読書をスタートのスイッチに!読書家が教える書店の活用術

この時代だからこそ改めて見直したい書店の価値

ブックディレクターの幅允孝さん(有限会社BACH代表)は、著書の『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』の冒頭でこんなことを述べています。

人が本屋に来ないので、人がいる場所に本を持ち出していく仕事をしている。検索型の世の中において、知らない本に偶然出くわす機会を日常の中に点在させたいと思い、続けている仕事だ。

この文章に、書店の価値が凝縮されています。
「知らない本に偶然出くわす機会」です。

ただ、単に「知らない本」という意味ではインターネット上でもいくらでも目にすることはあります。そうではなく、自分にとって価値のある今はまだ知らない本に出くわすために、書店という存在は依然として重要な存在であると筆者は思います。

今回は、筆者の読書についての考え方を述べた上で、書店の活用術について紹介します。

目的としての読書と、手段としての読書

筆者は、ゆるやかにではありますが、読書を二種類に分けて捉えています。

一つは、読書自体がエンターテイメントであり読書すること自体を楽しむ、目的としての読書。

一つは、何かを学ぶため、知るため、調べるために書籍を活用する、手段としての読書。

前者は、筆者にとっては主に小説があたります。後者は主にビジネス書です。もちろん小説から何かを学ぶこともありますし、ビジネス書を時間を忘れてのめり込むように読破することもあるので、二項対立的な扱いではありません。

また、雑誌は楽しさや暇つぶしを目的としながらもそこから情報を得るために読むこともありますので、区分けが難しい存在です。ただ、筆者が書籍(雑誌含む)を手に取って読み始めるときは、何となく脳内で用途を分けて捉えている節があります。

そしてここから先は、読書を「何かを知るための手段としての読書」と捉えて話を続けます。

読書とは、知識を紡ぐこと


何かを知るために書籍を手に取りたいと考えるということは、おそらくGoogleで調べてすぐにわかるような情報ではなくもっと奥深い何かを知りたいという動機にかられているということだと思います。

しかしそのような場合、一冊の書籍に自分が知りたいことがすべて書いてあるということはほぼありません。あるいは、当初知りたいと思っていたことを書籍を通じて学んだ結果、さらに深いレイヤーがあることを知り、もっと探求したくなったということかもしれません。

こうして、一冊の書籍から好奇心が刺激され、次の書籍、さらに次の書籍というように知識の泉を蓄えていくこと。これこそが書籍を通じて学ぶことの真髄であり、筆者はこの一連の流れを「知識を紡ぐ」と表現しています。

書店の活用① 大型書店の書籍数と整理された書棚を活かして

知識を紡ぐために、整理された書棚ほど最適な場はありません。例えば筆者は人材採用や育成を生業としていますので、リーダーシップについて学ぶことがあります。大型書店ではリーダーシップというジャンルで整理された書棚に新刊から古典まで揃えてありますし、似通った概念であるマネジメントについてはその隣に書棚があるケースがほとんどです。

この豊富なラインナップから、筆者のコンテキストにあった書籍を立ち読みによって選書することが許されているのです。

知識を紡いでいく行為は、段々と細くなるが確実に奥に続いていく道を探り立てていく作業に近いです。学びたいことが洗練されてくるので、中身をある程度「味見」しないことには、先に進むことが難しくなってきます。

筆者は、知りたいことが明確になればなるほど書店で選書をすることの重要性が増すと考えています。このようなケースでは、大型書店を活用するのが良いでしょう。

書店の活用② 信頼できるキュレーターの選書に学ぶ

大型書店は良くも悪くも書棚が整理されており、リーダーシップの書棚であれば誰が見てもリーダーシップに関係のある書籍が連なっています。しかし、知識を紡ぎ、より抽象度の高い考えに昇華していくためには、ときにはまったく異なった観点やアナロジーを活かして学ぶことが必要なケースもあります。

そのようなときに非常に参考になるのが選書家の存在です。選書家は、すでに紡いだ知識をもとに、価値のある選書をして書棚を構成してくれています。

例えば、東京の渋谷にあるBOOK LAB TOKYOでは、作家と書店員のパラレルキャリアを続けている中村慎太郎さんが主にビジネス書の書棚の選書をしています。

中村慎太郎さんは著書の『サポーターをめぐる冒険 Jリーグを初観戦した結果、思わぬことになった』が2015年サッカー本大賞に選出され一躍脚光を浴びた作家です。

BOOK LAB TOKYOは書籍数では当然大型書店には敵いません。しかし、選書家による意図が加わった書棚の存在が、自分ひとりではたどり着けなかった味わいのある一冊に巡り合わせてくれるというセレンディピティが期待できるのがこうした選書家のいる書店のメリットです。

自分の知りたいことがいったん一巡したり、何か新しい視点がほしいと思ったりしたときは、大型書店ではなくこうした選書家のいる街の書店を覗いてみるのも良いでしょう。

書店の活用③ 読書をスタートするためのスイッチとして

そもそも、こうした知識を紡ぐ行為とは縁遠く、書籍を読み始めるきっかけが得られていないという方もいらっしゃるかもしれません(どうかそういった方もこのコラムを読んでくれていますように)。

そういった方にこそ、書店に足を運んでほしいと思います。読書をしないから書店に行かないのではなく、書店に行かないから読書をしないという順番だと筆者は思います。

インターネットの海に溺れていると、なかなか書籍を手にするきっかけが訪れません。書籍と出会うために、近所の、あるいは勤務先や学校の近くの本屋に立ち寄ってみてください。

そこには、必ずベストセラーの書棚と、何らかのフェアの書棚があるはずです。難しいコーナーには行かなくて結構です。たいてい、こういったベストセラーやフェアの書棚は入り口の近くにあります。その中からどれでもいいので、ランチ1回分を投資して書籍を購入してみてください。

最初から最後まで読まなくて良いです。読破しなければならないと思うと、かえって勢いが削がれることもあります。あとがきから読んでも構いませんし、興味のある箇所だけ読んでも構いません(筆者も読みきらないことがあります)。

モチベーション喚起のきっかけに、書店を活用してみてほしいと思います。

書店は無料でも楽しめる最高の暇つぶし


書店が少なくなり身近な存在ではなくなりつつありますが、その分生き残っている書店はお客様を楽しませる工夫をしてくれています。フェアや手書きポップなどの選書の工夫や、カフェやその他の販売店との併設など誘客の仕掛けも盛んです。

この時代だからこそ、書店探訪を日常に組み込み、知の泉に溺れてほしいと思います。

著者プロフィール:鈴木洋平(すずきようへい)‬
‪2002年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。システムエンジニアとして入社後、同社内で人事に転身。同社を退社後、「株式会社採用と育成研究社」を設立、同副代表。 企業の採用活動・社員育成の設計、プログラム作成、講師などを手掛けている。‬
‪・米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー‬
‪・LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター‬
‪http://rdi.jp/about-rdi‬

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[文]鈴木洋平 [編集] サムライト編集部