2020年7月、ワーケーションの効果検証を目的とした、ある実証実験の結果が発表されました。これは、株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社JTB、日本航空株式会社が、慶應義塾大学 島津明人教授の監修のもと、2020年6月に実施したもので、ワーケーションにさまざまな好影響があることが判明。
結果では、ワーケーション実施中は仕事のパフォーマンス上昇のほか、仕事のストレス低減、情動的な組織コミットメントの向上など、いくつものポジティブな変化が見られました。
本記事では、この実証実験結果を紹介するとともに、6年ほど前からワーケーションを継続しているフリーライターである筆者の体験を交え、ワーケーションの可能性をお伝えします。
沖縄のリゾートで行われた実証実験の概要
ワーケーションは旅と仕事を融合させたようなワークスタイルを指し、旅行先で働く時間を取り入れるようなイメージです。たとえば、平日の日中は仕事をして、夕方以降や土日は旅行を楽しむなど。より柔軟にスケジュールを組める場合は、午前中のみ仕事、午後は観光など、フレキシブルに働く人もいるでしょう。

実証実験のスケジュール(株式会社JTBのプレスリリースより)
今回の実証実験では、2020年6月26日(金)〜6月28日(日)の週末をワーケーション期間と設定し、平日の午後を仕事に当てています。そのほかは自由時間とし、必要に応じて仕事もできる設定です。
参加者は、研究チーム企業の所属メンバーを中心とした男女18名。ワーケーション中の対象者の状態・行動の把握を目的として、状態や仕事に対する姿勢等を問うWEBアンケートを計11回実施するとともに、ウェアラブルデバイスを常時装着し、活動量や睡眠時間などの行動データを収集したそう。

実証実験時のワーケーション環境(株式会社JTBのプレスリリースより)
実証実験に利用された宿泊施設は、沖縄県名護市にあるカヌチャリゾート。ご覧のとおり、部屋の窓には開放感のある景色が広がり、思いきりリゾートを感じられる雰囲気です。参加者は、ソーシャルディスタンスを保持した執務エリアのほか、自室での勤務も許可されたとのこと。
解析の方法は、ワーケーション前に各参加者が初めて記録した時点をベースとして、その後の変化を統計検定。得点の尺度は個人内で標準化しているため、各個人における感覚の違いは影響しないことになります。
3日間のワーケーションで「生産性」と「心身の健康」が向上
この実証実験では、さまざまな好影響が現れました。

Segmentation preference(公私分離志向)の実験結果(株式会社JTBのプレスリリースより)
Segmentation preference(公私分離志向)の調査では、ワーケーション後にスコアが上昇し、終了後5日目には25.0%増に。公私分離志向とは、仕事(公)とプライベート(私)が分離された志向を指し、つまり、ワーケーションによって仕事とプライベートのメリハリが促進されたというわけですね。

組織コミットメントの実験結果(株式会社JTBのプレスリリースより)
組織コミットメントの比較では、ワーケーション期間中から情動的な組織コミットメントが上昇し、終了後2日目も12.6%増を維持。従業員の会社に対する情動的な愛着や帰属意識を促進することは、結果的にパフォーマンス向上にも寄与することが期待されると、研究チームは伝えています。

仕事のパフォーマンスの実験結果(株式会社JTBのプレスリリースより)
ワーケーションにおいて、ひときわ重要視される「仕事のパフォーマンス」も向上していました。黄色の線グラフで示されたHPQ(※)は、ワーケーション初日に20.7%増となり、その向上はワーケーション終了後1週間も持続したそう。
※HPQ:WHOが定義した従業員のパフォーマンスの低下を測る指標で、正式名称は「WHO-HPQ」。

職業性ストレスの実験結果(株式会社JTBのプレスリリースより)
コロナ禍の在宅ワークではストレスを感じる人も多いといわれますが、ワーケーションにいたっては、「イライラ感」「不安感」といった職業性のストレスが、大きく軽減。初日からワーケーション最終日の朝まで、全指標平均で37.3%改善していました。一方で「活気」は数値が向上しており、ワーケーションは心身のストレスを低減させ、健康状態を改善させる効果が期待されます。ただし「疲労感」は下がりにくい傾向が見られ、活動が増える分、身体的疲労感を伴うことは否めないようです。

歩数の実験結果(株式会社JTBのプレスリリースより)
観光地に出歩くタイミングが増えるためか、活動量(歩数)の調査では、ワーケーション期間中は運動量が2倍程度に増えていました。このことから、ワーケーションが身体的な健康にも寄与していることが確認されました。
筆者が感じるワーケーションの効果
フリーランスライターとなった2016年からワーケーションを取り入れている筆者は、これらの実証実験結果に大いに納得しました。実際に筆者が実施してきたワーケーションをご紹介しながら、体感によるメリットもお伝えします。

