世の中の空気感はバラエティに学べ

‶いじり・いじられ〟バラエティ番組の特長は硬軟まぜごはん

「世の中の空気感」はバラエティだそうです。各局のテレビ欄は正午のニュースを挟んで、11時頃からプライタイムが始まる19時まで、硬派の報道と娯楽情報が同居状態です。ニュース番組がバラエティに取り込まれ、人気キャスターの安藤優子さんをして「ニュースに優越やジャンルはありません」と、言い切るほどです。

しかも早朝や深夜の番組も各局の面白がり方やニュースの価値観、事象へのこだわりが、編成の主流になっています。アイドルや人気芸人、料理研究家など多彩なゲスト(中にはこんな人も)が、まぜごはん風に華を添えています。NHKやテレ東も結構大胆でビックリです。

低迷にあえぐフジテレビが、かって「軽チャー路線」(81年)を掲げ「笑っていいとも!」「オレたちひょうきん族」のヒット番組を生み出したことが、懐かしく思いだされます。

固定概念を捨て柔らか頭で、「面白いことへの挑戦」や「複眼的な見方」がバラエティの大胆な切り口になっています。「時代の閉塞感」が大きく関係しているのでしょう・・・

バラエティは知的冒険のツールになり得るか?

今回の論考を進めて行くうえで、気になるテレビマンがいます。なかなかの論客です。「世界はすべてバラエティになる」(cakes)と、ユ二―クな持論を展開している角田陽一郎さんです。

角田さんは東大西洋史学科卒業後、TBSで「さんまのスーパーからくりTV」や「中居正広の金曜日のスマたちへ」などのヒット番組を手掛け、活躍の場は映画や出版、評論などと広がっています。パフォ―マンスに言及した発言には説得力があり、メディアビジネス界で〝注目の人〟でもあります。いま45歳のバリバリです。

その角田さんは「バラエティの多様性」を主張し、一つの事象でも「違う観点からとらえ直してみよう」と、新たな物語作りのヒントを提案しています。ネットを主戦場に発信しているビジネスパーソンにとっては、表現力のアップに繋がり「いいね」が増えるかも。

「角田さんによれば、バラエティは単なるテレビの手法ではなく、情報を複眼的にみて、そのうえで様々な視点で分析しながら、面白がり方を提案しています。アカデミックに言えばバラエティ的なアプローチ、もしくは思考。このような手法はビジネスパーソンのSNSでの発信力をアップさせ、発信者のキャラも話題になるかも知れません。ツイッターで『いいね』をつかむキャッチになり、さらに共感や感動を喚起すれば最高です」

「角田さんの考えの根底には、時代の気分や空気感がベースになっており、いかに面白がるかは、仕掛けの妙だと思います。なにしろいまの時代と同化できるかがポイントです。バラエティは知の冒険や模索のための、新しい表現スタイルになり得る。視聴者はおもしろいもの、感動するものを見たいのです」(いずれもテレビジャーナリスト)

テレビマンは現在進行形の時代と同化できるか

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かって「楽しくなければテレビじゃない」を掲げ、「軽チャ―路線」でバブルを築いたフジの、低迷にこだわるのは・・・今回フジテレビ論が主題ではありませんが、あらゆるジャンルをバラエティ化した同局にとって、何とも皮肉な話(いや現実)で、象徴的な出来事だからです。

ここに昨年7月のフジの定例番組審議会で、芸能ニュース嫌いの松本人志がMCを担当するバラエティ「ワイドナショー」について語られた議事録があります。作家の林真理子さん、脚本家・大石静さんも審議委員で出席しています。議事録にはバラエティのコンセプトについて、興味深い記載があったので紹介します。

今回逆に、本流のバラエティが、バラエティ中心にして報道に向かっていくという新しい切り口。報道をバラエティ化するのではなくてバラエティで切り込むというのは、新しく、楽しみ。笑いを交えながら、笑いにとどまるのではなく、一つのレベルが上の知的な会話の行き交いを狙うという意欲の番組(一部抜粋、原文のまま)。

自画自賛っぽい感じですが、角田さんのバラエティ考と比較すると、どうでしょうか。新たなジャンルを開拓するために、創造と破壊を繰り返す視点や熱量が感じられません。ちなみにフジの直近のキャッチフレ―ズは、「ふふふっ。LIVE」(15年秋)、「PLAY!」(16年春)。

先頭を走っていたのに、気が付けば最後尾。ビジネスパーソンもそんな経験をしたことがありませんか。これまでのルーティンの負を取り除き、マンネリを壊す勇気が、企業も個人も必要なことを物語っています。フジはなぜ時代とずれたのか、悩み深いことでしょう。

ポケモンGO世界制覇をどう面白がる?

