新規開拓なんて、もうやめてしまえ!一圓克彦が教える”また来る顧客”のつくり方

全ての営業職に伝えたい、”また来る顧客”を作るコツ

売上を伸ばし続けるために欠かせない、新規開拓。おそらく営業職に就いた人なら、誰もが通る道です。

ビルの上から下まで走って、とにかく飛び込み営業、1日100件以上のテレアポ…。そんな新規開拓に対して、「そうした数撃ちゃ当たる、のような新規開拓をしているのであれば、今すぐにやめるべきだ」と話すのは、顧客リピート総合研究所株式会社・代表取締役の一圓克彦(いちえんかつひこ)さん。

今回はそんな一圓さんに、新規開拓をしてはいけない理由、リピーターを増やす方法、そして現在営業職として活躍されている方へのメッセージを伺いました。営業職はもちろん、経営者の方も必見です。

人からお客様を奪う新規開拓は、デフレの元凶?『新規開拓原理主義』が招く、負のスパイラル

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―全国各地でセミナーの講師やコンサルタントをされている一圓さん。行く先々で「新規開拓なんて、やめてしまえ」とおっしゃっていますが、新規開拓をしてはいけない理由をズバリ、教えてください。

一圓克彦さん(以下、一圓):一言で言うと、今の時代の新規開拓とは人のお客様を奪うことだからです。

―人のお客様を奪うというのは、どういうことでしょうか?

一圓:順を追って説明しましょう。まず現在の日本は、需要よりも供給の方が多い社会です。かつての日本、つまり需要が多かった時代というのは「うちの街にも家電量販店ができた」といった具合に、今ほどモノやサービスが流通していなかったんです。

それに対して今の日本では家電量販店は至る所にありますし、インターネットもここまで普及しています。そうなると消費者は、かつての「テレビが欲しい」といった単純な欲求から、「どこのお店で、どのメーカーを買おうか」とより安くいいものを買おうとします。

すると、どうなるか。メーカーや量販店は、数多の競合の中から自分の商品を買ってもらうためにまず値引きを始めます。しかし値引きもいずれ、これ以上はできないというラインまで来てしまう。すると今度は「送料無料」「家電の組み立て・設置無料」といった具合に、過剰サービスを始めます。

つまり現代の新規開拓では、限られたパイの中のお客様を、なんとか自社の商品に振り向かせようとしてあの手この手の施策を打ちます。そしてそのしわ寄せが立場の弱い下請けなどに行って、商品の致命的な欠陥を引き起こす原因となることもあるのです。

―現代の新規開拓とは、”開拓”といいつつ、実際には限られたパイの中でお客様を取り合っている状態なんですね。

一圓:はい。私はこの「新規開拓が全てだ!」というビジネスの考え方を「新規開拓原理主義」と呼んでいます。この新規開拓原理主義の泥沼にハマってしまうと、仮にたくさん売っても儲けが全然出ない状態になり、デフレの引き金にもなりかねません。

私は、こうしたむやみやたらな新規開拓は誰も得をしないと、全国各地を渡り歩いて警鐘を鳴らしているのです。

あなたにとっての理想のお客様は、誰?新規開拓をするなら、リピーターになりうる人に絞って行え!

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―ではこの新規開拓原理主義から抜け出すためには、どうしたらいいのでしょうか?

一圓:ここで私が専門としている、リピーターが登場します。新規開拓原理主義から抜け出すためには、「リピーターになる人」を、新規開拓すればいいのです。

―あらかじめお客様の層に狙いを定めてから新規開拓をするということですね。

一圓:はい。当たり前のことですが、営業は自社の商品を”欲しい”と思っている人に売ることが仕事です。”いらない”と思っている人にも売りつけようとすることが、仕事ではありません。

会社にお勤めしている方だと、会社の経営方針との兼ね合いもあると思いますが、その中でも自分と相性のいいお客様をきちんと見抜くべきです。

―自分と相性のいいお客様を見抜き方法とは、一体何でしょう?

一圓:自社の商品やサービスは誰のためのものなのかを、徹底的に考えるところから始まると思います。

ひとつ、具体例を出して説明しましょう。ある魚市場に定食屋がありました。その定食屋は魚市場に位置しているだけあり、23時〜翌朝10時まで営業をしていました。当然、メインの客層は魚市場で働く人達や漁師さんだったんです。

しかしその定食屋が、さらに集客を増やすために24時間営業にしたところ、今まで通ってくれていた漁師さんや市場で働く皆さんの足が遠のいて、赤字に転落してしまったのです。

―なぜ、漁師さんや市場で働く皆さんの方たちの足が遠のいてしまったのでしょうか?

