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「分かりやすい」は身につけられる!
「もっと分かりやすく説明したいけれど、自分は頭が良くないから無理」なんて考えている人も多いのではないでしょうか。しかし学生時代にベストセラー本『落ちこぼれでもわかるミクロ経済学の本』『落ちこぼれでもわかるマクロ経済学の本』を出版したほどの、「分かりやすい説明マスター」とも言うべき木暮太一さんはそんな考えを否定します。
木暮さんは分かりやすく説明する力は、筋トレなどと同じようにトレーニングを積めば身につくと言うのです。ここでは木暮さんの『学校では教えてくれない「分かりやすい説明」のルール』を参考に、「分かりやすい説明」のためにやってはいけないことを考えながら、本当の意味での説明とは何かを解説します。
「自分の話したいこと」を話す
何かを「伝えたい」と感じたとき、そのままその「自分の話したいこと」を伝えてしまう人がいます。しかしこれでは相手に分かりやすく伝えることはできません。分かりやすい説明の大前提は「相手の立場に立って話す(書く)」だからです。この「相手の立場に立って話す(書く)」を実践するためには大きく2つの考え方が必要となります。
第一の考え方は「相手をお客様だと思うこと」です。例えば自社の商品を売り込むとき、営業マンは営業先に対してできるだけ分かりやすく説明するはずです。これはその日の出来事や社内のホウレンソウでも同じです。
営業マンの「売りたい」という願いを叶えるのが営業先でしかないように、伝える側の「伝えたい」という願いを叶えてくれるのは、聞き手以外にいません。この大前提をしっかり理解しているだけでも、分かりやすくするための努力をするようになるはずです。
第二に「相手の言葉で話す(書く)こと」です。営業マンは相手が他業界のお客様なら専門用語を噛み砕くでしょうし、逆に同じ業界の相手なら専門用語を使ってすっきりと説明するでしょう。この場合、他業界のお客様の言葉が「専門用語を噛み砕いた説明」で、同じ業界のお客様の言葉が「専門用語」となります。
これを見極めるためには事前に相手を知る努力や、それができなければ相手の反応の観察が必要です。そうして初めて分かりやすい説明のスタートラインに立つことができるのです。
「テーマ」が不在のまま話す
どこに向かっているか不明確な話や文章、何を伝えたいのかが明確でない話や文章は、例外なく分かりにくくなります。例えばエレベーターで一緒になった上司がこんな話をし始めたらどう感じるでしょうか。
「先週の6日、いや7日だったかな。大学の同級生たちと飲む機会があってね。僕はあまり酒が得意じゃないんだけれど、そのときはラム酒なんかを頼んで飲んでいたんだよ。ラム酒といえば『キャプテンモルガン』は昔からよく飲んだなあ。そういえばお店っていうのが目黒川のバーでね。とても雰囲気が良かったんだ」
多くの人が「何が言いたいんだ?」と思うはずです。この上司の話には「テーマ」が不在だからです。「こういう内容の話がしたい」「こういう内容が伝えたい」というテーマを提示しなければ、聞き手はどう聞いていいかがわかりません。
テレビのニュースの構成が「概要→具体的な解説」になっているのも、この記事の構成が「見出し→具体的な解説」になっているのも、全ては話や文章のテーマを示すためです。
聞き手や読み手の不安を払拭するためには、まず「テーマ」を提示すること。これが大切です。
「1から10まで完璧な説明」をしようとする
真面目な人、律儀な人ほど「伝えたいこと全部」を伝えようとします。しかし実はこれも分かりにくい説明に多い間違いです。
確かに正確に表現しなければならないケースもあります。仕事上のホウレンソウなど解釈に違いが出るとトラブルに発展するような場合は、できるだけ正確な表現が求められるでしょう。しかしテーマを伝えるうえで支障がないのであれば、複雑化を防ぐために説明を簡略化するべきです。
例えば「あのお店のオムライスは美味しい」という内容を伝えたいときに「美味しいという感覚を科学的に定義しておくと……」と説明を展開しても、オムライスの美味しさは伝わりません。それよりも卵のふわふわ感や、チキンライスの味についての説明に時間を使う方がテーマは伝わりやすくなります。
人間の脳が短時間に保持し、同時処理できる記憶をワーキングメモリと呼びます。このワーキングメモリの容量は少ないため、一気に情報が詰め込まれるとあっという間にパンクしてしまいます。そんな脳に対して1から10までを完璧に説明したところで、肝心のテーマを覚えてもらうことはできません。分かりやすい説明にとって重要なのは、「本当に伝えたいことだけを伝えること」なのです。
説明が「ごちゃごちゃ」している
テーマの曖昧化、話の複雑化を進める原因はたくさんあります。それらは得てして説明を「ごちゃごちゃ」にし、分かりにくくしています。以下は木暮さんが著書の中であげている、説明を分かりにくくする表現の抜粋です。
1.注釈・心情を入れすぎている。
→複雑化するため極力省くべき。
2.一文が長い。
→長くなる場合は二文にできないか考える。
3.主語と述語の距離が遠すぎる。
→混乱を招きやすくなるためNG。二文以上で表現するべき。
4.修飾語・修飾部が多い。
→2と3の原因になりやすい。必要な場合は二文以上で表現する。
5.知的な表現・美文調を使う。
→分かりにくくなるうえ、正しく使えていない場合が多い。
6.二重否定を使う。
→相手の混乱を招きやすい。原則使わない。
7.カタカナ語を使う。
→ちゃんと理解されていないことが多い。日本語化したもの以外は原則使わない。
この7点に注意して説明するだけでも「ごちゃごちゃ」が緩和され、かなり分かりやすい説明になるはずです。
「一度説明したこと」を省く
相手が一度こちらの話の内容に納得したからといって、その後同じ内容について省いていいということにはなりません。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが発見した「忘却曲線」によれば、人間の脳は一度記憶したことでもあっという間に忘れてしまうことがわかっています。
そのスピードは20分で42%、1時間で56%、1日で74%だとされています。この説が正しければ20分以上のプレゼンをすれば、聞き手は少なくとも冒頭の42%を忘れてしまっているのです。にもかかわらず「一度説明したこと」を省いてしまえば、聞き手が「何の話だ?」と理解できなくなるのも当然です。
このような状況を防ぐには、話の内容を繰り返し「再確認」する必要があります。とはいえ誰にでもわかるような内容や、話のテーマに支障のない細かい話まで繰り返す必要はありません。しかし話のテーマの根幹に関わる重要な内容は、しつこいぐらい何度も繰り返さなくてはなりません。
まずは「分かりにくい」を排除しよう!
木暮さんのような「分かりやすい説明マスター」になるためには積み重ねが必要です。しかし多くの分かりにくい説明はここで挙げた「やってはいけないこと」をやらないようにするだけで、大幅に分かりやすくなります。まずは自分の説明から「分かりにくい」を排除し、そこから少しずつ分かりやすく説明するための力を磨いていきましょう。
参考文献『学校では教えてくれない「分かりやすい説明」のルール』
