2017年ベスト級の名著『問題解決大全』が“最強の問題解決本”である理由

読書猿著『問題解決大全』で問題解決脳を鍛える

私たちは生きていれば何かしらの問題を抱えています。それが仕事の場合もあるでしょうし、プライベートの人間関係や、自分一人の問題の場合もあるでしょう。

しかしそれらが全てなくなり、何の問題もない状態にはなかなかなりません。そこで必要になるのがそれらの問題を解決するための方法です。

何度も経験したことのある問題なら別として、初めて経験する問題を解決する方法に到達するのは至難の技です。

今回紹介する『問題解決大全』という本は、そんな時にこの上なく役立つ“最強の問題解決本”です。なぜ本書が「最強」なのでしょうか。理由は以下の2つです。

・37の方法を提示することで、「問題解決の使い分け」という視点を提供している点。

・単なる「まとめ」ではなく、それぞれの方法が連関して一つの大きな問題解決になっている点。

以下では本書の具体的な内容に触れつつ、これらについて詳しく解説していきましょう。

リニアな問題解決とサーキュラーな問題解決

●「これがダメならこっちで考えよう」

まずは第一の理由「37の方法を提示することで、『問題解決の使い分け』という視点を提供している点」についてです。

何か問題に直面し、それを解決しようとすると、私たち得てして特定の解決策に固執しがちです。一度「この方法が、この問題の解決には適している」と思うと、いつのまにか「この方法が唯一の方法である」と思い込んでしまうのです。

しかし実際は問題解決には様々な方法があり、状況や問題の性質によって使い分けることができます。

本書が提示する「37のツール(=問題解決の方法)」は、効率的な問題解決のために必要不可欠な「これがダメならこっちで考えよう」という柔軟な視点を提供してくれるのです。

「37」という他書に類を見ない数の多さも、視点をより柔軟にするために一役買っています。

●「この方法が最強である!」とは言わない冷静さ

またこの37の方法を「リニアな問題解決」と「サーキュラーな問題解決」という2種類に大別している点も、本書の特徴です。

「問題を解決しよう」と考え始めるとき、理屈っぽい人ほど「リニアな問題解決」に固執しがちです。しかしここで「リニアな問題解決以外にもサーキュラーな問題解決が存在する」と知っておくだけで、自分の認識できる理屈だけでは解決できない問題とも向き合えるようになるのです。

問題解決の方法を紹介する本の大半が「この方法が最強である!」とうたいがちであるのに対し、本書は「どの方法も一長一短だから、使い分けるようにしよう。使い分け方はこうである」と冷静な視点を貫いています。

では具体的にどのような方法が紹介されているのでしょうか。以下では「リニアな問題解決」からひとつ紹介しておきます。

●フランクリンの功罪表

「フランクリンの功罪表」は、アメリカ建国の父の一人ベンジャミン・フランクリンが開発した意思決定ツールです。意思決定の効率化のほか、アイディアの採用や不採用を判断する際にも役立ちます。やり方は以下の4ステップです。

1. 紙の中央に1本の縦線を引き、左側を賛成(もしくはメリット)、右側を反対(もしくはデメリット)のスペースとする。

2.意思決定を迷っている事柄について、賛成する理由やメリットを左側に、反対する理由やメリットを右側に書けるだけ書き出す。

3.書き出した内容のうち、同じ価値を持つ左右の項目を相殺していく。賛成理由1つに対して反対理由1つでも構わないし、賛成理由1つに対して反対理由2つ以上でも構わない。

4.相殺の作業を続けた結果残された項目に基づいて、意思決定を下す。

例えば「筋トレをするかどうか」という事柄について意思決定を迷った場合、次のような功罪表が考えられます。

このように考えると、「筋トレをする」という決定に行き着く、というわけです。

▼「フランクリンの功罪表」では合理的判断はできない?

しかしこのツールにも欠点があります。それは項目を挙げる作業や相殺の作業に、認知バイアス(思い込みや思い違い)が入り込む余地があるという点です。

ただ『問題解決大全』はこの欠点について、「確かに欠点ではあるが、認知バイアスは人間がポジティブに判断を下すには必要なものだから、このツールは人が決意を固めるための技法としては有用だろう」という趣旨の見解を示しています。

つまり「フランクリンの功罪表」を合理的な意思決定ツールとして使うと間違いを犯す可能性はあるが、ある程度の誤差を覚悟のうえで決断を下すために使うのであれば問題ないというわけです。

▼「レビュー」にこそ、本書の価値がある

本書のツール紹介ページは簡単なやり方を示した「レシピ」、使い方の具体例を挙げた「サンプル」、ツールの歴史や著者の見解を述べた「レビュー」で構成されています。

レシピやサンプルは実用書として非常に便利な項目ですが、そのツールをいかにして使うべきかのポイントが簡潔にして的確に書かれているレビューの部分にこそ、本書の「最強の問題解決本」たるゆえんがあるといえます。

問題解決の方法はつながっていく

●本書は「37の方法を集めた1つの大きなツール」である

続いて第二の理由である「単なる『まとめ』ではなく、それぞれの方法が連関して一つの大きな問題解決になっている点」についてです。

ひとつのカテゴリの情報を単純にまとめただけの本は、書店などにもうなるほどあります。しかし単なるまとめ本は、ネットに溢れかえっている「まとめサイト」「まとめページ」と大差ありません。

覚え書きとしては実用性がありますが、それ以上にはなれないのです。

これに対して『問題解決大全』は、「37の方法を集めた1つの大きな解決策」であるといえます。

というのも37の方法はそれぞれ問題解決のステップごとに分類され、使い分けられるように配置されているからです。ここでいう問題解決のステップは、下図のように分類されています。

●「年表」と「索引」がつながりを強化する

37の方法を1つの大きなツールにつなげているのは構成だけではありません。巻末に付けられている「問題解決史年表」と「索引」も、そのつながりを強化しています。

年表はどんな問題解決の方法が、どんなタイミングで開発されてきたのかを、本書の内容を踏まえて考えられるように作られています。「関連項目・補足」にしたがって本書を読み直せば、さらに理解が深まるでしょう。

索引は「人物関連」と「事物関連」に分類されています。このうち事物関連の索引は、「うつ気分」「目標と現状のギャップ」「擬人化」などの概念から本書をさかのぼることが可能です。

関連ページをまとめて読めば、ある概念と複数の問題解決の方法を紐づけて理解できるようになるでしょう。

こうして『問題解決大全』は、単純なまとめ本にならないように様々な工夫を重ねているのです。

問題解決とは「意志の力」である

「問題解決を学ぶことは意志の力を学ぶこと」(『問題解決大全』まえがきp10)

本書は冒頭で「問題解決=意志の力」だと定義しています。問題を解決するためには、現状に疑問を抱いて目標を定め、その目標に対して適切な行動をしなければなりません。

これはつまり確固たる意志を持っているということです。『問題解決大全』にはこの意志の力を鍛えるだけの情報が組み込まれ、それらの情報を体系的にまとめ上げるための工夫が凝らされています。

「問題解決力を鍛えたい」「意志を貫く力が欲しい」少しでもそう思う人は、ぜひとも本書を手に取ってみてください。

参考文献『問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール』
Career Supli
手元において損のない1冊です。ぜひチェックしてください!
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部