タイ・バンコクでのワーケーションにて(筆者撮影)
ノマドワーカーの聖地とも言われ、ITエンジニアなどを中心に親しまれているタイ。筆者は2017年、2019年に滞在し、ワーケーションを楽しみました。あるときは私を含めたフリーランサー仲間4名での女子旅として、またあるときは、のんびりと過ごすための長期休暇を含む一人旅でも訪れましたが、それぞれの良さがありました。

タイ・バンコクでのワーケーションにて(筆者撮影)
同僚や友人など複数名で訪れると、観光の楽しみが倍増。日中数時間は集中して作業を行い、いつもより早く仕事を切り上げて観光に出かけます。仕事をしっかり終わらせた後に食べた屋台のスパイシーな食事が、たまらなくおいしかったことを記憶しています。
一方、一人旅の場合は、気の向くままに仕事したり、観光したりできる気楽さが最高。運が良ければ現地でおもしろい出会いがあり、非日常の時間を過ごすことができるでしょう。また、タイには洗練されたカフェやコワーキングスペースが点在しているため、お気に入りの場所を探して作業をするのもおすすめ。
体感でのメリットとしては、以下3点がありました。
1.目に入るものすべてが新鮮で、知的好奇心が刺激される
2.観光に出かけたい気持ちが引き金となり、パフォーマンスが自ずと上がる
3.お気に入りの場所で仕事をすることで、モチベーションが上がる
現状では実現性が低いと思いますが、海外旅行を兼ねたワーケーションでは、好奇心が刺激されて創作意欲が湧く、前向きなエネルギーがみなぎるといった効果を感じました。ただ、ある程度の長期旅行でないと観光の時間が不足して満足度が下がる可能性もあるため、十分に時間が確保できる場合のみ、海外でのワーケーションを取り入れるのが良いでしょう。

星野リゾート トマムでのワーケーションにて(筆者撮影)
海外旅行は現実的でないという方には、より気軽な国内ワーケーションがベストかもしれません。筆者は取材を兼ねて、北海道にある「星野リゾート トマム」と軽井沢にある「星のや軽井沢」でのワーケーションを体験。

星野リゾート トマムでのワーケーションにて(筆者撮影)
どちらも大自然に囲まれており、部屋にいても雄大な景色が目に飛び込んでくるような環境です。平日の日中4〜5時間を仕事に当て、それ以外は自由時間として、アクティビティ、レストランでの食事、温泉、サウナなど、非日常を感じる時間を多く取り入れました。
国内ワーケーションの体感でのメリットとしては、以下3点がありました。
1.適度な環境変化により、仕事中でも気分が高揚する
2.観光に出かけたい気持ちが引き金となり、パフォーマンスが自ずと上がる(海外ワーケーションと同様)
3.適度な刺激とともに、高い癒し効果を感じられる
海外ワーケーションと比較すると刺激は少ないかもしれませんが、リフレッシュ効果はバツグン。パフォーマンスが上がり、サクサクと仕事がはかどる感覚も。筆者は一人旅として訪れていますが、同僚やチームで訪れると、普段とは異なる会話や交流が生まれるなど、メンバー間の信頼関係構築にも寄与するかもしれません。
主観的な意見にはなりますが、国内でワーケーションをするなら、「自然が豊かな場所」「温泉やサウナがある場所」がおすすめです。海や山などの自然を眺めながら仕事をすると、疲労感とストレスが和らぐ気がするんですよね。加えて、温泉やサウナで心身をととのえると、ぐっすりと眠れます。
食わず嫌いはもったいない!一度体験してみよう

星のや軽井沢でのワーケーションにて(筆者撮影)
「旅と仕事の両立」を目標にしてきた筆者にとっては、まさにワーケーションは理想の働き方であり、長期の旅行も仕事もどちらもあきらめない最適解でした。ワーケーションを続けるうちに、パフォーマンス向上やストレス軽減といった良い効果も体感していますし、徐々に旅と仕事のちょうどいいバランスもわかってきます。
その一方で、「旅行中に仕事なんてしたくない」「仕事も旅行も中途半端になりそう」などネガティブな声が聞かれることもあり、ワーケーションには向き・不向きがあるのは事実でしょう。
しかし、実証実験でもさまざまな好影響が見られたように、一度も試さないまま避けてしまうのは、もったいないと思います。コロナ禍によって予想外に訪れたニューノーマルな暮らしを楽しむ一つの方法として、まずは短期の国内ワーケーションから試してみてはいかがでしょうか?
[文]小林 香織 [編集]サムライト編集部