一番優れた自己投資
一番割の良い自己投資はなんだと思いますか。英語ですか?
違います。
それは、文章力をアップさせることです。コミュニケーション手段は進化しても、基本的なビジネスのコミュニケーションの多くが文章を通じて行なわれるからです。確かな文章力があれば、当面食いっぱぐれることはないでしょう。
ただ、いざ文章を学ぼうと思っても、文章術に関する著書が膨大にあって何を選べばよいのか悩むと思います。
『伝え方が9割』シリーズが累計で70万部を突破しました。確かに素晴らしい著書ですが、いまだにこれだけ多くの人が文章力に悩み、自分に最適な教科書を見つけられていない証拠だと思います。
そんな人たちにおススメしたいのが井上ひさしさんの文章術です。
井上ひさしの文章術とは?

井上ひさしさんは、数多くの小説、戯曲を残し、2010年に亡くなった日本を代表する作家です。言葉に関する知識が、「国語学者も顔負け」と称されるほど深く、言葉の達人と言われた方です。そんな井上さんの創作のモットーは
そして、このモットーがそのまま反映された作文教室を開催して、小学生や文章の書き方を習ったことがないお年寄りに易しく指導をされていました。
その教室の内容が非常にシンプルでありながら、文章を書く際に一生使える本質的なアドバイスばかりなのです。その一部をご紹介します。
題名は最初の勝負どころ

井上さんは題名をつけることに、まず全力を注ぐことが大切であるといいます。ここがまず最初の勝負どころで、良い題名が書ければ三分の一以上は書いたといってもよいぐらい価値があると。
そして題名をつけるために、何を伝えたいのかを考えるわけですが、文章を書くのに一番大切なことを次のように表現しています。
自分にしか書けないことをだれにでもわかる文章で書く。これができたらプロ中のプロ。しかし学者の中には、これと真逆のことをやっている人がいて、だれにでも書けることを、だれにもわからない文章で書いていると厳しく指摘します。
良い文章とは何か、さんざん考えた結果、結局は自分にしか書けないことを、どんな人でも読めるように書く、これに尽きる、この一言を教えれば、自分の作文教室は終了でいいと語ります。
そして自分にしか書けないことを書くというのは、自分に集中するということで、自分を研究し、自分が一番大事に思っていること、つらいと思っていること、嬉しいと思っていることを書く。
普通に生きていても、住む場所や家庭環境など様々な条件があって考えることも少しずつ違う。その違うところを、わかりやすい文章で書けば、みんなが感激したり、面白がったり、唸ったりしてくれる、それだけのことであると井上さんはいいます。
いきなり核心から入る

では、わかりやすい文章のコツとはなんでしょうか。
例えば何かの事件についてものを書く場合、事件が終わったところから書いてみる。「昨日亭主を殴った」というように、どうして殴ったかなどという経緯は書かずに、いきなり核心に入っていく。なぜ核心から入っていく必要があるかというと、人間の脳のキャパシティーに合うような文章を書く必要があるからです。
私たちの記憶は「短期記憶」と「長期記憶」で成立しています。「長期記憶」というのはその人が長い時間をかけて収穫してきた様々な記憶で、いわばその人の中にある体験や経験の百科辞典のようなもの。
新しい文章が入ってきたときに、まず「短期記憶」に入れて、一瞬のうちに自分の「長期記憶」の目次と照らしあわせて、精神活動を行っています。
入ってきた言葉と目次の照らし合わせで、目次にない言葉が続くと、「ない、次もないっ」とだんだんわからなくなっていきます。そうしているうちに「短期記憶」に入った文章が消えてしまい、うまく理解できないという状況に。
このように、他人の「長期記憶」を利用しないと文章の意味は理解されないのですが、「短期記憶」のキャパシティーは情報を10個ぐらい、時間にすると20秒ほどしか容量がないので、いきなり核心から入るわかりやすさが重要です。
自分に集中する

出典:Amazon
私たちは面白い文章や意味のあることを書こうと、つい情報を求めて外に意識を向けがちです。
しかし、井上さんのいう自分にしか言えないことを書くというのは、自分に集中することです。
この自分に集中するためにしなければいけないことはなんでしょうか。その方法を自分なりに模索することが一番の文章上達への近道かもしれません。
井上ひさしさんの文章術に興味を持った方は「いのうえひさしと141人の仲間の作文教室」を読んでみてください。
[文]頼母木俊輔 [編集]サムライト編集部