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生産性を上げたいなら「頭」を使え
「生産性向上」が国を挙げて叫ばれていますが、ただがむしゃらに生産性を上げようとしてもなかなか成果は期待できません。なぜなら生産性を上げるには「頭=脳」のパフォーマンスをフルに引き出す必要があるからです。
精神科医であり作家でもある樺沢紫苑さんは、自分の脳のパフォーマンスをフル活用して生産性を最大化しているビジネスパーソンの一人。周りからは「いつ寝ているのか?」といぶかられるような仕事量をこなしながらも、年に30日以上の海外旅行をはじめとする自由時間も満喫しています。
樺沢さんは著書『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』の中で、このような生活を実現する方法の一つが、自身が実践している時間術だと書いています。以下ではこの中から脳の集中力スイッチをオンにする「脳スイッチ術」とも言うべきメソッドを紹介します。
脳の「集中力タイム」を使いこなそう

●15・45・90の法則
まず紹介するのが樺沢さんが「15・45・90の法則」と呼ぶものです。これらの数字はそれぞれ15分、45分、90分のことです。仕事をしているとつい集中できていないのにダラダラと作業を続行しがち。しかし私たちの頭が一度に集中できる時間には限界があります。
しっかり集中できていればあっという間に終わる仕事も、集中できていなければ倍以上かかるという場合も少なくありません。では私たちが集中できる時間とはどれくらいなのか。樺沢さんは、それこそが15分、45分、90分だといいます。
思えばテレビのCMの間隔はおおよそ15分ですし、樺沢さん曰くダライ・ラマ14世の同時通訳も務めた通訳者の方は「同時通訳というのは、非常に高い集中力を要するので、せいぜい10分。どんなに頑張っても、15人が限界です」(前掲書p68)と語ったのだそうです。
これらのことから人間にとって「15分」という時間は、集中力を要する頭脳労働の一つの単位ということができます。一方、45分は小学校の授業時間と同じ時間です。
中高になっても授業時間は50分止まり。樺沢さんはこのことから15分の次の集中時間の単位は45分だと考えます。それでは90分はどうなのかといえば、サッカーの試合や大学の講義時間が90分です。
ただし45分にせよ、90分にせよ、この時間を丸ごと集中できるわけではありません。45分=15分×3ブロック、90分=45分×2ブロックと考えると集中力のリズムが生まれ、より高い集中力が発揮できるようになります。また時間ごとに適した作業があることにも留意が必要です。
「仕事」といっても、その作業内容によって、ライトな作業かハードな作業かによって集中力の持続時間は変わります。 引用:前掲書p74
15分、45分、90分を目安の時間として、自分がどのような作業に対してどれだけ集中のスイッチをオンにし続けられるのかをリサーチすれば、より効率的な仕事ができるようになるでしょう。
●「15・45・90の法則」の実践方法
この法則を実践するための方法として、ストップウォッチを使った時間管理があります。最初は15分に設定してみて「まだ集中力が続いている」と自覚できるようならさらに15分追加していきます。「もう集中できない」となったところで時間を見れば、自分がどのような作業に対してどれだけ集中できるかがわかります。
実はストップウォッチを使って仕事を進めるやり方は、茂木健一郎さんや齋藤孝さん、そして樺沢さんが実践している仕事術でもあります。この場合のストップウォッチは自分の集中持続時間を測定するためのものではなく、制限時間を設けるためのものです。
制限時間を設けると多くの人が作業開始直後と制限時間終了間際で集中力が高まることが、「クレペリン検査」と呼ばれる性格検査・職業適性検査で明らかになっています。
ストップウォッチを使って仕事の期限を見える化すると、制限時間を設けないときに比べて制限時間終了間際分だけ集中時間が増えるのです。ストップウォッチを使って時間を管理するだけで集中力が増すのですから、導入しない手はありません。
●「15・45・90の法則」の実践の問題点
しかし樺沢さんのように個人で仕事をしている人は別として、会社で仕事をしていると電話の取り次ぎ、メールの着信、上司から振られる無駄話など、集中を邪魔するものがたくさんあります。したがって「15・45・90の法則」を実践するには、自分の仕事環境の整備も必要不可欠となります。
「この時間は一切電話・メールを受けない」「上司からの無駄話はスルーする」といった解決策を実行に移せればそれに越したことはありません。しかし誰しもが実行できる立場や上司との関係にあるわけではないでしょう。
すると「どのタイミングで『15・45・90の法則』に則った仕事を入れるか?」が重要な視点になります。例えば「明日は部長が外出だから電話とメールさえ入らなければ集中時間を作れるな」とか「今日は昼休みをずらして、得意先が昼休みの間に45分の集中時間を作ろう」といった具合です。
最初から「まとまった集中時間を作るなんて無理」と諦めていては生産性は向上しません。どうすればその時間を捻出できるかを答えが出るまでしつこく考えるようにしましょう。
集中力を取り戻せ!実践的リフレッシュ術

