Contents
レゴが組織を変える?
世界最大の玩具メーカー・レゴ社の主要商品であるブロック玩具「レゴ」。誰もが一度は遊んだことがあるほどの超有名玩具です。
本来は子供用の玩具として誕生したこのレゴですが、2001年、レゴを使った組織の課題解決につなげるためのメソッド「レゴシリアスプレイ」が開発されました。そして「レゴシリアスプレイ」は、NASAやMicrosoft、Googleなどの海外企業だけでなく、博報堂やJTBなど国内大手企業でも導入されてきました。
なぜレゴで、どうやって課題を解決し、組織を変えることができるのでしょうか?ここではレゴシリアスプレイの開発者ロバート・ラスムセン氏の『レゴシリアスプレイで組織はよみがえる 戦略を形にする思考術』を参考に、このメソッドを解説します。
レゴシリアスプレイは無意識下の思考を浮き彫りにする
レゴシリアスプレイはMIT(マサチューセッツ工科大学)やシカゴ大学で研究されていた教育および心理学の理論をもとに構築されたメソッドです。用意するものは基本的に50cm四方、もしくは70cm四方の平らな無地のスペースと、専用のレゴブロックセットだけ。
これをトピックに合わせて各人が組み立て、完成した作品についてのディスカッションを通じて自分では意識していない自分の思考を浮き彫りにしていきます。
レゴシリアスプレイの基本は2つ。1つ目は「組み立てる」です。レゴで遊んだことのある人はわかるかと思いますが、レゴには各ブロックに凹凸があり、これを組み合わせて自由に形を作ることができます。
独創的な作品を作るのならともかく、レゴシリアスプレイをする上では特殊な組み立てスキルは必要なく、ひとまずどうすればレゴを組み立てられるかを理解しているだけで構いません。
組み立てる時のポイントは「あまり難しく考えすぎないこと」です。リラックスして、自分の手が動くままに組み立てるとより自分の深い無意識にアクセスできます。
2つ目の基本は「意味を与える」です。例えば「自分が最も恐れていること」というトピックでレゴを組み立てたとします。意味を与えるというのは、この時に組み立てたレゴのブロックの種類、配置や距離感などがどのような意味を持っているのかを語ることです。
そして組み立てた作品、作者が語った意味に対して参加者同士でディスカッションを行い、お互いがどんなことを考え、感じているのかを浮き彫りにしていきます。
拡大するレゴシリアスプレイの可能性
このようにレゴシリアスプレイはかなり単純で、自由度の高いメソッドです。そのため全く知識のない人がいきなり実践してみても、無意識下の思考にアクセスすることはできません。
このメソッドはレゴ社認定のレゴシリアスプレイ専門ファシリテーターと主催者側との綿密な打ち合わせに基づいて行われてこそ、真価を発揮します。
レゴシリアスプレイの提供は現在レゴ社が認定しているコミュニティによって行われています。このコミュニティは全世界に3つあり、そのうち最も有名なコミュニティがロバート・ラスムセン氏を中心とするマスタートレーナー協会です。
日本では2008年に設立された株式会社ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツが、メソッドの提供にあたっています(顧問がラスムセン氏)。同社の事業内容はレゴシリアスプレイを通じて、次のような目的を達成するためのワークショップの企画や設計、運営です。
・新製品や新サービス開発のためのアイデアの共創
・社員のキャリア開発およびリーダーシップ開発
・社員のLSPファシリテータ養成
・企業の未来・ビジョン創りおよび事業部のミッション創り
・事業の戦略策定とアクション割り
p153より抜粋
以下では株式会社ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツのクライアント企業のうち、2社の事例を紹介します。
レゴシリアスプレイの実践例:博報堂の場合
博報堂がレゴシリアスプレイを導入したのは、ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツ設立当初の2008年。博報堂はこのメソッドを自社のクライアントのブランド構築ツールとして、ブランド独自の強みやチームビルディングに活用しました。
この成果を受けて、最終的には博報堂の企業内大学「博報堂大学」の研修プログラムの共同開発をロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツに依頼するなど積極的にレゴシリアスプレイを取り入れています。この研修プログラムは現在博報堂が提供する「30代社員向け自律型キャリア開発プログラム」の原型でもあります。
博報堂の導入例からわかるのは、レゴシリアスプレイが自分の無意識下にある「本当にやりたいこと」「なりたい自分」あるいはそれらとの間に感じているギャップなどを深く掘り下げ、未来を見据えるためのツールとして効果を発揮できるということです。
レゴシリアスプレイの実践例:西武技研の場合
産業用空調器・除湿機などを主幹事業とする西武技研は社員数約200名の中堅企業。米国や北欧、中国にも工場を置くグローバル企業です。同社の社長・隈扶三郎氏は最先端のビジネスツールを取り入れる柔軟性のある経営者で、2012年にレゴシリアスプレイのワークショップをロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツに依頼しました。
ワークショップの目的は「九州から東京に新しく赴任した営業本部長とチームメンバーの意思疎通」。自分のことを上役の前であまり話したがらない人や、発言力の強い人に引っ張られる人などの意見も引き出し、チームの方向性を一致させるのが狙いです。
ワークショップは見事成功。互いの意思疎通ができたことでチームのパフォーマンスもアップしました。同社はその後もレゴシリアスプレイを積極的に取り入れ、「5カ年計画」の策定や女性社員・シニア社員の活性化などのテーマでワークショップを行っています。
西武技研の導入例からわかるのは、レゴシリアスプレイを通じてお互いの思考を理解することで、チームの団結力を高められるということです。
空気を読んでしまう人や、能力はあるのにそれを言葉にできない人の中にも、組織のパフォーマンスを向上させる何かが眠っている可能性は十分あります。レゴシリアスプレイはそれを引き出すことができるのです。
レゴはもう単なる子供のおもちゃではない
レゴシリアスプレイは私たちの無意識に埋もれている思考や感情を浮き彫りにし、言語化するためのメソッドです。これを使えば今抱えている組織や自分の問題に、解決策が見出せるかもしれません。
「実際に体験してみたい」という人は企業にロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツの話をするか、同社が実施している有料セミナーに参加してみましょう。決して安くはない受講料ですが、きっと新たなスキルが身につくはずです。
参考文献
『レゴシリアスプレイで組織はよみがえる 戦略を形にする思考術』
