みうらじゅんの『ない仕事の作り方』に学ぶブームを起こす方法

「マイブーム」「ゆるキャラ」のみうらじゅんの仕事術

マイブームとは「ここ最近、個人的にハマっているもの」という意味の言葉ですが、実はこの言葉はみうらじゅんさんが考え出した造語なのです。昨今全国各地で話題となっている「ゆるキャラ」もみうらさんが始めに言い出した言葉ということをご存知でしょうか。

サングラスに長髪という得体の知れない風貌のみうらさんですが、実は業界を問わず様々な「(個人的ではない)ブーム」を作り出している人物なのです。ここではそんなみうらさんの著書『「ない仕事」の作り方』を参考に、その仕事術の本質に迫ります。

みうらじゅんに学ぶ「逆行の発想」

みうらさんは世の中が「面白くない」「マイナス要素だ」と考えるものを「そこがあえて面白い!」「そこがいいんじゃない!」と面白がり、マイブームにしてしまいます。

ある時山道のバス停で1日に1本や3本しか数字の書かれていない時刻表を見て「地獄表」と名付け、それ以来各地の「地獄表」を写真に収めるようになる。

吉本新喜劇の存続が危うくなった時には知り合いが1人もいない吉本興業に吉本のギャグを集めたビデオ『吉本新喜劇ギャグ100連発』の企画を持ち込むなど、世の中の主流から外れるというよりはいっそ「逆行」してしまうのがみうらさんの仕事のタネの見つけ方なのです。

このように逆行するとき、みうらさんは「儲かるかどうか」「うまくいくかどうか」は全く考えないのだとか。あくまで「個人的に」面白いと思うかどうかが重要なのです。これは現在各地で一大ブームを巻き起こしている「ゆるキャラ」でも同じでした。

「ゆるキャラ」はいかにして誕生したか

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「ゆるキャラ」はこの言葉が世に出るずっと前から全国各地に存在していました。みうらさんが著書で取り上げている「ブンカッキー」もその1つ。ブンカッキーは「けんみん文化祭ひろしま」のマスコットキャラクターです。

体の白い部分は広島特産の牡蠣を、右手に持った指揮棒は採点の指揮者を表し、体の青い部分は広島の頭文字「ひ」をかたどり、頭には県木のもみじ。正直言って「ダサい」「垢抜けない」このキャラクターを見たとき、みうらさんの「逆行の感性」が刺激されたのです。

このいびつなほどモチーフやイメージを詰め込んだキャラクターの「ダサさ」の根底にあるものが「郷土愛」なのではないかと見抜いたみうらさんは、全国各地にいたブンカッキーのようなマスコットを「ゆるキャラ」と名付け、各方面に売り込んでいくことになります。

ゆるキャラが「大ブーム」になるまで

まずみうらさんは自分が「面白い!」と感じたゆるキャラの情報を徹底的に収集していきます。物産展に足を運び、一眼レフとビデオカメラ両方で記録する。自治体などにグッズを譲ってもらったり、パンフレットを読み込む。

興味がなくても地方のイベントに出かけ、ただひたすらゆるキャラの登場を待つ。こうした地道な収集をすることでまずは自分自身を対象(この場合はゆるキャラ)の一番のファンにしていくのです。

そこまでできれば次にするのは「発信」。みうらさんは雑誌やテレビ局にゆるキャラを売り込んだり、ゆるキャラのイベントを仕掛けたり(「第一回みうらじゅんのゆるキャラショー」など)して、世の中が「ひょっとしてゆるキャラって流行ってるんじゃないの?」と錯覚するまで発信し続けました。

するとあちこちで「勝手に独自の意見を言い出す人(=インフルエンサー)」が増え始めたのだとか。こうしてみうらさんの与り知らないところで「ゆるキャラ」が拡散されていくことで、みうらさん個人のマイブームでしかなかったゆるキャラが、日本全国を巻き込む「大ブーム」になっていったのです。

「ない仕事」を作り出すための3つの「続ける」

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photo by flickr
1.集め続ける。
2.好きでい続ける。
3.言い続ける。

みうらさんの「ない仕事」の作り方は、この3つの「続ける」で表現することができます。1はゆるキャラのところでも見たように、面白いと思ったモノやコトを圧倒的な「数」「量」になるまで集め続けるということです。

「面白い!」と思った当初は誰しもがその興奮を保っていられますが、それは時間とともに冷めてしまいます。しかしそれでは到底「ない仕事」を作り出せません。そこでみうらさんは「好きだから買うのではなく、買って圧倒的な量が集まってきたらから好きになる」という戦略で、自分が対象を好きでい続けられるよう仕向けるのです。

この「好きでい続ける」ことも「ない仕事」を作り出す上で重要な要素となります。みうらさんの場合、ボブ・ディラン好きが高じて漫画『アイデン&ティティー』を描き、それがきっかけでボブ・ディランのベスト盤の企画に携わったりもしています。

3つ目の「言い続ける」は、自分が面白いと思っていることを発信し続けること。これによって世の中が錯覚を起こし、徐々に浸透していくことでマイブームが大ブームに変わるのは、ゆるキャラのところでも見ました。

「個人がメディア化する時代」を利用するべし

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ネタを考える。名前をつける。デザインや見せ方を考える。メディアを通じて発表する。これらを全て1人でやることをみうらさんは「一人電通」と呼んでいます。一見大変そうに見えるこの手法ですが、実は今や誰にでもできるやり方になりつつあります。

「一人電通」で最も難しいのは「メディアを通じて発表する」です。その他の部分はやる気にさえなれば1人でも十分できます。しかし雑誌やテレビしかメディアがない時代では、業界人の眼鏡にかなわなければ日の目を見ることはありません。

ところがYouTubeやFacebookをはじめとするSNSが発達した今の時代なら、簡単な機材さえあれば世の中に自分の面白いと思ったものを発表することは誰にでもできることなのです。

うまくPRすればあっという間に拡散し、みうらさんが「マイブーム」や「ゆるキャラ」を大ブームにした時間よりも圧倒的に短い時間で、「勝手に独自の意見を言い出す人(=インフルエンサー)」を増やすことができるでしょう。

今は「個人がメディア化する時代」です。これを利用すれば従来よりも簡単に「ない仕事」を作ることができるのです。

もっと面白がれば世界は広がる

世の中に溢れている「すでにある仕事」に夢中になっていては「ない仕事」を作り出すことはできません。自分の感性に磨きをかけ、世の中が見落としている「面白いもの」を見つけ出す。

そしてそれを徹底的に面白がって突き詰めていく。そうすることでどこからか「ない仕事」が立ち上がってくるのです。

これは一朝一夕にできるワザではありません。しかし私たちが世の中のいろいろなものをもっと面白がれば、自然と世界は広がり、知らぬ間にそれが「ない仕事」になっていくのです。

「ない仕事を作ろう!」ではなく、まずは「面白がる」。これこそがみうらじゅんさんの仕事術の真髄なのです。

参考図書『「ない仕事」の作り方』
Career Supli
『「ない仕事」の作り方』は、面白くてブームの本質について学べる素晴らしい本です。超おススメします!
[文・編集] サムライト編集部