「正しい失敗」ができなきゃ成長できない!リスクを把握して失敗の仕方を身につけよう

失敗しない成功者はいない

いわゆる「成功者」と呼ばれる人たちの中に、失敗をしたことがない人というのはほとんどいません。初めての著作のタイトルを『一勝九敗』にした柳井正さんをはじめ、幻冬舎の箕輪厚介さんの著書のタイトルも『死ぬこと以外かすり傷』と失敗の必要性を説いています。

しかしそうは言っても、失敗は怖いもの。下手に失敗をすると、怪我や病気、失業や破産など、様々なリスクに発展しかねません。だから成長するためには、まずは「正しい失敗」をする必要があるのです。

以下では失敗とリスクに関する具体例を挙げながら、リスクを正しく推測し、成長につながる失敗をするための方法を紹介します。

成長には「小さな挑戦」と「小さな失敗」が必要

成長につながる「正しい失敗」とは、すなわちリスクの大小をある程度把握したうえで「小さな挑戦」を行い、その結果として「小さな失敗」をすることです。

もしこの挑戦が成功すればもう少し大きな挑戦ができるようになるので成長できますし、失敗をしても規模が小さければやり直しがきくうえ、「何がダメだったのか」と考えることで成長の糧にすることもできます。

例えば国際通貨基金(IMF)初の女性理事を務めるクリスティーヌ・ラガルドさんは、大学卒業後の1981年にアメリカの国際ロー・ファーム「ベーカー&マッケンジー」で弁護士として働きはじめ、1999年には同社初の女性チェアマンを務め、その後はフランス政府の要職につき、G8最初の女性財務相としても知られています。

これほどまでに華やかな経歴を持つ彼女ですが、実は自分の意見や能力に自信がなく、公の場で発言をすることに勇気を振り絞らなければならないことが何度もありました。

そんなラガルドさんが自信を取り戻し、目の前の問題と向き合う際に思い出しているのが、まだ自分が4歳の頃、両親に弟たちの世話を言いつけられ、そこでやったことがないことに挑戦したり、その結果失敗したりした過去なのだと言います。

彼女が現在の地位にあるのは、そうした一見どうしようもなく小さな挑戦と小さな失敗の繰り返しの賜物なのです。

神経細胞も挑戦と失敗を繰り返して成長する

実は人間の神経細胞にも、小さな挑戦と失敗を繰り返して成長するという性質があります。脳を含むヒトの神経系には1,000億もの神経細胞(ニューロン)がありますが、これらは遺伝子にインプットされている情報通りに作られるのではありません。

脳や脊髄といった中枢神経系には、本来必要とされる数以上の神経細胞が作られていますが、それは神経細胞をランダムに伸長するためです。

伸びた先がたまたま神経回路を形成する上で適切な場所であれば、そこからネットワークへと成長していきますが、そうでなければ行く先のない神経細胞はそこで死んでしまいます。

神経細胞はこうした体全体に影響のない試行錯誤を繰り返して、宿主である人間の体を維持したり、大きくしたりしているのです。これはまさに小さな挑戦と小さな失敗と言えるでしょう。

その挑戦のリスクはどれくらい?

ここで問題になるのは、そもそもどうすれば挑戦や失敗の大きさ=リスクを正確に把握できるのかということです。例えば日本では放射線の追加被ばく線量を年間1ミリシーベルトにしようと国が躍起になっています。

しかしアメリカでの調査によれば、平均被ばく線量が年間2.7ミリシーベルトを超えている8州の癌の発生率が、全米州平均よりも低いことがわかっているうえ、国連も100ミリシーベルト以下の放射線には問題がないという見解を出しています。

こうしてリスクを過度に大きく見積もっているために、放射線量を減らすために延々と国税が使われ、肝心なところに使われないという事態が起きています。

逆に本来大きいはずのリスクを小さく見積もって、とてつもなく大きな失敗につながる可能性もあります。その例は枚挙にいとまがなく、2008年のリーマン・ショックのきっかけとなったサブプライムローンの破綻などはその一例にすぎません。

