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ストレスは「避ければいい」わけではない
私たちの日常にはストレスが蔓延しており、つい「ストレス解消法」や「ストレス回避術」といったワードに目がいってしまう人も少なくないでしょう。しかし実はストレスだからといって何でもかんでも解消したり回避したりしていると、むしろ幸福度が下がったり、病気のリスクが高まったりすることをご存知でしょうか。
ここでは、そうした意外と知らない、でも必ず知っておきたいストレスについての知識を、『大人のメンタルヘルス常識 心の風をこじらせないための処方箋』をもとに紹介します。
知っておくべきストレスの「効用」と「弊害」

●ストレッサー、ストレス、ストレス反応
私たちの心は外部から加わる力や刺激(「ストレッサー」)にさらされると、危機や不安、恐怖などの「ストレス」を感じます。そしてこのストレスに対して、心が元に戻ろうとしてアドレナリンやコルチゾールといった神経伝達物質を分泌するなどの「ストレス反応」を見せるのです。
ストレス=悪だと思い込んでいると、「じゃあ大元のストレッサーをなくそう」とか「ストレス反応を抑えよう」という発想になるのですが、実はこれらには人生の充実度や体の健康にとってなくてはならない効用があります。
●知っておくべきストレスの「効用」
例えばストレス下においても安全を確信できれば、私たちの心身は「チャレンジ反応」という状態になり、アドレナリンの分泌量が急増、集中力や自信が強化されるといわれています。いわゆる「ゾーン」「フロー状態」は、このチャレンジ反応のことを指しています。
またスタンフォード大学のカレン・パーカーさんは、リスザルを用いた実験で、幼児期のストレスが大人になってからの行動力や好奇心、問題解決能力や自制心を強化するということを発見しました。
人間の場合もストレスで傷ついた心が回復期に入ると、多くの人が感情の高ぶりを感じるそうです。これは経験に基づく自己変革を、感情がサポートしようとするからだとされています。
命が脅かされるような精神的衝撃が原因で生活に関わるような障害を引き起こす「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の予防・治療の最前線では、なんとストレスホルモンが投与されています。
テロ攻撃によるPTSDを患った50歳男性が、3ヶ月間継続して1日10mgのコルチゾールを投与した結果、恐怖や苦痛を感じにくくなったという報告もあります。
これはつまりストレッサーから感じたストレスに対する強いストレス反応こそが、心の回復につながっているということです。このことから考えると、逆に「ストレス解消法」や「ストレス回避術」を名目にストレス反応をごまかしてしまう方が、ストレスからの回復を遅らせるともいえそうです。
●絶対に避けるべきは「キラーストレス」
だからといって「どんなストレスに耐えるべし」といいたいわけではありません。実際過度なストレスは自律神経の働きや判断能力の働きを鈍らせ、がんや心臓発作、脳卒中のほかうつ病からの自殺など、直接的な死につながる危険性を秘めているからです。こうした結果を招くストレスは「キラーストレス」と呼ばれています。
キラーストレスは何か単一のストレスの呼び名ではなく、複数のストレスが合わさって引き起こされる状態のようなものです。例えば結婚や出産といった本来喜ぶべきイベントも、大きな環境の変化という意味ではストレスです。
こうしたストレスに会社での左遷や失敗、友人関係のトラブルなどが重なると、キラーストレス状態になって病気や自殺のような結果につながるというわけです。「これからってときになぜ……」というような死には、もしかするとキラーストレスが関わっているのかもしれません。
ストレスをエネルギーに変える方法

キラーストレスに至るようなストレスは別として、基本的にストレスは私たちにとってなくてはならないものです。しかしだからといって目の前のストレッサーや今感じているストレスが、みるみるうちにエネルギーに変わるわけではありません。いったいどうすればいいのでしょうか。
●「ストレス=善」だと信じる
答えは拍子抜けするくらい簡単です。すなわち「ストレスは心身にとって良いものである、役に立つものである」と信じることです。
『スタンフォードの自分を変える教室』のケリー・マクゴニカルさんが実際に経験した実験によると、同じようなストレス環境下にあっても、ストレスの効用を信じているだけでストレス関連の疾病リスクを低下させるDHEAというホルモンがより多く検出されたといいます。
この実験は「ストレスはパフォーマンス向上・健康増進に役立つ」というビデオを見たグループと、「ストレスはパフォーマンス低下・健康悪化の原因である」というビデオを見たグループに対して、圧迫的な模擬面接を施すというものでした。
この実験で注目すべきは、もともとストレスに対してどう考えていたかは無関係であるという点です。これはインターネットで今すぐストレスの効用について調べつくすだけで、ストレスをエネルギーに変換できるようになるという可能性を示唆しています。
●「チャレンジ反応」に持ち込むためのテクニック
とはいえいざ大舞台に臨むとなれば、誰でもストレスを脅威として捉えてしまい、「落ち着かなきゃ……リラックス!リラックス!」と呟きたくなるものです。
そんなときストレスが成功要因であるという意識に切り替えるには、安全を確保しつつストレスを感じている状態=チャレンジ反応に持ち込む必要があります。
極度の緊張下でチャレンジ反応に持ち込めるかどうかには、「自信の有無」が鍵です。つまり自分の知識やスキル、経験などの強みを認識すること、あるいは本番に至るまでいかに自分が準備をしてきたかなどを思い出すのです。
自分の企画やプレゼン内容に太鼓判を押してくれた、頼れる上司や先輩などの顔を思い浮かべてもかまいません。大切なのは「自分ならやれる。大丈夫」とストレスを感じながらも、安全を確認すること。それがチャレンジ反応へのスイッチになります。
自分の強みがわからないという人は、英語サイトですが「VIA」というサービスで自分の強みを客観的に診断してもらうこともできます。興味のある方は試してみてください。
正しい知識でストレスと付き合う

ストレスは本来なくせないものです。そのため「ストレスをなくさなきゃ」と考えれば考えるほど、さらにストレスを溜めることになります。ストレスとは戦う相手ではなく、がっしり肩を組んで付き合っていくものなのです。
まずはここで紹介したストレスに関する正しい知識をよく理解して、ストレス=悪という認識を改めるところから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献:『大人のメンタルヘルス常識 心の風をこじらせないための処方箋』

