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世界最大の玩具メーカーとなった「レゴ社」
2014年上半期にバービー人形などで知られる米国マテル社を追い抜き、売り上げ・利益ともに世界最大の玩具メーカーとなった「レゴ社」。テレビゲームなどの台頭によって身売りの噂まで流れた同社が、現在の業績にまで回復し、世界中の子供はもちろん大人にまで愛されるようになったのはどうしてなのでしょうか。ここではその理由をレゴ社の6つの手法にあると考え、「愛されるブランド」作りの秘訣に迫ります。
top画像出典:Wikipedia
1. 機能で売るな、ストーリーで売れ

レゴとはご存知の通り、単なるブロックです。もしレゴ社がこのブロックの機能に特化して開発していればすぐに頭打ちになっていたでしょう。「踏んでも痛くないようなレゴを作ろう」なんてコンセプトで作っていても、すぐに他の競合との安売り合戦になってしまうからです。
レゴ社は製品の機能ではなく、「ストーリー」に着目して商品開発を行います。例えば「プレイテーマ」シリーズと呼ばれる商品群では「シティ レゴの町シリーズ」「ニンジャゴー」といった1つ1つの商品に物語性が感じられるパッケージングを行っています。2014年に公開され同社の売り上げ増の要因にもなった「レゴムービー」も、「レゴにストーリーを持たせる」という意味では同じ効果を狙っていると考えられます。
これはマーケティングの手法の1つである「ストーリーマーケティング」の一種と言えますが、レゴの作り出したストーリーが単なるマーケティングに終わらないのは、「その先」を見据えているからです。
2. 作るのはモノではない、システム(基盤)を作れ

2014年に出版された『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』という本の中に書かれている「イノベーションの真理」のうちの1つが「製品ではなく、システムを作る」です。この「システム」こそが前述した「その先」を意味します。
例えばいくらストーリーがあってもJ・R・R・トールキンの『指輪物語』は全10巻で終幕を迎えます。しかしレゴは違う。前述のプレイテーマシリーズでも「シティ」の「レゴの町」と「消防」「レスキュー」はそれぞれのストーリーを持ちながら、互いにストーリーを交差させていきます。
また初期のレゴと最新のレゴの間には互換性があるため、新しいシリーズがリリースされるほど、レゴは無限にストーリーを増殖させていくのです。
この手法が子供達の想像力を刺激し、レゴ社が必要以上に介入しなくとも次々と子供達が新しいレゴの可能性を見つけていってくれるというわけです。完結しないストーリー。それがレゴの見据える「その先」なのです。
3. 創造力のために「制限」をかけろ

現CEOのヨアン・ヴィー・クヌッドストープ氏がレゴ社の低迷期である2004年にトップに就任した際に行った改革の1つが、開発デザイナーへの厳しい制限でした。それまでは自由度を高めることで創造性を確保しようと、レゴのパーツの形や色、数はデザイナーに一任していたのです。
クヌッドストープ氏はこのやり方を改め、1つの製品で使えるパーツの数に制限を課します。デザイナーからは「自由度が制限されれば、製品の創造性も損なわれる」と反論しましたが、同氏は「制約があるからこそ革新が生まれるのだ」と言下に断ったのでした。
これはレゴの製品そのものにも通じる精神です。1つの製品には限られたパーツしか入れられていません。しかし子供達はその中で創意工夫し、大人では想像もつかないようなオブジェを作り上げます。限られた状況の中で知恵と創造力を振り絞るからこそ、真のブレークスルーが見つかるのです。
4. 製品への「ハッカー」を受け入れろ

