部下が生き生き働く仕事の任せ方とは?ポイントは「自己効力感」の醸成にあり

仕事の任せ方で、部下のパフォーマンスを下げていないか?

マネージャーやチームリーダーは、日々「どうすれば部下が積極的に、生き生きと働いてくれるのか」と頭を悩ませているはずです。しかしその結果、事あるごとに指示を出すなど管理主義に走ってはいないでしょうか。

確かに「部下がちゃんと仕事を進めているか」が気になるのはわかりますが、そんな仕事の任せ方では、部下のパフォーマンスは下がる一方です。部下に本来の能力を発揮させてもらうためには、正しく仕事を任せてやらなければなりません。

今回は「自分でコントロールできている」という感覚=自己効力感が、人のパフォーマンスを高めるという事実を紹介するとともに、部下が生き生き働く仕事の任せ方について3つのポイントを解説します。

なお、「自己肯定感」はよく話題にのぼりますが、自己効力感との違いは、自己効力感では、課題に直面したとき「自分がその行動をとれるのかどうか」という能力に対する自己評価のことをいいます。自己肯定感は「ありのままの自分を認め受け入れる感情」のことで、自分の存在そのものに対する評価のことをいいます。

よく似た言葉ですが、内容はまったく違うので注意しましょう。

1.「自分でコントロールできている」が、人のパフォーマンスを高める

私たちは「自分でコントロールできている」という感覚=自己効力感が高まると、つい嬉しくなるものです。

スーパーで買ってきたお惣菜よりも、同じものを自分で作った方が美味しい気がしますし、たとえ同期が育てた部下の方が優秀でも、自分が育てた部下の方が可愛く感じます。

人はポジティブな気分になると楽観的になり、これまでなら逃げ出していたような困難やチャレンジングな仕事にも立ち向かえるようになります。結果、これまで以上のパフォーマンスを発揮したり、成長できたりするのです。

逆に、「自分でコントロールできない」という自己効力感の低い状態になると、人はパフォーマンスを下げてしまいます。

たとえば、2020年2月ごろから日本中の関心を集めている新型コロナウイルス。「いつどこで感染するかわからない」「感染した場合に、どうすれば治るかわからない」といった状況は、多くの人の自己効力感を低下させています。

生物は「自分でコントロールできない」という状況に、恐怖を感じるものです。恐怖は脳を臨戦態勢にしてしまうので、冷静な思考力・判断力は鈍ってしまいます。

サージカルマスクの販売に殺到する人たちや、些細なことで激怒する人たちを見ていれば、彼らの脳のパフォーマンスが著しく低下していることは一目瞭然です。

加えて恐怖は、人を保守的にさせます。「これから先どうなるかわからないから、とりあえず今は様子見をしておこう」と考えるわけです。

お金の流れが止まれば経済が悪化するのはわかりきっています。にもかかわらず、新型コロナウイルス関連のニュースに恐怖を感じて、「今はあまりお金を使わないでおこう」と買い控えをするのも、同じ心理です。

これは上司が部下に仕事を任せるときでも同じです。「上司がすぐに仕事に口を出してきて、自分の思うように仕事が進められない」などの状況は、部下の自己効力感を低下させ、潜在的に不安・恐怖を感じさせます。

結果、思考力や判断力が鈍り、本来の能力を発揮できなくなるだけでなく、「無難に言われた通りやっていればいいや」と主体性のない働き方になってしまうのです。

2.部下が生き生き働く仕事の任せ方

部下に、積極的に生き生きと仕事をしてもらうためには、部下の自己効力感を高める仕事の任せ方をする必要があります。そのためのポイントは以下の3つです。

・指示や警告をするのではなく、明るい未来を提示する。
・適切なリスクと責任を負ってもらう。
・定期的に自己効力感を高めてやる。

以下ではそれぞれについて、詳しくみていきましょう。

1.「〜すると〜できるようになるぞ。やってみないか?」

ああしろ、こうしろと指示を出すと、部下の「自分でコントロールできている」という感覚が薄らいでしまいます。

また「そんなことをしていたら○○になるぞ」といったような警告も、自己効力感が低下した時と同種の恐怖を感じるため、パフォーマンスの低下につながります。

部下のパフォーマンスを高めるには、こうした指示や警告をするのではなく、「〜すると〜できるようになるぞ。やってみないか?」といった形で明るい未来を提示したうえで仕事を任せる必要があります。

こうすることで仕事を任せられた部下はポジティブな気持ちで仕事に取り掛かるため、積極性や挑戦心が高まり、より良い結果を出せるのです。

2.「○○に関しては、お前が責任を持ってやってくれ」

自分が手間暇かけて完成させたものに対し、人は特別な愛着を感じるとともに、その価値を高く評価する。こうした心理は、組み立て式家具で世界的な人気を博した家具量販店「IKEA」の名前をとって「イケア効果」と呼ばれます。

IKEAの家具はパーツが全て用意されていて、説明書に示された指示通りに組み立てていくだけで完成します。

「自分が手間暇かけて完成させたものと呼ぶには、そこまで手間暇をかけていないのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、たったこれだけのことでも、人は「自分の手で作った」と感じるものなのです。

こうした人間の性質についての理解は、部下に仕事を任せる際にも役立ちます。つまり部下に任せる仕事のうち、一部でも構わないので、すべての責任を部下に負ってもらう部分を作るのです。

その仕事に関しては、上司である自分のチェックもなし。もちろんあとからフィードバックはしますが、部下が提出してきたものをそのまま採用します。

すると部下は仕事に対してイケア効果を感じ、任された仕事に対してコミットするようになります。

3.「進捗はどうだ?お前に任せてるからな。期待してるぞ」

部下の自己効力感を高めようとするときに、一つ重要な点があります。それは、実際に自分がコントロールできているという「事実」ではなく、自分がコントロールできているという「感覚」の方が、自己効力感を高める効果があるということです。つまり、人は客観的事実よりも感覚を優先するのです。

そのため、「この仕事はお前に任せたぞ」と伝えてあっても(事実)、わからないことや困難にぶつかっていくうちに「この仕事は自分には荷が重いのではないか(コントロールしきれないのではないか)」という不安が生じると(感覚)、自己効力感も下がってきてしまいます。

こうした事態を防ぐ方法の一つが、定期的な1on1ミーティングや飲みニケーションを通じた「進捗はどうだ?お前に任せてるからな。期待してるぞ」声かけです。

仕事を任せられているという事実を思い出させることで、自己効力感をメンテナンスしてやるのです。

マネージャーやチームリーダーの仕事は部下のマネジメント。managementという英語には「うまい処置」「操縦術」「統御力」「駆け引き」といった意味もあります。マネジメントを通じて部下の自己効力感を高めるのも、上司の立派な仕事と言えるでしょう。

上司たるもの、自分のコントロール欲は我慢すべし

実は自己効力感を持ちたいのは部下だけではありません。上司だって人間ですから、自分が部下やチームをコントロールしている感覚を味わいたいという欲求があります。ついつい指示や忠告をしたくなるのはそのためです。

しかしマネージャーやチームリーダーとしての仕事は、メンバーのパフォーマンスを最大化して、よりよい結果を生み出すことのはず。自己効力感を満たすためではありません。

こう考えると上司たるもの、自分のコントロール欲をぐっと我慢して、部下の自己効力感を高める仕事の任せ方を実践するべきではないでしょうか。ぜひとも今日から意識してみてください。

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[文/編集]サムライト編集部