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もっと上手い文章、書きたくない?
SNSでちょっとした長文を書きたいとき、あるいは自分のブログの記事を書くとき、あるいはスピーチなどを任されたとき、「もっと文章が上手ければ」と思ったことはないでしょうか。スピーチは話し言葉なのでやや趣は変わりますが、根本の構成や表現は文章力がそのまま反映されます。書くにも話すにも、一定以上の長さになれば文章力が必要なのです。
ここでは池上彰さんと、読売新聞の1面コラム「編集手帳」のコラムニストであり、名文家として知られる竹内政明さんの対談本『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』から、文章が上手くなるためのコツを5つ紹介します。これらを実践すれば、きっと今より良い文章が書けるはずです。
「ベタな表現」と「手垢のついた表現」の違いを知る
どんなものであれ、文章の役割は「伝えること」です。どんなに美文でも、想定する読者に伝わらなければ意味がありません。逆に言えば平凡な「ベタな表現」でも、読者に伝わっていれば文章としての役割は果たしていることになります。そのため「ベタな表現」を恐れる必要はないのです。まずは自分の考えを小手先の工夫なしにそのまま書いてみる。それが大切です。
しかし竹内さんは「ベタな表現」と「手垢のついた表現」を区別し、後者をNG表現だといいます。「手垢のついた表現」とは例えば「フードファイターが山盛りのカレーを<ペロリと平らげた>」とか「東京の夜景は<100万ドルの夜景だ>」といった表現を指します。これらは「読者に様子を伝えよう」という意図によって書くものではなく、「こう書いておけばラクだ」という思考停止の産物だからです。
「ベタな表現」が吉本新喜劇のお約束のようなもので、わかっているけれど面白い芸だとすれば、「手垢のついた表現」は「とりあえず大声を出せばウケる」とばかりに声を張り上げる漫才師の芸だと言えます。両者の違いは読者(観客)との交感があるかどうか。自分の考えをそのまま文章にするときはこの点に注意して書いてみましょう。
「たとえ」は探して使っても良い
池上さんは読者にわかりやすいたとえを書くときは、パッと思いつくタイプなのだそうです。一方で竹内さんは毎回苦しみながらようやく思いつくというタイプなのだとか。
そんな竹内さんはたとえが思い浮かばないとき、いろいろなツールを使って探し出すのだといいます。具体的には歌舞伎や相撲、裁判の用語集のほか、気象予報士のパイオニア倉嶋厚さんの『雨のことば辞典』などです。
たとえとして使えるかどうかの判断基準は「一般的によく使う言葉ではないが、なんとなく馴染みがある言葉」。こうした言葉を使って、それまで読者が全く知らなかった情報を上手く説明できたとき、文章には強い説得力が生まれます。
また、たとえを探して使っていれば、より早く的確なたとえを頭の中から引っ張り出せるようになります。池上さんのようにパッと思いつく人は別として、そうではない人はぜひたとえを探す習慣を身につけて、少しずつたとえのストックを増やしていきましょう。
削って、削って、削りまくる
文章を書いているとどうしても正確に描写しようとして、形容詞や副詞をつけてしまいがちですが、これは悪文家の典型的な失敗です。情報量の絶対量が読者にとってのわかりやすさと直結するわけではありません。
むしろ的確に情報を取捨選択した無駄のない文章ほど、読者の理解度は高くなります。しかしいざ短文で文章を書くとなると、なかなかうまくいきません。良い短文を書くには、技術がいるからです。
この技術を身につけるためには、書いては削り、削っては書きを繰り返すのが一番の近道だと竹内さんは言います。そうしているうちに読者に伝えるために必要な「文章の筋肉」と、不要な「文章の贅肉」が見分けられるようになるのです。
この練習をするときのポイントは「せっかく書いたのにもったいない」「これは残しておきたい」というこだわりを、一旦全て捨てることです。そうした「この文章は必要なんだ」という自分の思い込みから脱しなければ、いつまでたっても文章は洗練されていかないからです。
