小山薫堂さんが山形の学生にだけ教える企画構想術

小山薫堂氏が教鞭を執る「企画構想学科」

映画『おくりびと』の脚本家、くまモンの生みの親、東京スマートドライバーの仕掛け人…。あげれていけばキリがないほどの多彩な顔を持つのが、放送作家の小山薫堂氏です。

日本のみならず、今や世界を舞台に活躍する小山氏ですが、実は2009年に『おくりびと』の舞台ともなった山形の地で大学教授に就任しています。

大学の名は、東北芸術工科大学。いわゆる「美大」です。そこで彼が新たに立ち上げた学科こそ、プロのビジネスノウハウを学ぶのに日本で最も恵まれた環境と言っても過言ではない「企画構想学科」でした。

今回は、そんな山形の企画構想学科の学生だけが受けている授業の一端をご紹介していきます。

人生の分岐点となる人だけに渡す「100枚の名刺」

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高校を卒業したばかりの大学1年生。初々しさあふれる彼らに小山氏から贈られる最初のプレゼント、それは「100枚の名刺」です。名刺の裏には、小山氏の直筆で生徒一人ひとりの名前が書かれています。

この100枚の名刺は、学生が4年間で出会う人のなかで「自分の人生の分岐点となると感じた人」のみに渡すものです。

企画構想学科の授業にはビジネス界の第一線で活躍するクリエイターや著名人が多く訪れます。例えばコピーライティングの授業では、宣伝会議賞やピンクリボンデザイン大賞などの審査員も務める三井明子氏。イベントプランニングの授業では、日本で唯一のグリーンランド公認サンタクロースであるパラダイス山元氏が参画したこともあります。

この100枚の名刺には、そんな授業に訪れる様々なクリエイターや、一緒に仕事をしたい人とつながることで、将来学生が社会に出たときに役立ててほしいという小山氏の願いが込められています。

感情移入が生み出すブランドの作り方

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小山氏が大学のオープンキャンパスで学生たちに語ったエピソードにこんなものがあります。その日の授業のテーマは「ブランドってなんだろう?」と考えることでした。

ブランドについて考えるための教材として小山氏が選んだのは、大鍋に入った普通のカレー。そこで彼は次のような話をしたのです。

「これはハウスのカレールーを使った普通のカレーです。じゃがいもと合挽肉とニンジンが入っています。『これ、いま食べたい人いる?』と聞いても、特別な興味を示さないでしょう。なぜかというと、このカレーに感情移入していないから。ところがこれに気持ちが入れば、絶対みんな食べたくなる。」

そう言うと小山氏は学生たちに、鈴木さんという女性を紹介しました。その女性の正体は、日本を代表するメジャーリーガー、イチロー選手のお母さんだったのです。

この種明かしをするまで、目の前のカレーを「どこでも食べられる普通のカレー」として認識していた学生たちですが、「イチロー選手が食べていたカレー」と知り、それまでの感情が180度変わったことは言うまでもありません。

このように企画構想学科の授業では、ビジネス本を読むだけでは身につけられないような実学を、体験を通じて学ぶことができるのです。

企画を考えることの本質を身につける

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企画構想学科の授業の最も特徴的な点、それは学生が社会とつながって、仕事をするように自ら考えた企画を実行しているということです。

商品企画やイベントプランニングの授業は、企業に勤めている方をゲストに招き、学生の立案した企画を実施するという前提に行われます。そのため、実際に学生が予算を動かしたり、企業のブランディングに関わるという責任を持つことになります。このような体験を学生のうちからするというのは、非常に稀なケースでしょう。

実施された企画としては、UHA味覚糖とのコラボ商品販売、宿泊予約サイト「一休.com」の宿泊プラン制作、人気アーティストを招いての廃校を活用した音楽祭、農林水産省補助事業「マルシェ・ジャポン」の山形イベントなどジャンルを問わず幅広く行われています。

小山氏は授業で学生たちにこんな言葉を贈っています。

「企画とはサービスである、サービスとは思いやりである」

誰かのためになることを考えたり、世のなかに何かいいことをしたいというモチベーションは、企画を考えるうえで最も必要な軸となるものです。しかし社会に一歩出ると、企画を考えるということが作業の一端となってしまいがちになります。

この軸を社会に出る前に経験として身につけることで、学生は社会に出てからも「人を幸せにする」という企画の本質を見失わず、仕事をすることができるのかもしれません。

Career Supli
「企画とは誰かを幸せにするものであると同時に、自分の人生を幸せにするためのものでもある」と小山氏は語ります。もしもあなたがいま企画や仕事に悩んでいるのであれば、彼の哲学を学んでみるのもいいかもしれません。
[文・編集] サムライト編集部