「思想の巨人」吉本隆明さんに学ぶ、時代をとらえる目の養い方

糸井重里さんの師匠的な存在

吉本隆明さんは戦後の日本を代表する思想家で、文学、政治、宗教から食べ物のことまで幅広く論じ、「戦後思想界の巨人」と呼ばれた知識人です。

若い頃の著書は難解なものが多く、なかなか手に取りづらいのですが、後半に出版された著書は、平易な喋り言葉で読みやすい作品が多くあります。それでいて鋭く本質的な内容なので、普段あまり本を読まない人にもおススメです。

あの糸井重里さんにも大きな影響を与えています。ほぼ日で、1960年代から2008年の吉本隆明さんの講演をできるかぎり集めて、デジタルアーカイブ化して、それを無料で提供するという大掛かりなプロジェクトを実施しています。残念ながら2012年に吉本さんは亡くなられたのですが、その言葉は今も注目を集め続けています。

「ほんとうのこと」

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吉本さんの著書や講演の一番の魅力は、常にウソのない「ほんとうのこと」を伝えようとされている点です。耳障りの良いことやカッコイイことではなく、何度も考えぬいた「ほんとうのこと」だけを語ろうとする覚悟が凄いのです。

吉本さんが考えるほんとうに教養のある人というのは、日本の現在の社会状況、それに付随するあらゆる状況がどうなっているかをできるだけよく考えて、できるだけほんとうに近いことが言える人です。

例えば、吉本さんのイジメに関する考え方は一貫しています。

「いじめるほうもいじめられるほうも両方問題児だ」。

吉本さんはいじめっ子だった過去があり、ある時クラスのいじめられっ子を追いかけまわし、馬乗りになっていたら、その子に履いていた下駄で思いっきり殴られたことがあったそうです。

その時に、この野郎、生意気だという感情はおこらず、面白半分に人をからかったりいじめてはいけないと、本気で反省した記憶があるといいます。誰もが生死をかけて自分の人生を生きている。そんな当たり前のことに気づいた瞬間だったと語ります。

時代のとらえ方

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では、吉本さんはどのように時代をとらえていたのでしょうか。それについてはほぼ日の糸井さんとの対談の中でこう語っています。

そういう状態のとき、どういう目の使い方をすればいいかというと、それは、「中流の中以下の人が、どういうふうになってるかな、どう考えてるかな」ということだと思います。それが、その「とき」を本格的に観察し、解明する場合に、機能的にいちばんいいと考えています。

人事問題から、経済問題まで、すべてがそうです。真ん中を「含んだ下」です。職業で言えば、中小企業から、個人企業の商売をしている人です。「“中”以下の人がこれからどうなっていくか」をひとつ、主眼にして、生きてる今を考え、それを広げて自分のやってることに関連づけるんです。

真ん中を含んだ、中流の中以下の人がどのように考えて行動するかを観察して、そこから自分のいる仕事に結びつけて考えることが重要だと述べています。

例えば最近でいえば、去年話題になったマイルドヤンキーは、吉本さんのいう観察すべき人たちに該当します。博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さんによれば、マイルドヤンキーの特徴は以下のようなものです。

1、大都市の中心部より郊外、地方により割合としては、より多く生息している。
2、比較的低学歴・低所得者により多い。
3、地元が大好きで、ほとんど自宅から半径5キロメートル圏内で過ごしている。
4、いくつになっても中学時代の友だちと遊んでいる。
5、実家へのパラサイト率が高く、家族、親であったり、早婚者であれば、妻や子どもと仲が良い。
6、ITリテラシーが低い傾向にある。
7、消費意欲は他層より高く、車・バイク・タバコ・パチンコ・ブランド品など、いわゆる若者が消費から離れてしまったと言われるものに興味が高い。パラサイト率も高いので、収入に比べて、可処分所得も高い。
8、好きな場所は、大型ショッピングモールやカラオケ店、ボーリング場。
9、男性はEXILE、女性は安室奈美恵さんなどに憧れる。

原田さんいわく若者のおよそ15%ぐらいはマイルドヤンキーに該当するそうです。マイルドヤンキーはあまり上昇思考がないと言われていますが、見方を変えれば、無理せず、等身大で自分たちが楽しく暮らせるライフスタイルを大事にしてるともいえます。

マイルドヤンキーが2014年の流行語にノミネートされるほど話題になったのも、それが今の日本の実態を象徴していたからでしょう。

自分なりの観察ポイントを見つける

Sleeping passengers in Tokyo Japan

このように「中流の中以下の人が、どういうふうになってるかな、どう考えてるかな」と常に注目していくという吉本さんの考察の仕方は非常に有効だと思います。筆者が個人的にこの観点でウォッチしているのは次の2つです。

雑誌 週間SPA!

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画像出典:日刊SPA!

今年創刊27年になる『週刊SPA!』は“逃げ切れない世代”の武器になる情報をコンセプトに、世の中がまだあまり注目していない人や事象をいち早く紹介しています。編集長いわく「入手することで得をするような情報」を徹底的に取材し、なおかつそこに遊びの要素を加えることで、『SPA!』らしさを出しているといいます。

週刊SPA!6/2号の見出しは以下のようになっています。

・[低学歴]会社員のリアル
・OL300人が認定[絶対に抱かれたくない男]の共通点
・【最新ルポ】貧困が女たちを犯罪に走らせていた!
・AIIBがもたらす[中国バブル]の空騒ぎ
・[セクシャル・マイノリティ市場]が国内6兆円に拡大中
・モテる[ハゲ&ヒゲ]を徹底検証する
・[パンチラ危険地帯]を行く
・【インタビュー】8.6秒バズーカ―(芸人)

貧困やブラック企業などをリアルな問題を扱いつつ、モテや笑いなども幅広く取りあげています。「[低学歴]会社員のリアル」という企画もあるように、中流の人たちがどのようにサバイバルしていくかということを一貫して紹介しており、時代のちょっと先をうまく抑えた内容になっています。

正直なところ、かなり下世話な特集も多いため、既婚者の場合は自宅に持って帰るのをためらうかもしれませんが、吉本的観点でウォッチするには最高のメディアだと思います。

同じ街を定点観測する

「職業で言えば、中小企業から、個人企業の商売をしている人」という吉本さんの言葉にあるように、街の商店街は、時代を映す鏡です。都内でいえば、渋谷、新宿、原宿のような繁華街ではなく、住宅街になっているような普通の街を、定点観測するといろんなことが見えてきます。

家賃相場はどれくらいで、どのような人が住んでいて、どのようなお店が新しくできているのか、お店のターゲット、メニュー、客単価等、1つの街を定点観測していくと、その変化に気がつきます。

同じ街を定点観測することで仮説がどんどん生まれてきて、それがどこかで仕事の役にたったりします。「なぜ」という疑問の目を持って街を歩いてください。見慣れた街にもいろんな発見があります。

起源をたどれば本質がわかる

何か疑問がわいた場合、その起源をたどれば本質がわかると吉本さんはいいます。起源をおさえて、そこからどのように発達していったのを追っていくと、なぜそうなっているかを理解できるそうです。吉本さんが多大な影響を受けたマルクスや、文学者の柳田国男、折口信夫といった人たちもやはり起源をおさえるやり方をしていたようです。

吉本さんの著書にはこういった興味深い話がバンバン出てきます。入門編の本としては、糸井さんが吉本さんから面白い言葉をたくさん引き出している『悪人正機』 (新潮文庫)や、吉本さんのモノの見方、人の見方をまとめた『真贋』などがおススメです。
[文]頼母木俊輔  [編集]サムライト編集部