ネット時代の情報の接し方と文章力

若者が活字媒体よりネットメディアを選ぶ理由

「新聞や雑誌のスクープ記事が30分もすれば、様々なネットツルーに情報が伝わり、スクープの賞味期限があっと言う間になくなります」―こう嘆息するのは〝抜いた抜かれた〟の最前線で活躍中の新聞記者です。

スマートフォンの普及などネットによる情報入手環境の充実で、不動の地位を誇ってきた老舗の新聞社や出版社が、新興のWebマガジンなどに押され気味です。いや押され気味ではなく、スマホ向けに情報を提供する「キュレーションメディア」にその地位を奪われそうなのが現実なのです。

最新の電通総研は「若者たちがネットを選ぶ理由」について興味深い調査をしています。

ニュース情報への接し方・動機は、「個人的興味」や「仲間との話題共有」
と結論付ながらネット情報への関わり方をこう分析しています。

ニュース・キュレーションサイトを頼りにする人は、公共に開かれた話題に参加したいなどの「社会的動機」ではなく、自分自身の生活や趣味の充実など「個人的動機」で日頃のニュースに接していることが分かります。さらに友人・同僚などと歩調を合わせるための会話の素材探しである「協調的動機」も大きく関わっています。

また「情報感度・行動」については、近年注目されている「空気を読む」人々の感性が強く表れているーとも指摘しています。

つまり若者たちがKYを読む手段として、情報を積極的に取りこんでいることが伺えます。「空気を読む」は女高生たちの間から広がったと言われています。

こうした傾向から「ネット情報の二―ズが増えたのは、従来の新聞などの報道メディアのファクト主義ではなく、生活や趣味、エンタメ系への関心が高いため」とシンクタンク研究員は話しています。

■スマホはリアルタイムでの情報収集に加えて、動画視聴の機能が付いていること、さらにツイッターでその情報の感想を発信できることも可能です。

ユーザーはリアルタイムで情報を入手でき、同時に発信もできる双方向型のツールを持っていることが、最大の強みのようです。

ネット時代でも伝達力アップの基本は文章力

Businessman at work

ネット上には一般のユーザーが硬軟取り混ぜた情報を集めて整理・発信する「まとめサイト」や、スマホユーザーのためにテーマを絞って情報提供する「キュレーションメディア」が登場しています。

電通総研の調査でも指摘しているように、「ネットならではのメディアが続々と登場し、短期間のうちに人気を集めるようになっています」。

そうした流れで問われているのが「ネット時代の伝達力」。とくに文章力のトレーニングとアップ。さらにネット・スマホ対応の「文書の書き方とコンセプトの組み立て方」です。加えてこんな問題点もあります。

新聞などが静止画像(紙面)に対して、スマホなどはスクロールして文章を波乗りしたり、面白い箇所だけ拾い読みされることがある。新聞記事とは違った文章構成や編集技術が求められる。報道メディアは入手した情報の裏取りや事実関係の確認、取材対象の人権や人格、用語の使い方などチェック機能が働く。ネットの編集現場では、チェックはどうなっているのだろうか(新聞記者)。

発信までのチェック機能の問題点を踏まえながら、いよいよ記事つくりです。
新聞記事の場合、ことばの「誇張」と「省略」の二つの手法を駆使して、読者に共感を得る、インパクトのある原稿を書くことなどを心がけています。

■カテゴリーとしては「その日の一番の出来事(ニュース記事)」、「その日一番話題になった人物(人もの)」、「時代を象徴するような面白い言葉」などにこだわりながら、ネタによって読者に問題提起するか、共感を得るものにするかなどの味付けをします。

ただ、いずれにしてもファクト主義、事実確認がきっちりとれていることが基本。新興のネットやまとめサイトの場合に、ライターがきちんと記者としてトレーニングを積んでいるか。情報の確認や出展の吟味などが必要です。とくにWebマガジンがメディアとしての認知度を高め、ブランディングするためにはこれらは必須条件。統括編集者の責任は重いと言えます(メディア評論家)。

