プロのライターが実践している「聞き方」のテクニック6つ

「聞き出す力」はビジネスに必須のスキル

社内の問題やクライアントの問題を解決しようとするとき、まず重要になるのは「何が問題か」を把握することです。

「何が問題か」はデータや資料だけでもある程度までは把握できますが、正確に把握しようと思えば現場の人間の悩みや意見をしっかりとヒアリングする必要があります。しかし聞き手に「聞き出す力」がないと、ヒアリングをしても表面的な情報しか集められず、お門違いの解決策を提案してしまう可能性があります。

正確に問題を把握するためには、自分が目的とする情報をうまく聞き出す力が必要です。この力を養うために役に立つのが、インタビュアーが面白い話を聞き出すために使っている「聞き方」のテクニックです。今回はライターとして多くの経営者などにインタビューをしてきた筆者が、実際に取材の現場で活用しているテクニックを6つ紹介します。

下調べは基本中の基本

相手に関連する情報の下調べは、相手から深い話を聞き出すための基本中の基本です。ライターの中には「下調べをしないほうが、思いもよらない話が飛び出して面白い」という人もいますが、実は「思いもよらない」と思っているのはライター側だけで、話し手からすれば「想像の範囲内の浅い話」になってしまっているケースが少なくありません。

なぜなら下調べをしていないと、まず話の前提となる内容から聞かなければならないからです。

前提となる内容というのは書籍やウェブメディア、話し手のブログなど、すでに世に出ている情報を指します。

これらは話し手からすれば「周知の事実」であったり「常識」であったりするため、ここからインタビューが始まると話し手は「この人にはあんまり深い話をしてもわからないだろうから、浅い話にとどめておこう」と考えたり、「またその話か……何回も話しているから飽きてきたなあ」と感じたりしてしまいます。そうなると、もはや深い話を聞き出すことはできません。

確かに表面的な話を聞くことだけが目的なのであれば、下調べは必要ありません。しかしその先のより深く、本質的な情報を聞き出すためには、下調べは基本中の基本なのです。

「自分語り」は聞き出すための布石として使う

人から話を聞き出そうとする時に、「自分語り」はタブーのように思えるかもしれません。しかしあくまで話を聞き出すことを目的にするのであれば、自分語りはかなり役立つテクニックです。

例えば筆者が賃貸管理会社に取材したとき、話し手のシステムエンジニアの方が話し下手で、取材中に完全に沈黙してしまったことがありました。しばらく待ってみましたが、新しい話が出てくるわけでもありません。

そこで筆者は「親戚がマンションを持っていて、管理も全部自分でやっているんですが、隣人トラブルの対応に毎回頭を抱えているそうです」といった具合に、賃貸管理を自前で行なっている親戚の話をしばらく展開しました。するとその途中で話し手の方が「その流れで言うとね……」と話し始めたのです。

もちろんその瞬間、筆者は自分語りをストップさせます。なぜなら取材の目的は自分語りをすることではなく、話し手に語ってもらうことだからです。この前提さえ理解していれば、自分語りは聞き方のテクニックとしてかなり役立ってくれます。

「聞きたい話」より「話したい話」

インタビュアーとしての取材にしろ、社内の問題やクライアントの問題を解決しようとするときのヒアリングにしろ、「こういう話が聞きたい」という目的があると、それが以外の話を何とかして切り上げようとしてしまいがちです。筆者もインタビューを始めた当初はこのやり方をしていましたが、その頃のインタビューは軒並み失敗に終わっています。

なぜなら聞き手が話を誘導しようとすると、相手が気持ちよく話せないからです。相手が気持ちよく話せないと、言い方は悪いかもしれませんが、相手の口が滑りません。

話し手がつい口を滑らせたところにこそ、本音や本質が隠されていることが多いので、インタビュアーとしては話し手にはぜひとも気持ちよく話してもらわなければならないのです。

そのため今では、筆者は自分が用意している枠組みに沿わない話が出てきても、無理に方向修正をしないようにしています。あくまで用意した枠組みは頭の片隅に置いておいて、相手がそのとき話したい話を盛り上げます。

するとその話をしているうちに、話し手から「そういえば、これはさっきの話につながるんです」と言ってきたり、筆者が「その話って、さっきの話につながりますよね?」と糸口をつかめたりします。

