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ルールが無駄を省き、意思決定を加速させる
予測不可能な事態を乗り越えたり、クリエイティビティが求められたりする状況においては、迅速かつ精度の高い意思決定が必要不可欠です。
しかしそのような状況になるたびに、闇雲に意思決定をしているようではスピードや精度は望むべくもありません。
実際意思決定に長けている人は、ある武器を使いこなして状況に対応しています。その武器こそが今回紹介する「シンプル・ルール」です。
『SIMPLE RULES 「仕事が速い人」はここまでシンプルに考える』(以下『SIMPLE RULES』)はアメリカ国防高等研究計画局や、一流シェフ、稀代の泥棒などあらゆる分野の中で活用されているシンプルなルールに着目し、その仕組みを解説した本です。同書が指摘するシンプル・ルールの特徴は次の4つ。
1.ルールの数が少ない
2.使い人に合わせてカスタマイズできる
3.具体的である
4.柔軟性がある
引用:前掲書p93(Kindle版)
以下ではこの4つを満たすルールを作るための基本を解説していきます。
6つの「ルール・カテゴリ」を使いこなす
『SIMPLE RULES』によれば、シンプル・ルールには大きく6つのカテゴリが存在します。
下表はこの6つのカテゴリとそのポイントをまとめたものです。これを見ると、目的によって効果的なルール・カテゴリが変わることがわかります。

例えば境界線ルールは意思決定の加速に効果的なルールになります。カナダの刑務所に服役中の重要窃盗犯に、様々な家の外観写真を見せて「自分ならどの家を狙うか」と尋ねた調査があります。
その結果わかったのは、一流の泥棒たちは「外に車が停まっている家は避ける(留守ではないと判断する)」というたった一つの境界線ルールに沿って意思決定をしているということでした。
彼らはこのルールによって大量にある選択肢を瞬時にふるいにかけ、最も成功確率の高いものを選びとっていたのです。これはシンプルなルールだからこそなし得る技と言えるでしょう。
リスク対策をしたいのであれば、停止ルールが効果的です。1929年の世界恐慌を事前に予測したとされる伝説の大投機家ジェラルド・ローブは、「損失が10%になる前に損切りをする」という停止ルールを自分に課していました。彼は早い段階で損失を受け入れて、気持ちを切り替えられる人間こそが長い目で見て最も成功すると言っています。
モチベーションに左右されずに成果を出したいのであれば、ハウツー・ルールが効果を発揮します。「ザ・ホワイト・ストライプス」は、たった2年間のうちに製作した2枚のアルバムが、2000年代を代表する最高傑作と評価されているロックバンドです。
彼らが2001年にリリースしたアルバム『ホワイト・ブラッド・セルズ』には5つのハウツー・ルールが設定されていました。
1.ブルースなし
2.ギターソロなし
3.スライドギターなし
4.カバー曲なし
5.ベースなし
引用:前掲書p771(Kindle版)
『シリコンバレー式 最高のイノベーション』で紹介されている、イノベーションを起こすための方法もハウツー・ルールの一種と言えるでしょう。
すなわち「先人のアイデアをパクり、改良しろ」「できるだけ小さなアイデア、少ない人数、少ないお金で始めろ」「小さく、早く、何度も失敗しろ」などです。
ルール・カテゴリは目的によって使い分けられたり、組み合わせて使われたりする場合もあります。重要なのはシンプル・ルールにはこれら6つのカテゴリが存在し、それぞれに役割があるということです。
この点を理解しておけば、自分のためのシンプル・ルール作りの際に自分がどのカテゴリのルールを作ればいいかを判断できるはずです。
シンプル・ルールを作る4つの基本
自分に必要なルール・カテゴリが理解できたら、次はそれをどうやってルールにしていくかが問題になります。
様々なシンプル・ルールを分析すると、そこにはルール作りのための4つの基本的な方法が浮かび上がってきます。すなわり次の4つです。
・「自分の経験」を活用する
・「他者の経験」を引用する
・「科学的証拠」で補強する
・「話しあい」で洗練させる
以下ではこれらについて1つずつ解説しておきましょう。
●「自分の経験」を活用する
筆者はフリーランスのライターとして活動していますが、仕事選びの際に「嫌な予感がするクライアントとは仕事をしない」というルールを設けています。
これは直感に頼った非常にシンプルなルールですが、多くのフリーランスが自分ルールとして採用しているルールでもあります。
たいていのフリーランスが、独立当初の「断ったらもう仕事が来ないかもしれない」という不安から嫌な予感がするクライアントとも仕事をした結果、痛い目に遭っているからでしょう。
これは筆者も体感していることですが、何度か痛い目に遭っていると直感が研ぎ澄まされてきて嫌な予感が的中し始めるのです。
