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南米でラーメン屋起業にチャレンジ
約1年前、筆者はコロンビアの街を歩いていました。前は見かけなかったラーメン屋がオープンしているのを発見。
こんな土地で一体誰がラーメン屋をやってるんだ?と思い、店を覗いてみると日本人の姿が。
そのラーメン屋の店主は小坂 啓司さん。
小坂さんが2017年2月に開いたラーメン屋「SUMO RAMEN」は軌道に乗っており、現在は後継となる日本人の方に引き継ぎ中です。今後はまた別の国でのチャレンジを模索されているとのことです。

そんな小坂さんにコロンビアでのラーメン屋起業に至るまでの道のりをお伺いしました。起業にはサラリーマン時代に培ったビジネススキルがかなり役立ったとのこと。
スペイン語を勉強しにコロンビアに渡った

ーそもそもなぜコロンビアに行くことにしたのでしょうか?
小坂さん:キッカケはアルメニア、ジョージアを旅していた時のこと。出会った旅行者に「次は南米に行こうと思っているんだけど、どの国がおススメ?」と聞いてみたんです。
日本人2人、アメリカ人1人の3人みな口を揃えて「コロンビアがいい、人がいいし美人が多い」と答えたんです。
中学時代からスペインのプロサッカーリーグ、リーガ・エスパニョーラが好きでスペイン語を勉強したいとも思ってました。
そこで、みんなおススメの南米コロンビアにスペイン語を勉強にしに行ってみることにしました。2016年4月のことですね。
ーなぜコロンビアの首都のボゴタ市ではなく、メデジン市に滞在することにしたのですか?
小坂さん:先ほどの出会った旅行者3人の中の1人が「メデジンに知り合いがいる」と日本語教師を紹介してくれたからです。なのでメデジンに行こうと。
メデジン市は思っていた以上に都会でしたね。インフラも整備されてて。あとやっぱり旅行者の評判通り美人も多かったですね。
起業の優先順位はさほど高くなかった

ー話戻りますが、コロンビア滞在はスペイン語の勉強が目的であってラーメン屋起業ではなかったのですね?
小坂さん:そうですね。スペイン語目的です。メデジン市では先ほどの日本語教師の方が教えてるコロンビア人の学生と言語交換(ランゲージエクスチェンジ)し、学校に通うことなくスペイン語を勉強し続けました。
滞在から数か月経ったんですが、スペイン語をもっと極めたくなりました。納得いくまで勉強したいなと。
でも、コロンビアに半年以上滞在するためにはビザが必要です。色々調べると、会社を設立すると1年滞在できるビザが貰えると分かりました。
会社設立するなら、なんか自分でもビジネスしてみても良いかと考えたんです。
コロンビアでもラーメンがウケるか試してみたかった

ー面白いですね、ラーメン屋にした理由はなんですか?
小坂さん:以前、ラーメンをコロンビア人に振舞ったところ大好評だったことを憶えていました。欧米ではすでにラーメンが流行しているし市民権を得ているし、もしかするとここでも受けるんじゃないかなと。
「ちょっとやってみようか」と軽い遊び感覚でラーメン屋開業に向けて動き始めました。ただ、その時はまだ優先順位は語学を勉強することにありました。
ラーメン屋で業務を通してスペイン語を使うとさらにスペイン語を高められるんじゃないかという狙いもありましたね。あとは、生活費がちょっとでも入ればよいかなと思って。
ーフットワークの軽さが凄い!起業の準備はどんなプロセスでしたか?
小坂さん:起業のために2016年に9月にビザを取得。そこから物件取得は2017年1月の中旬。スペイン語の勉強の合間に4か月間ラーメン屋営業するための物件探しました。
顧客ターゲットは海外通の富裕層を想定。そこで富裕層がよく来る一等地のエリアの物件に焦点を定めました。
自分でそのエリアを歩いて「貸出中」という貼り紙があれば電話を入れ、不動産会社ともコンタクトを取りました。最終的には不動産会社が紹介してくれた物件に決めました。
あと、ラーメン屋の設備は物件を探している間に探しておきました。なので、物件を借りてからラーメン屋オープンまではわずか2週間足らずでしたね。
オープン日すら決めることなく、告知もしませんでした。「遊び」の延長上で地味にやれたらいいかなと思っていましたので。
それでもオープンするとお客さんがダダっと来ました。準備してる最中に看板を見た人や口コミで聞いた人が来たようですね。
遊び感覚で始めてみた。蓋を開けると予想を超える反響

