグになると書かれています。そう考えると、趣味であっても本腰を入れてやっているようなことであれば、タグになりえるかもしれません。タグは多くても構いませんが、メインのスキルとなる一軍のタグ、オプションになりそうな二軍のタグと分けて、考えてみてください。
本書には、自身のタグ付けにおいてヒントになる「タグ分類表」が収めされています。そのほか、TwitterをはじめとしたSNSのプロフィールなどを見ると、うまく自分をタグ付けしている人が多く見られるため、参考にしてもよさそうです。複数のタグをかけ合わせることで、「自分の希少性」が生まれやすくなります。
自身のタグが定まったら、次にすべき行動は「発信」です。発信の目的は、市場に認知してもらうこと。発信のノウハウを知りたい場合は、専門書を読む、インフルエンサーのやり方をマネするなどの方法がありますが、フィードバックを分析しながらPDCAを回すのもアリ。
認知を浸透させるまでには、ある程度の時間がかかり、根気が求められます。それを承知のうえで、自身のタグを生かした一貫性のある発信を続けてみるとよいでしょう。
仕事は「会社」優先ではなく「シナジー」で選ぶ

本書では、仕事を選ぶ際、「会社」のブランド等で選ぶのではなく「シナジー」を考える重要性が説かれています。シナジーとは相乗効果を意味し、会社とそこで働く個人がお互いに利用し合って、フェアな関係性を築けている状態を指します。
では、どうやってシナジーを見極めるのか。本書で挙げているなかから、3つピックアップしました。
●カルチャーがフィットする
企業が大事にしている営業方針や働く雰囲気などがフィットするか、というのは大事な視点。たとえば、創業10年以下、平均年齢30歳前後でカジュアルな雰囲気があるベンチャーと、創業100年と歴史があり、幅広い年齢の社員が働く企業では、同じ日本企業とは思えないほどカルチャーが異なる場合も。
企業のHPを見る以外にも、口コミサイトの確認や実際に働いている人に話を聞くなどして、カルチャーを調べてみるとよさそうです。
●ベンチャーなのか、大企業なのか
ベンチャーと大企業では、カルチャーだけでなく、仕事のスタイルも大きく変わります。比較的、与えられた仕事の枠のなかできっちり仕事をしたい人は大企業向き、対して、役割の枠を飛び越えて新しいことにトライしたい柔軟性のある人はベンチャー向きといえます。
本書では、同じベンチャーであっても社員50人、100人、300人など規模によって、働き方が変わってくるという指摘も。おおよそ300人を超えると個々の役割が固定化し、大企業に近い働き方に変わるようです。
●キャリアコンサルタントの助言を聞く
本書では、折に触れて国家資格「キャリアコンサルタント」の価値に触れられており、転職先の会社選びでも、プロの視点からアドバイスを得るのが得策だそう。相談する際は「私におすすめの会社はどこですか?」と質問する前に、自分自身の仕事に対する価値観をしっかり伝えて、自分という人間をよく知ってもらうことが先決です。
加えて、会社個別の情報を聞き出すより、「業界について聞こう」というのが村上さんのアドバイス。就職を考えるうえで、業界全体の将来性やマーケットを確認しておくと良さそうです。
転職2.0で「妥協しない働き方」を手に入れよう
ひと昔前までは、「フリーランス=自由✕不安定」「会社員=不自由✕安定」のような凝り固まった価値観があり、どんな職業、ポジションを選んでも何かを妥協しなければならないと考える人が多くいました。
しかし、古い価値観をアップデートし、積極的に自身の市場価値を高め、情報を探し求める姿勢があれば、村上さんが主張するとおり、ガマンしない働き方が可能になるのではないでしょうか。コロナ禍の到来により、より柔軟性が増した日本社会では、理想の働き方をより叶えやすい状態ともいえそうです。
年齢を重ねる、あるいは家庭を持つと、多くの人は「現状維持」の思考が強くなる傾向があります。しかし、仕事に対して何かしら“もやもやした感情”を抱えているなら、今が動くべきタイミングかもしれません。『転職2.0』は、妥協しない働き方を手に入れるための指南書になりそうです。
[文]キャリサプリ編集部 [編集]サムライト編集部