一圓:24時間営業にしたことで、漁師さんや市場で働く皆さんへの顧客ロイヤリティが下がってしまったことが原因と考えられます。市場の仕事が終わるのが、ちょうど明け方から朝にかけて。その時間に定食屋に足を運んで、仕事終わりの一杯をやることが彼らの楽しみだったのです。

しかし24時間営業になったことで、スーツ姿のサラリーマンなど、一般のお客様が頻繁に店にやってくるようになりました。すると、仕事終わりの朝にビールを飲みながらワイワイ騒ぎたい皆さんにとっては、どこか入りづらい雰囲気ができてしまった。

そうした経緯から、漁師さんや市場で働く皆さんの足が遠のいてしまったのです。

―その後、その定食屋はどうなったのでしょうか?

一圓:今回のケースでは、この定食屋の理想のお客様、つまり1番最優先に考えるべき客層は漁師さんです。だって、広告を出さずとも毎日のように来てくれるのですから。

集客を増やすために実施した24時間営業という施策はいわば、このメインの客層を無視した施策になってしまった、というわけです。ちなみに、他の客層を集めるために広告費をいくら使った事やら。

なので、営業時間を元の23時〜10時に戻して、リピーターをターゲットに絞ったサービスを展開した結果、広告無しで来てくれるロイヤリティーの高いお客様(=利益率の高いお客様)が戻ってきたのです。

このように、自分にとって理想のお客様を想定して、彼らが喜ぶようなサービスを提供することで顧客ロイヤリティの向上し、リピーター獲得が見込めるのです。

全ての業種で、自分が大切にしなければならないお客様がいるはず。いい意味で、お客様を”選ぶ”勇気を持つ!

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―自分の最も理想とするお客様を基準にしてサービスを展開する。リピーターを増やすためにはとても有効な方法だと思うのですが、会社勤めの方だとこうした方法をなかなか実践できないこともあるかと思います。

一圓:たしかに、会社勤めの方だと経営方針もありますし、自分ではどうにもできないところも多いと思います。しかし先程も申した通り、”いらない”と言っているお客様に無理やり売りつけるのが営業ではありません。

―そんな会社勤めの営業職はどうしたらいいのでしょうか?

一圓:定食屋の例でも挙げましたが、やはり自分が1番大切にしなければならない、理想のお客様を徹底的に考えることが最重要だと思います。

様々な企業さんにコンサルタントとして参加させていただいて思うのは、全ての業種に自分が大切にしなければならないお客様の層が必ずある、ということです。

経営方針の違いはあれど、まずは自分の仕事、あるいは自分自身と相性の良いお客様を大切にする。そこから始めてみると、お客様と深く根強い関係を構築できるようになります。

―お客様と関係をより深めていった方が、結果としていろいろな仕事が来ることがありますよね。数撃ちゃ当たる理論よりも、狭く深くでも質の良いのお客様を作ることが大切なのですね。

一圓:まさにその通りです。自分の商品やサービスの属性のターゲットから外れている人に無理に売り込もうとしても、誰も得をしません。いい意味でお客様を選んでいくことが重要だと思います。

―最後に、営業職の方へメッセージをお願いします。

一圓:月並みな言い方かもしれませんが、ものを売る人は自分がその商品を売るということを楽しまないとできないと思います。では、自分が楽しくお客様に商品を売るために、どうするべきか。私はその問いの答えが”リピーターの創出”にかかっていると思っています。

リピーターになってくれているということは、お客様が自分の商品やサービス、あるいは自分を好きでいてくれているということ。そんなお客様が増えていけば、自ずとお客様と接していて楽しくなると思います。

Career Supli
1日何百件もアポを取る、いわば数で勝負するような派手さはありませんが、地道に少しずつお客様と関係の質を深めていく。そうした関係作りがリピーターとなり、結果的にビジネスをうまく運ぶことにつながるのかもしれません。一圓さん、ありがとうございました!

[インタビュー・文]内藤 祐介 [編集] サムライト編集部