ーオープンしてからの状況はどうでしたか?
小坂さん:概ね評判は良かったですね。ただ、オープン当初はラーメンの並と大盛の分量も決めてませんでした。
お客さんがたくさん来て、テンパって大盛1人前に大盛3人前の麺を入れたり。そしたら、大量に食べ残しが出ましたね。
でも、それでコロンビア人がどれだけ食べられるのか分かったので、徐々に麺の分量を調整していきました。
あと、オープンして2週間くらいでコロンビアで有名なグルメリポーターが家族と来てくれました。そして、彼のFBでラーメン屋を告知してくれたんです。
すると、その週は20人行列ができましたね。そっからはうなぎのぼりで客が増えていき、凄く忙しくなりました。
当初はスペイン語がメインだったのにラーメン屋の方をメインにせざるを得なくなりましたね。コロンビア人がうまそうにラーメンを食べてる姿を見てラーメン屋の方に腰を据えて取り組もうと。
ーコロンビア向けにラーメンは改良しましたか?
小坂さん:ラーメンのスープは先ほど言ったコロンビア人にうけたラーメンの味付けがベースです。ちなみに僕、高校時代に元々ラーメン屋でアルバイトをしていたのでラーメンの作り方は知ってたんです。
麺はコロンビアでは手に入らなかったので自分で作ってました。
コロンビア人は醤油が好きなお客さんが多かったので、醤油ベースのとんこつスープに脂っぽいよりも醤油のようなあっさりしたのが好みなようです。
このスープの仕込みと麺を手作りするのとで物凄く忙しかったです。1か月に1回忙しすぎて倒れてた。全身に湿疹ができたこともありました。ただ、妥協はしたくなかったので気合でやり続けましたね。
コロンビア人と日本人の勤労観の違い

ーコロンビア人を雇いましたか?
小坂さん:倒れてからは人手がさすがに必要だとわかったのでコロンビア人をバイトで雇って、自分の負担を減らすためにも麺づくりも教えて手伝ってもらいました。
ーコロンビア人の勤労観はどんな感じでしょうか?
小坂さん:僕はJICAでエチオピアに2年間住んだ経験があってエチオピア人との比較になりますが、コロンビア人はエチオピア人に比べて労働に対して真面目だと感じました。あまり遅刻しないですし。
ーただし、日本人とは異なる点はありますね。
小坂さん:ええ、もちろん。たとえば、コロンビア人は「マルチタスクができない」「言わないと伝わらない」ことがあります。
伝票を持っていって帰ってくる時についでにお皿を下げるような機転がきかなかったり。そのあたりは言ってあげないと分からないようです。
ただ、口酸っぱく言ってるとだんだんできるようになりました。
ーコロンビア人従業員とトラブルはありましたか?
小坂さん:大きなトラブルはないです。勤続日数が良い人の給料を高くすると、だんだん要求や主張をしてくることが多くなりました。必ずしも給料を上げるのは良くないようです。
増えすぎた要求や主張に対しては「もっと勤続日数を長くして回転率を上げるためにテキパキ動くなら上げるよ。でも、それができないと給料は上げられない」と少し厳しめに対応しました。
ーコロンビア人従業員の良さはどんなものがありますか?
小坂さん:積極的に客と会話するところでしょう。フレンドリーな接客は得意ですね。それは僕も見習いたい点です。ただ、たまに話し込みすぎるので「仕事しろよ」って思うときはありますね(笑)
あとこれはコロンビア人に限ることではないかもしれないですが、業務に裁量を与えてあげると熱心に働きます。
あるコロンビア人従業員には麺づくりの権限を与えて給料も上げました。信頼されてると感じるとモチベーションが上がるようですね。
日本の営業マン時代のビジネススキルが役立った

ー海外で起業する上で役立ったことは何かありますか?
小坂さん:新卒で就職した商社の営業マン時代に培ったビジネススキルでしょうか。
鉄のデリバリーの管理、仕入れの管理など購入から販売までを1人ですべて管理していました。そんなビジネス全体を回す経験があったから起業もスンナリできたように思いますね。
ラーメン屋では肉屋に週に3回肉のデリバリーを頼んでいました。肉屋の店主との価格交渉や店の担当の子と仲良くなってデリバリーの優先順位を上げるための関係を構築しましたね。
定期的に肉屋をはじめ仕入先に顔を出すようにして「人と人」との関係を築くようにしてました。そうすると、緊急時にデリバリーを頼んでも対応してくれるようになったんですね。
コロンビアあるあるなのですが、肉屋の事情で約束の日に肉のデリバリーができない場合でも「今日配達できない」と通知してきません。でも関係が深くなると「今日配達できない」と通知してくれるようになります。
日本の営業マン時代に培った価格交渉、関係構築における知恵が役立ったと思っています。
ー海外で起業してみてどうでしたか?
小坂さん:海外で起業してみて日本で会社員時代に培ったスキルとか知恵っていうのが万国共通で強みとなるのではと感じました。
日本だと当然な「ホウレンソウ」であるとか約束を守る、関係性を築く、そういったことが強みになるんだなと。
現在、ラーメン屋ビジネスは軌道に乗って、後継者の方に譲りました。ラーメン屋をもっと良いものにしてもらえればと思ってます。
1年半やってきて予想以上に起業が上手くいったので自信と経験がつきました。
次はまた気に入ったどこかの国で何かしら始めて満足するまでやってみたいですね。次始めるときはまた遊び感覚で始められるだろうと思ってます。もちろん、始めると倒れるくらいキツイかもしれませんが。
ー物凄いスピード、軽いフットワークでラーメン屋を異国コロンビアで開いたのは凄いの一言です。「とりあえず小さく始めてみて、改善を重ねて良い商品を作っていく」ことの大切さが分かるお手本のような例ですね。本日はありがとうございました。

ライター兼英日翻訳家のパブロです。 基本、中南米在住で用事があれば日本や米国にも行きます。 サルサダンスが三度の飯より好物。 [編集] サムライト編集部