このように取材が展開すると、自分が用意した枠組みよりも情報に奥行きが出て、取材記事としても面白いものになります。

情報に奥行きが必要なのは、ビジネスシーンで発生する問題を把握しようとするときでも同じです。なぜなら、ビジネスシーンにおける問題は様々な角度から検討しなければ正確に把握できないからです。

確かに聞き手の目的は「聞きたい話」を聞き出すことです。しかし「話したい話」を話してもらうことが、回り回って「聞きたい話」以上の情報を引き出すことにつながるのであれば、まずは話し手が気持ちよく話せる話をしてもらう必要があるのです。

「いつもの話」はこうして掘り下げる

しかし相手が話したい話を盛り上げていると、こちらがすでに知っている話ばかりが延々と続くケースもあります。

そのようなケースでは相手の気分を害さないよう細心の注意を払いながら、うまく話を先に進める必要があります。どのような方法が正しいかはケースバイケースで変わりますが、筆者の場合は次のようなセリフをよく使っています。

「確かそれってこういう話でしたよね!○○ってその後どうなったんですか?」
「私もそのお話はすごく好きなんです!でも実は○○については納得できていないんですよね……○○についてはどう思いますか?」

最初に「自分がその話題についてはここまで知っていますよ」と伝えることで話題の内容については省略してもらい、自分が気になっているところまで一気に踏み込むのです。この方法を使えば、既知の話で時間をいたずらに費やしてしまうような状況から脱け出せるはずです。

最初に「ここまで知っていますよ」を伝える

この「自分がその話題についてはここまで知っていますよ」と伝えるというテクニックは、実はインタビューの冒頭にも多用します。冒頭でこちらが持っている情報の量と質をアピールしておくと、話し手は「この人なら、深い話をしても理解してくれそうだな」「この人は、お茶で濁したような話をしてもごまかせそうにもないな」と感じ、しっかりと深い話をしてくれるのです。

例えばスクワットアドバイザーが語る!現代人にとっての「最強のスクワット」とは?での小川りょう先生への取材では、次のような話を冒頭にしました。

・筆者が理解しているスクワットの効果。
・世間のスクワットの効果についての無理解。
・小川先生がブログなどでスクワットの効果ややり方を真剣に説明・研究されていること。

その結果、この取材では本当に深いところまで話を掘り下げることができました。

誰かから話を聞かれるとき、最初に気になるのは「この人はどこまで知っているんだろう?」「こんな話をして、この人は理解できるんだろうか?」という部分のはず。そこを一番最初に明らかにすることで、話し手が迷いなく話せるようになり、より本音や本質に近い情報が引き出せるのです。

良いリアクションは「聞きどころ」で使う


話し手が気持ちよく話せるだろうと考えて、相槌や身振り手振りのリアクションを乱発する人がいますが、雑談の場合はともかく、インタビューやヒアリングの場面ではこのやり方はおすすめできません。なぜなら「良いリアクション=もっとその話をして欲しい」という意思表示だからです。

良いリアクションをされれば、話し手は気持ちよくなって饒舌になります。しかしそれが本来聞き出したい情報ではない場合、話題はどんどん見当違いの方向へ展開されてしまいます。

確かに前述したように、それが聞きたい話とリンクする可能性もありますが、それを狙うのであればちゃんと「リンクするだろうな」と目算を立ててリアクションを取るべきです。下手の鉄砲数打ちゃ当たるの精神で乱発してしまうと、それだけ失敗の数も増えてしまいます。

実際筆者も過去のインタビューで良いリアクションを乱発した結果、聞きたい話とは全く無関係な話し手の幼少期の話で盛り上がってしまった経験があります。そのインタビューの相手はやや強面の男性で、筆者はなんとか話を盛り上げようと必死でした。そこでついリアクションに頼ってしまったのです。もちろん取材後は頭を抱えました。

それ以来は「聞きどころ」である本音や本質に近い内容に対してだけ良いリアクションをして、それ以外のところではぐっと我慢するようにしています。そのおかげか、今では自分の求めている方向に相手の話が展開しやすくなりました。

「聞き出す力」でAI時代を生き抜こう

問題を解決したり、発見するためには、人の頭の片隅や胸の奥底に隠れている情報を聞き出す力が必要不可欠です。AI技術の発展が著しい現代においても、このスキルをAIが代替できるようになるまでにはまだまだ時間がかかるはずです。

AIが人間の仕事を奪っていくであろう将来に備えて、今のうちから聞き出す力を養っておきましょう。

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[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部