リスクはいったいどれくらいなのか。それがわからなければ怖くて挑戦も失敗もできません。ではどうすればリスクを把握できるのでしょうか。以下ではそのための方法を紹介します。

「懐疑」と「勇気」でリスクの把握力を身につける

「リスク計算」を疑う

第一の方法は、巷に溢れる「リスク計算」をまず疑ってみることです。前述の低線量放射線やサブプライムローンも疑うべきリスク計算ですが、例えば転職のリスクを自分の目と耳と頭で疑ってみてもいいでしょう。

人は「大多数と違うこと」をしようとすると、理性的に考えることをせずに「それは危険だ!」と思い込み、リスクを必要以上に大きく見積もる性質があります。日本における転職もその一つで、「大多数が一つの企業に勤め上げるものなのに、自分だけが転職するなんて危険だ」と思い込んでしまうのです。

ところがシンクタンクの総合研究開発機構(NIRA)の研究によれば、「終身雇用」と呼べるような長い勤続年数を経験しているのは、せいぜい大手製造業くらいのもので、他の業界になると定年を迎えるまで一つの会社に勤め上げたという人は極めて少数派であるということがわかっています。

つまりそもそも「一つの企業に勤め上げる」というのが少数派で、大多数は何かしらの形で転職をしているということです。

こうなると転職は一気に「大きな失敗の可能性がある大きな挑戦」ではなくなります。だからといって何も考えずに転職できるわけではありませんが、少なくとも転職のリスクを必要以上に大きく見積もることはなくなるのです。

世の中にはこうしたリスクの誤算が無数にあります。「リスクが高すぎる」と思って手をつけていないこと、逆に「リスクが低いから安心」と惰性でやっていることを改めて見直すだけでも、リスクの把握力を養えるでしょう。

「経験則」を磨き上げる勇気を持つ

「リスク計算を疑う」という方法は、確かに全ての情報が揃っているリスクの把握には役立ちます。例えば統計学的に示されているリスクの大小を自分の頭で理解しようという時などです。

しかしじっくり考えている時間がない場合、あるいは経済や天災、恋愛や結婚などのように不確定な要素が多い場合には、いくら細かく計算してみても最後に前提がひっくり返る可能性が十分あるため、計算をし直す意味がありません。

そこで役に立つのが「経験則」です。これを意思決定のツールとして研究している行動科学者のゲルト・ギーゲレンツァーさんは、著書の中で、次のように書いています。

経験則(中略)があれば、情報をあまり探さなくても精度の高い判断をすばやく下すことができる。
引用:『賢く決めるリスク思考:ビジネス・投資から、恋愛・健康・買い物まで』p50

この経験則の精度を上げるには、少しだけ勇気が必要です。なぜなら経験則による意思決定は、意図的にするにしろ、無意識的にするにしろ、「よくわからないけど、そんな気がする」という論理的ではない根拠に基づく意思決定だからです。失敗に慣れている人ならともかく、そうでない人にとっては一見非常にリスクの高い方法に思えるでしょう。

しかし例えばレストランや居酒屋を選ぶとか、そこでメニューを選ぶとか、その程度の意思決定であれば失敗しても大したことにはなりません。そういうところで「これまでの経験上、これならうまくいく」という経験則を使ってみると、成功すれば自分の経験則に自信がつき、失敗しても修正を加えれば経験則を磨き上げていくことができるのです。

何度か繰り返しているうちに経験則で意思決定をするのが楽しくなり、瞬時にリスクを嗅ぎ分ける能力が養われていることに気づけるはずです。

リスクがわかれば失敗は怖くない

失敗が怖く感じるのは、多くの場合「失敗したらどうなるかわからないから」です。しかしリスクの把握力を養って、失敗した後どうなるかがある程度わかれば、その際の対処法もあらかじめ考えられるわけですから、失敗が怖くなくなります。

そうなればしめたもの。自分ができる範囲の挑戦を積み重ねていけば、自ずと成長することができるでしょう。これを機に、リスクに関する考え方を見直してみてはいかがでしょうか。

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挑戦のリスクをしっかりと見極めましょう!
[文・編集] サムライト編集部