画像出典:Wikipedia
2009年に当時のレゴ社新規事業部開発部門トップがこんな発言をしています。
我が社には製品開発で創造性を発揮したいと考え、そのスキルを持っている人間が社外に内部の約20倍の人数分、存在していることになる
引用元:http://www.president.co.jp/pre/backnumber/2011/20110404/18440/18450/
このような同社の社外開発者に向けた意識が確立されたきっかけは、1998年に発売された「レゴ・マインドストーム」というプログラミングロボットプログラミングロボット教材でした。この製品は市場導入されて数週間でハッカーの餌食となり、世界中にそのソフトウェアのコードが公開されてしまいます。
すると世界中のハッカーたちがこぞって「レゴ・マインドストーム」のプログラムを改良、トランプをするロボットや警備ロボットまで誕生させていきました。
普通ならソフトの改変禁止をするところですが、レゴ社はこの事態を逆手に取ります。「ソフトを改良しても良い権利」をライセンスに盛り込んだのです。これにより同製品は爆発的な人気を博し、累計約100万セットというヒット商品となります。
「マインドストーム」というシステムに「社外開発者=ハッカー」を取り込むことで、社内では不可能に近いイノベーションを実現したというわけです。
5. レゴ社公認プロビルダー=最強の社外開発者を手に入れろ

画像出典:Andrey Belenko
レゴ社がこの社外開発者との共創に力を入れている証拠となるのが「レゴ社公認プロビルダー」の存在です。社員ではないものの、同社が信頼しビジネスパートナーとして公認されている人たちで、いわば最強の社外開発者です。
彼らがレゴを使ってコロッセオを作ったり、パソコンやiPhoneを作るなどしてレゴを単なる玩具からアートに押し上げているのです。
このプロビルダーは現在世界にたった13名しかいません。そのうちの1人が日本人の三井淳平氏。東大理系卒の彼が開発したのがレゴの可能性をさらに広げるアプリ「PlusL(プラスエル)」です。
これは例えば車専用のレゴのセットであっても、アプリを使うことで同じセットで作れる「動物」「変形ロボ」の組み方を示してくれるというもの。最強の社外開発者の存在は、レゴ社が関与せずともどんどんレゴの価値を高めていってくれるのです。
6. 企業理念をメンテナンスせよ

画像出典:Joe Shlabotnik
レゴ社の創業以来の経営理念は「子供たちには最高のものを」でした。クヌッドストープ氏はこの理念が低迷期にはすでに風化していたと指摘します。しかしだからと言ってこの理念が「ダメ」なわけではない。必要なのは理念の変更ではなく、「メンテナンス」だと言います。
そうしてできた新しい理念が「Only the best is good enough(極上を以ってのみ こと足れり)」です。最高のものを作るという意味では、創業以来の理念と変わりありませんが、これをつくるプロセスが一度理念が風化した歴史ある企業では必要だったのです。
彼らは現在開発する玩具を開発段階で子供達のグループに見せながら、改良を重ねるという手法をとっています。レゴ関連の本『Brick by Brick』を持つデービット・ロバートソン氏はレゴ社復活の要因をこう表現します。
マネジメントの役割が、どんなおもちゃを市場に送り出すか考えることから、徹底的におもちゃを下調べしたか確認することに変わったからだ
引用元:http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1312/12/news008_4.html
「最高のもの」を送り出すために、「十分(good enough)」の基準を「極上(the best)」に設定し直したからこそ取り戻した商品開発の姿勢だと言えるでしょう。
まとめ
2. 作るのはモノではない、システム(基盤)を作れ
3. 創造力のために「制限」をかけろ
4. 製品への「ハッカー」を受け入れろ
5. レゴ社公認プロビルダー=最強の社外開発者を手に入れろ
6. 企業理念をメンテナンスせよ
以上がここで紹介したレゴ社の「愛されるブランドの作り方」とも言うべきものです。どれもこれも一筋縄で行くようなメソッドではありません。しかしそれを乗り越えてこそのブランディングです。
これらの視点から自分の仕事を見つめなおしてみて、1つでも改善の余地があればまずはそこから始めること。それが自分の成長はもちろん、組織の成長にもつながるのではないでしょうか。
[文・編集] サムライト編集部