●午後に入ると集中力は低下する
株式会社ジンズはメガネ型ライフログツール「JINS MEME(ジンズミーム)」を利用して、5,000人の利用者の集中力のデータを分析しました。すると1日で最も集中力の高い時間帯は平均して午前6時〜7時となっており、それ以降の集中力は時間を追って低下していることがわかったのです。
この結果を見るに、本来集中力を要する仕事は午前中に終わらせるべきなのですが、忙しいビジネスパーソンならそうも言っていられません。
そこで樺沢さんは4つの実践的なリフレッシュ術を提案しています。以下の方法を取り入れれば、オフになりかている集中力のスイッチをもう一度オンにすることができます。
●スクワットで血を全身に巡らせる

脳を活性化させる最も簡単で即効性のある方法を1つ挙げろと言われたら、私は間違いなく「運動」と答えます。 引用:前掲書p152
たった10分の運動がドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンといった脳内ホルモンの分泌量を高め、その後の脳のパフォーマンスを上げることがわかっています。ただ10分間も運動に費やしていたら上司から叱責されかねません。
そこで樺沢さんは1分だけでも効果が得られる運動として「階段を(ダッシュで)上る」と「スクワット」を挙げています。このうちスクワットはキング・オブ・エクササイズと呼ばれるほど運動効果の高いエクササイズとされています。
「頭がぼーっとしてきたな」と思ったら立ち上がってその場でスクワットをすれば、驚くほど思考がすっきりするのを実感できるはずです。
なお、正しいスクワットのやり方は「スクワットアドバイザーが語る!現代人にとっての「最強のスクワット」とは?」を参照してください。
●仕事場所を変えて「場所ニューロン」を刺激する
記憶に深く関係しているとされる脳の部位「海馬」には、「場所ニューロン」と呼ばれる細胞があります。これは自分がどこにいるのかを記憶するための細胞で、歩く・移動する・場所を変えるという行動に対して活性化します。
この場所ニューロンが刺激されると、それに伴って海馬が活性化します。すると一度低下していた脳のパフォーマンスを、再び取り戻すことができるのです。
会社勤めの人がこのリフレッシュ術を実践する場合は、「会議室を借りて仕事をする(居場所は他の社員に伝えておく)」「集中力が低下する時間帯に外出や会議の予定を入れておく」といった方法が考えられます。
自社の雰囲気やルールに沿って、どんな形で場所が変えられるかを考えてみましょう。
●「非集中仕事」でリフレッシュする
同じ仕事を延々と続けているとどうしても集中力は低下してきます。だからといって高い集中力が求められる仕事ばかりを立て続けにやれば脳も疲れてしまい、結局集中力が低下します。
そこで「非集中仕事」の出番です。これはその名の通り高い集中力を必要としない仕事のことです。具体的には資料の整理や発送業務、メールチェック・返信、部下の仕事の進捗確認など。これらの仕事をリフレッシュがてらにこなせば、後でわざわざ処理する時間も必要なくなり、一石二鳥です。
「でもそんな仕事、その場その場では見つからない」という人は、スマホやパソコンに「非集中仕事リスト」を作っておき、リフレッシュが必要なときに1つずつ処理していくようにしても良いでしょう。
●「正しい休憩」で集中力を回復させる
午後の仕事は、疲れやすく集中力も途切れやすいものです。それを防ぐためには、疲れる前に休むということです。引用:前掲書p157
疲れ切ってしまっては集中力も回復しきってくれません。完全に疲れる前の休憩は、そのような集中力の枯渇を防ぎ、持続性を高めることができます。
しかしいくら疲れる前に休憩をとっても、その休憩が間違っていては集中力は回復しません。すなわちスマホでSNSやゲームをしたり、パソコンでYouTube動画を観たりするような休憩です。
人間の脳は視覚情報の処理に90%のキャパシティを使っていると考えられています。ということは視覚を使った休憩をしている限り、脳は一向に休まらないのです。仕事の合間の休憩をするときはできるだけ視覚情報をシャットダウンするようにしましょう。
「生産性を上げたあと」はどうしたいのか?
集中力の持続時間を増やして生産性を上げたあと、その生まれた時間をみなさんはどのように使うでしょうか。さらに仕事につぎ込んでも構いませんし、セミナーやサロンなどの自己投資に使っても良いでしょう。
あるいは自分の趣味に打ち込む時間や家族との時間に使ってもOKです。ここで大切なのは具体的に何をするかではなく、「自分が人生を楽しむために使うこと」です。
仕事にせよ、自己投資によ、プライベートにせよ、本来自分の人生を充実させるもののはず。そのことに気づけないくらい忙しくしているようでは、せっかく生産性を上げて生まれた時間も浮ばれません。生産性を上げようと決心したらまず、「生産性を上げてどうしたいのか?」を自分に問いかけるようにしましょう。
参考文献『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』