このように自分の経験を活用してルールを作ると、ルールへの信頼度が非常に強くなります。結果他人から押し付けられたルールよりも守ろうという思いが強くなり、結果目標達成度も高くなる傾向にあります。
●「他者の経験」を引用する
しかし経験がない場合でもルールを作ることはできます。そのための方法が他者の経験を引用するというやり方です。
例えばNetflixはもともと宅配レンタルDVDの会社でしたが、その際の延滞料金のルールを当時巨大レンタルチェーンであったブロックバスター社のルールから引用しています。
また『シリコンバレー式 最高のイノベーション』でも書かれているように、シリコンバレーで成功を収めた企業の多くは他者の経験を引用する、つまりパクることでビジネスの基礎を作っています。
スティーブ・ジョブズはカリフォルニアの研究機関「パロアルト研究所」から技術を借りてマッキントッシュを作り、ビル・ゲイツはスティーブ・ジョブズをパクってウィンドウズを開発しましたし、フェイスブックはソーシャルネットワークの先駆けであった「フレンドスター」「マイスペース」をパクってサービス改善に役立てています。
他者の失敗や成功からルールを導き出すもよし、他者が採用しているルールをパクって自分なりにアレンジするもよし。とにもかくにも一から始める必要はどこにもないのです。
●「科学的証拠」で補強する
個人の経験からルールを作り出すと、あくまで個人特有の経験であるがゆえに成果につながらない場合があります。
特に他人の経験を引用する場合、その本質を理解せずにうわべだけをなぞったルールになるリスクが高くなります。そこでルールを科学的根拠で補強すると、こうしたリスクを低減することができます。
この方法を多用して様々なルールを提案しているのが、メンタリストのDaiGoさんです。
DaiGoさんが出版している本の多くは、最新の心理学の研究を応用して様々なハウツー・ルールを提案する本であると言えるからです。
『なぜかまわりに助けられる人の心理術』『ウィルパワーダイエット ダイエットという自分との心理戦に勝つ方法』など枚挙にいとまがありません。
ブログ「パレオな男」や『最高の体調 ~進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法~』の著者であり、DaiGoさんが「日本で一番尊敬する人」と評するサイエンス・ライターの鈴木祐さんの仕事も、膨大な科学的根拠の中から人生やビジネスに応用できるルールを見出して紹介することと言えます。
『SIMPLE RULES』では紹介されていませんが、こうした信頼の置ける人が提案するルールを取り入れて、自分の中で精査していくという方法も、経験に頼らずルールを作る方法としては有効かもしれません。
●「話しあい」で洗練させる
目的や考え方が違う人たちと一緒にルールを作る方法が、「話しあい」で洗練させるというやり方です。
しっかりと話し合って全員で決めたルールは、トップダウンで押し付けられるルールよりもはるかに受け入れやすく、守ろうという気持ちにさせます。どんな優秀なルールも守られなければ機能しません。そのため状況によっては、話し合いの場を設けて意見をぶつけ合う必要があるのです。
しかし目的や考え方が違う人たちがいきなり、シンプルなルールを決めるのは至難の技です。その場合は話し合いの枠組みになる、より基本的なルールを作る必要があります。
例えば2008年のロンドン・ビジネス・スクールは、経営不振を乗り切るために廃止するべきプログラムと存続させるべきプログラムを判断しなければなりませんでした。
しかしどの教授も自分のプログラムを存続させるべきと考えているため、そのままでは議論は進みません。そこで「どのプログラムを残すべきか」という議論の前に、「どのプログラムを残すべきかを選り分ける際に、どのようなルールが必要か」を議論することにしたのです。度重なる議論の結果導き出されたのは、次のようなルールでした。
1.利益が出るプログラムであること
2.二週間以上のプログラムであること
3.受講者の満足度が、求められるレベルに達していること
4.ただし、内容が似ているプログラムは廃止すること
引用:前掲書p1165(Kindle版)
このルールで合意を得た上で「どのプログラムを残すべきか」に戻って、議論を進めた結果、同スクールは経営不振からの脱出に成功したのです。
ルールは進化する
シンプル・ルールは一旦作ったらそれで永遠に使い続けられるというものではありません。実地に試してみて、その都度PDCAを回すことで洗練され、進化していくものです。
『SIMPLE RULES』ではそのための方法についても実例豊富に紹介しています。今回紹介した内容で物足りなくなった人は、ぜひ一度本書を手に取ってみてください。
参考文献『SIMPLE RULES 「仕事が速い人」はここまでシンプルに考える』

