交渉で幸せになる
交渉、ビジネスにおいて避けられないものであり、かつ最も難しい局面の一つ。それをうまく乗り越えられたらどんなにいいだろう。そう思ったことはありませんか?いわゆる「できる人」たちはこの交渉を難なくこなしているように見えます。彼らはどうやって「交渉」の難所を越えているのでしょうか。
ここでは、伝説の起業家からキャリア官僚まで様々な職業の人たちが実践する、必勝の「交渉哲学」ともいうべきものを5つご紹介します。これを読めば、人生のいろいろな局面でトクをすること請け合いです。
FBIの交渉哲学

連邦捜査局、FBIはアメリカの司法省が管轄する警察機関。世界を相手に丁々発止のやり取りを繰り返す彼らの交渉哲学の一つがこちらです。
対決事項は交渉の最後にまわす
確かに対決事項はいわゆる「本題」です。ですから最初にもっていきたい気持ちもあるかもしれません。しかし交渉相手の気持ちになってみてください。
散々色々な細かい事項について確認をとり(時間)、お互いに合意に至っている事項について新しいアイディアを出し合い(労力)、そろそろ終わらないかな、疲れてきたな、というところで対決事項に入られたら?きっと相手はこう考えるでしょう。
ここで決裂したらこれまでの時間や労力が全部パーだ。この時点で相手にはすでに「弱み」ができているのです。こちらからすれば、最初からそのつもりですから痛くもかゆくもありません。今すぐ資料を確認して対決事項を洗い出し、交渉の順番を練り直しましょう。
キャリア官僚の交渉哲学

実に多種多様な利害関係者の落とし所を見つけ、公共事業を成功させるキャリア官僚たち。彼らの交渉哲学は実にそんな仕事にぴったりなものです。
相手によって説得の方法を変える
大雑把な性格の人、神経質な性格の人、町工場の社長、土地持ちの保守層……それぞれが異なった事情と利害を持つ中で、いわゆる「お役所仕事」のような紋切り型の交渉では話はまとまりません。大雑把なタイプには細かい資料の説明は飛ばして、わかりやすく手早く説明するのがいいでしょう。
神経質な人にはその逆で、これでもかというほど理論武装をして交渉に挑むのが正解です。町工場の社長は、これまで行政の締め付けで公共事業に不信感をもっているかもしれません。まずはそれをぬぐうことから始める必要があります。既得権益を守りたい層には、彼らの利益が守られるor代替のメリットがあることを説明しましょう。
重要な交渉の場では相手の性格や立場、家族構成などできる限りの情報を集めて、どういった方法が最善なのか、戦略を練る必要があります。「いつもの自分」では失敗の確率が高いということを肝に銘じましょう。
デール・カーネギーの交渉哲学

デール・カーネギーはアメリカの人間関係研究の先駆者です。彼が著した『人を動かす』という本には、こんなことが書かれています。
およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない。
テクニカルな哲学とは違い、より根底の部分に言及した哲学と言えるでしょう。つまり、交渉ごとの大前提として「論理的に正しいから」「数字が物語っているから」といった論理的なものを想定してはいけないというわけです。相手の偏見や自尊心、虚栄心などの「感情」を計算の外にして、交渉はうまくいかないと、カーネギーは言います。
いくら自社の数値的な利益になるからといって、だらしのない格好で交渉に来る相手を信用できないはずです。これは論理的にはメリットがあっても、偏見や感情の部分が交渉を決裂させている例です。
スチュアート・ダイアモンドの交渉哲学

そこでつぎに紹介しておきたいのがペンシルベニア大学ウォートン・ビジネススクールの講義を担当するスチュアート・ダイアモンド氏の交渉哲学です。
相手の頭の中にある絵を読み取る
その日相手の頭の中にある絵を理解するまでは、交渉内容など考える価値すらありません。交渉は中身がすべてだとほとんどの人が思っていますが、それは違います。
人が合意に至る理由のうち、内容と関係のあるものは10%にも満たないことが、研究からわかっています。50%以上が人と関係のある理由です。お互いを気に入っているか、信頼し合っているか、お互いの言い分に耳を傾けているか。そして3分の1強が、交渉で用いられるプロセスと関係しています。
お互いのニーズを知ろうとしているか、話し合うべき課題について意思統一が図られているか、お互いに真摯な姿勢で取り組んでいるか。もし議論をしていて相手とうまくいってないと感じたら、中断して、まずは人として話をして、そこで関係を修復することからやり直しましょう。
日本マクドナルド創業者 藤田 田の交渉哲学

いまマクドナルドは苦戦していますが、ゼロから日本でここまで広めたのがこの日本マクドナルド創業者の藤田 田さんです。
ソフトバンクの孫さんが16歳の時、藤田さんの著書を読み、感動して毎日電話をかけて15分だけ会えることになった際、「これからはコンピューターの時代だ」とアドバイスを受けたエピソードは伝説になっています。
人間が相手なら解決できないトラブルはない
死んでしまえば人間は裸。いくら財産を貯めても墓場まではもっていけません。だから失敗しても後悔しない。そういう覚悟でやらなければ事業はうまくいかないと藤田さんはいいます。
そして人間には解決できないトラブルはないと。トラブルは人間がひきおこすもの、相手が人間ならばどんなことでも解決できる。誠心誠意、こちらの事情を述べて、努力すればかならず解決できる。
よく解決できずに悲観して命を投げ出してしまう人がいるが、それはまだ解決するための努力に欠けるところがある、人事をつくしていないと藤田さんはいいます。
交渉の半分は人
ぱっと使えるテクニカルな思考から、交渉の根底に関わる思考まで、いろいろな交渉術があります。どれも先人の経験から生まれた本質的な考え方です。
すべてに共通して言えるのは、人間とはどう生き物なのかに深く関わっていることです。人を見ずして交渉は成立しません。ぜひこの点を覚えておき、実務に役立ててください。
[文・編集] サムライト編集部