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画像出典:https://www.vg247.com

世界中を席巻しているポケモンGO。観光地や公園にはスマホを手にプレーする人であふれ、「風景が変わった」とさえ言われています。米国務省の報道官は「侵攻は防ぎようがない」と異例のコメント。中国では「ポケモンで遊ぶな。日米が中国の秘密基地を探査できるようにした」と、警戒心をあらわにするほどです。突然その存在がグロ―バル化したポケモンGO現象を、バラエティ的視点でどうおもしろがるか・・・

「いまはニュース枠でポケモンGOの世界制覇を取り上げていますが、ニュースをも取り込むバラエティにとっては、ポケモン現象は恰好のコンテンツです。なぜここまでの熱狂を生みだしたのか。個人的には位置情報をネタに例えば〝ゆるキャラ・ミッション・インポッシブル〟のように、ポケモンが持つ情報機能や発信力に興味があります」

「日本上陸でお祭り騒ぎのよう。不思議な人の波や隊列は、なんとも奇妙な光景。ポケモンのGPS機能に軍事・情報機関が敏感になっているとか、ポケモン侵入禁止区域が拡大されるとか・・・まさに世界的に現在進行形の出来事に、バラエティの現場もポケモンの魔力に振り回されているようです」(いずれも文化部記者)

バラエティ番組で共感や感動を与えるということ

「時代との同化」に加えて「人との出会い」もバラエティの重要なキーワードです。なにしろ「人生いろいろ」です。新鮮な出会いや触れ合いが、笑いと感動を起こさないはずはありません。いま元気なテレビ東京は人との出会いを追い求め、話題のバラエティを放送中です。私は以前このCSで同局の「昼めし旅~ あなたのご飯見せてください」を紹介し、「出演者の人生」と「土地の人情」に熱いものを感じたことがありました。

「テレ東は徹底的に普通の人、市井の人にターゲットを絞り、OKが出れば取材に応じた人の、人生や喜怒哀楽にこだわることに貪欲です。低予算、少人数のスタッフ。『昼めし旅』ではスタッフもちゃっかり食事をごちそうになりながら、夫婦の馴れ初めを直撃したり・・・その手法はドキュメンタリー、味つけはバラエティ。取材する側と受ける側がよそ行きの顔でないところが、共感や感動を与えるのでしょう」(放送記者)

「YOUは何しに日本へ?」「ローカル路線バスの旅」「家、ついて行ってイイですか?」どの番組も「いかに面白いものを届けるか」がてんこ盛り。時にはホロリとさせたり・・・

バラエティ番組は時代の二重写し

Businessman

知の冒険はバラエティの手法であり、面白かったは、その結果かもしれません。バラエティ、バラエティ番組、バラエティ化。言葉は微妙に違い、表現法も異なりますが、その根底にあるのは複眼的な視点、流行りの「3D(立体的な)思考」と書くと、飛躍し過ぎでしょうか。

「器用な構成作家の手にかかると芸人のバカ騒ぎ、ぼけやつっこみ、笑いや怒りなどバラエティ番組定番のエキスを入れて、ちゃっちゃと作ってしまう。だけど時代の空気感がスカスカなのは、制作に関わる人たちの面白がり方が、ゴシップ止まりだからです。あらかじめ用意した言葉ではなく、ハプニング性に富んだ言葉をどう引き出すか・・・なにしろ人生いろいろ、見方もいろいろなのですから」(テレビジャーナリスト)

テレ東のドキュメンタリ―手法のバラエティを観るにつけ、番組のルーティン化を断捨離して、面白いことへの挑戦が拡大しています。時代の閉塞感が指摘される中、バラエティという鏡に映るのは、二重写しの時代であり、わたしやあなたかも知れません。

Career Supli
角田陽一郎さんは今TVの世界で一番面白いことをやっている方だと思います。ぜひキャリアサプリ内でインタビューしてみたいです。
[文]メディアコンテンツ神戸企画室 神戸 陽三 [編集] サムライト編集部