「感情のさじ加減」を覚える

SNSやブログ記事の場合は特に、自分の感情をスタート地点として書き始めるパターンが多くなります。もちろん感情の吐露が目的であれば問題ありませんが、何かをきちんと伝えたいのであれば文章における「感情のさじ加減」を覚える必要があります。というのも書き手の感情が並べ立てられていると、読者が引いてしまうからです。
竹内さん曰く、政治家などを厳しく批判する記事で怒りの感情を8割程度に抑えて書くと、「そんなんじゃなまぬるい!」と読者が怒ってくれるのだそうです。これに対してこっぴどく批判してしまうと、逆に読者は政治家の味方になってしまうのだとか。感情のさじ加減を変えるだけで、こんなにも読者の反応は変わるのです。
このような技術を身につけるためには次のような作業をやってみてください。まず一度書きたいように書いてみます。その後で感情的な部分をピックアップし、どれが一番伝えたい感情なのか吟味します。そして必要もないのに同じことを二度言っていたり、読者が引くくらい感情的になっている部分は削ってしまうのです。この作業を繰り返せば、少しずつ感情のさじ加減ができるようになるはずです。
「名文」は何度も同じものを書き写す
竹内さんが40年の記者生活を通じて、最高の文章鍛錬だと言うのが「名文の書き写し」です。このトレーニング方法のメリットは3つあります。一つは単純に文章表現の引き出しが増えることです。
繰り返し書き写すうちにどのような場合にどんな表現をすればいいかがわかってくるのです。二つ目のメリットは「名文のリズム」が身につくことです。名文と呼ばれる文章には独特のリズムがあります。リズムのある文章は読者も読みやすく、理解しやすくなります。
三つ目のメリットは「正しい自分流の書き方」ができることです。名文というお手本なしに自己流の文章に固執しても、たいていの人は悪文家になってしまいます。しかし名文できっちり「わかりやすい表現」「上手い書き方」を身につけていれば、文章を書き続けているうちに自然と自分流の書き方ができてくるのです。
「どんな文章を書き写せばいいのかわからない」という人のために、以下に『書く力』でお二人が挙げている名文の一部を一覧にしておきます。ぜひ参考にしてください。

これら以外にも池上さんの著書や竹内さんの「編集手帳」を書き写すのも良いでしょう。
「好きな言葉」を集めよう
名文に接する機会が増えるほど、「この言い回し好きだなあ」「これは一度使ってみたいなあ」という言葉が増えてくるはずです。そうした好きな言葉が出てきたら、どこかにメモしておいて実際に使ってみましょう。一度使うと「名文の一節」だったその言葉が、たちまち自分のものになります。自分の文章がちょっと格式高いものになったようで、もっと色々な名文に接したくなるでしょう。
またこの「好きな言葉集め」はもう一つ大きな効果があります。それは文章全体のレベルアップです。名文の一節をそのまま自分の文章に組み込むと、その一文だけが格式が高くなってしまい、周りの文章がみすぼらしく感じるはずです。これでは完全に借りてきた言葉です。どうにかこれを自分の言葉にするには、他の文章のレベルもあげなくてはなりません。そのための試行錯誤を繰り返すうちに、文章のレベルが上がっていくというわけです。
文章の技術も「トレーニング」が必要不可欠
文章が上手くなるためには筋トレと同じようにトレーニングが必要です。しかもただやみくもに書きまくるのではなく、正しいやり方で書かなければ上手くはなりません。
これもまた間違ったフォームで筋トレをしても筋肉がつきにくいのと同じです。確かにトレーニングは辛いかもしれませんが、少しずつ自分の文章が良くなっていくのを楽しむことが大切です。そうすれば知らない間にあなたもちょっとした名文家の仲間入りをしているでしょう。
参考文献『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』