読者のハートを鷲掴みにする文章とは・・・

Plays of Shakespeare

「ネット時代には『明快で簡潔』『リズム感がある』「筆者の気持ちが伝わる』文章が必須―などとネット時代の文章術【Kindle版】を直截に表現した元日経電子メディア局次長で、新聞は「再生できません」と発言するなど、ユ二―クなメディア論を展開する坪田知己さんのことばに全てが要約されています。

ネット時代の文章読本は様々な角度から書かれています。多くは新聞記事とは違った構成やスクロールして読み進める(時には読み飛ばす)ことを想定した記事つくりや編集・レイアウトなどの必要性に言及しています。紙面ではなく端末機映像による視覚的な訴求力も求めています。

興味深いのは新聞記事の起承転結は、流し読みが当たり前なスマホ読者にとってはまどろっこしく感じられる。すぐに結論が知りたい、余計な話は必要ない、とする読者には結論を最初に書くということは、当然の流れかも知れない。いかにリズム感のある文書を書くか、そして的確に伝えたい情報を優先させることです。ネットなどで読みやすい投稿や文章は、ほとんどが起承結。または結論→理由という構図になる―と、Webマガジンの編集者は力説しています。

確かに新聞や週刊誌でもトップ級の記事の書き出しは、取り上げたネタの主人公の感動的(刺激的)な話か、結論を暗示する象徴的な出来事や場面の描写からが主流になっています。

「最近の読者は最後まで読み続ける根気がなくて、長い原稿だと途中で止めてしまう。それだけにテンポ良く、おいしそうなおかずを入れながら書かなければなりません。スマホが登場してからせっかちになったみたいです」(新聞記者)。

■ハートを鷲掴みにするのにはどんなネタか。なぜ、そうなの?ーと、いくつもの「なぜ」を連関して読者の興味をそそるのは、ネットでも同じ手法です。

メニューを美味しく盛り付けるためのWeb編集術

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紙面作りの最後の仕上げは整理記者(編集者)の役割です。見出しを建て、紙面のレイアウトをして、原稿の〝お化粧〟直しをします。あまり面白くない原稿でもそれなりに読ませたりします。

Webの場合の編集はもっと大変です。コンテンツを考え、文章、写真、レイアウトなどを行い、1人何役です。まとめサイトの場合も似たり寄ったりです。

とくに横書き、流し読みが主流のWebマガジンの場合は、文章の行間や科目ごとの空間を作ったりして、見た目のインパクト・印象にこだわります。

それでいて今回のテーマは何なのか、をしっかりと印象付ける。スポーツ紙のように『見せて読ませる』手法で躍動感を演出します。画像処理も動画を挿入したり、Webマガジンはいくつもの可能性をひめ、扱う素材によっては、スマホ内のドラマチック空間さえも演出する可能があります(メディア評論家)。

ネットが既存のメディアを包含するこれからの情報発信

編集現場やスキルアップに若干こだわり過ぎる嫌いがありますが、ネット時代に活字メディアを有効活用している、したたかな企業もあります。

■ベンチャー企業の中には、複数の新聞社に自社の記事が掲載されたことを確認して、そのことを自社のサイトで告知するなど、オウンドメディア展開を行っています。新聞に掲載された(認知された)ことを受けて、ネット展開に直結させる手法で、「自社のブランディングに新聞記事と自社のサイトを融合させるしたたかな手法」と言えます。

誰でも情報発信の主役になれるネット時代。ジャーナリズムはどう変質し、衰退→再生→発展→進化を繰り返しながら、新時代のジャーナリズムの形はどうなるのでしょうか。Webマガジンへの期待は大きいものがあります。

来年から選挙権が18歳に引き下げられます。ネット世代の若者は情報ツ―ルのスマホでどんな情報を発信し、既成のメディアとの関係はどうなるのか・・・それこそ大きなウエーブが予感されます(メディア評論家)。
[文]メディアコンテンツ神戸企画室 神戸陽三 [編集]サムライト編集部