「苦労なくして成功はない」黒田博樹に学ぶ、プロフェッショナルを全うするためのメソッド

「決断」一つで日本に大きな影響を与えてきたレジェンド・黒田博樹

今季、25年ぶりとなるセ・リーグ優勝を果たした広島東洋カープ(以下、カープ)。チームの大黒柱として若手を引っ張ってきた黒田博樹投手は、10月25日に行われた北海道日本ハムファイターズとの日本シリーズ第3戦を現役最終登板とし、そのユニホームを脱ぎました。

黒田投手と言えば、2014年のシーズンオフにメジャー球団から提示された年俸20億円以上(推定)の高額オファーを蹴り、単年4億円プラス出来高の条件で広島に電撃復帰するという「男気」で日本を熱くさせました。

また、それ以前にも人生を左右する数々の「決断」をし、20年間第一線で躍動し続けた裏側には、何かを成し遂げる分だけ何かを“断ってきた”と言います。

今回は、黒田博樹投手著書『決めて断つ』を参考に、ビジネスパーソンも見習うべきプロフェッショナルを全うするために必要な哲学を紹介します。

プロフェッショナルに必要な自分を「観察する力」

日常や仕事のなかで、意識的に自分を観察することは難しいことです。「ずっと自分の思考を見張ろう」と意気込んでも、逆に疲れてしまいます。

なので、「観察しよう」と力を入れずに淡々と自分の行動・考えを眺めてみる。そうすることで、「本当は自分はこうしたい」「現状に対して実はこう思っている」と、内面に隠れた素直な自分に気付くことができます。

では、何故“プロフェッショナル”になるためには自分を「観察する力」が欠かせないのか。黒田投手やプロの世界を例にして説明します。

真のプロは自分を常に客観視する

黒田投手のように、20億円もの大金を簡単に手放すことは人間難しいです。プロ野球・メジャーリーグの場合、契約さえしてしまえば野球をやっていればお金はもらえるもの。極端な話、怪我をして仕事ができなくなっても給料が支払われるのです。

もちろん仕事を全うする前提ですが、1年間の給料が確約されているのであれば、誰しも契約書に署名してしまうのではないでしょうか。しかし、黒田投手はそれを許すことはできません。

何故なら、黒田博樹という人間を、厳しいもう一人の黒田博樹という人間が常に見ているからです。

人間は、仕方がないと言い訳を作って自分を許してしまいがちですが、黒田投手の場合、自分に問いかけた時にもう一人の自分がどう答えるのか、それを常に考えているのです。

自分を客観視し続けることが、仕事上での真のプロフェッショナルへ導く一番の意識改革なのかもしれません。

現状を打破するカギは自分自身への「気付き」

「あなたは何の仕事をしているんですか?」と聞かれたら何と答えますか?

日本のプロ野球の場合、ほとんどの球団は1軍と2軍のユニホームが一緒で、背番号も変わりません。そのため、上の舞台を踏んでいなくても「僕はプロ野球選手です」と答えるでしょう。

しかし、アメリカではマイナーリーグの選手が「メジャーリーガーです」とは絶対に言うことはありません。何故ならアメリカでは、日本でいう1軍と2軍の選手の格差が大きく、下で競争を勝ち抜いた選手こそが堂々とプロを名乗れるからです。

日本では、たとえ2軍暮らしでも、大学卒ならばルーキーイヤーから1000万円前後の給料をもらえるため、「絶対1軍に上がる!」という気持ちはあるものの、確約される年棒制からか、心のどこかで無意識に余裕が生まれてしまいます。

したがって、1軍昇格枠を争う競争心はマイナーリーグの選手より足りない部分は否めません。

ただ、ここで重要なのが

余裕を感じている間に、プロとして自分が足りない部分に気付くことが大切。

現状で満足してはいけません。後々「あぁ、気付くのが遅かった」ではもう手遅れ。常に自分自身を観察し、まだ余裕を持っているならば必死になるよう意識を促す。

自分の立ち位置をわきまえ、プロとしての身の振り方をしっかり考えることができれば、上の舞台へステップアップするチャンスが必ず巡ってくるでしょう。

仕事を長期的に続けるための何かを「捨てる力」

何かを「断つ」「捨てる」ことはとても勇気がいることで、なかなかできることではありません。ただ、上のレベルに挑もうとする際、または仕事によっては時に必要なことでもあるのです。

では、黒田投手を含めた先発投手という仕事を例にして考えてみましょう。

心技体の“心技”を捨てる

先発投手の日本での登板間隔は基本中5日~6日。一方メジャーは中4日で、それも東西の地区で時差があるため移動時間を含めると3.5日になることもざらです。

また日本の場合、先発投手は“早上がり”という試合途中でも登板調整のため早めに帰宅できますが、メジャーでは遠征で登板予定がない投手でも全戦帯同・ベンチ入りが基本。

加えてほぼ毎日試合があり、半年間で162試合あるのを考えると、月の休みは実質3日ほどしかありません。しかも、その休みも移動日でまるまる使ってしまうこともあるのです。

黒田投手は日本時代、「今日はスライダーの調子がいまひとつだな」と感じたらブルペンで修正できるまで投げ続けていました。ところが、アメリカの場合投げすぎると、過密日程の影響で蓄積された疲労は先発登板の日にはまず回復しません。

先発投手なら誰しも、「本当は課題を解決してから次の登板に向かいたい」「徹底的に練習して問題を解消したい」と、投げ込むことで不安を打ち払おうとします。しかし、体を資本として考えるならばそういった意識を頭の中で断ち切り、捨てることで1シーズン戦い抜くことができる。

体を整えるために“心技”を捨てる。そう発想を変えることがとても重要だった。

つまり、納得するまで投げるという習慣を捨てること。頭の中で割り切り、「こう考えて、こうする」と心の中でこだわりを断つことが体を支える源になるのです。

仕事での「自己満足」はご法度

カープのユニホームを着ている間は「完投」へのこだわりが強かった黒田投手。しかし、アメリカではアメリカの発想があり、首脳陣が先発投手に求めている最低限の仕事はクオリティスタート(6回を投げて3失点以内に抑えること)。

つまり、カープで求められていたことはアメリカでは求められていなかったのです。したがって、完投を追い求めるのはアメリカでは単なる自己満足にしかならない。そうなれば、自分の仕事に対するやり方を変えなくてはいけません。

怪我せずにローテーションを守り、年間200イニング投げることがメジャーでのプロフェッショナル。

どんな仕事であれ、毎回完璧にこなさずとも、所属している組織が求めている仕事を7~8割で続けるという発想も大事なのです。

「本物の自信」はプロフェッショナルの“証”

どんな仕事やスポーツでも自分に自信を付けるために努力をします。ただ、“間違った自信”の付け方をすると、逆に自分を追い込むことになってしまいます。

では、黒田投手がプロ野球・メジャーを通じて経験した「本物の自信」が付く過程を見ていきましょう。

現時点の範囲内でトップを目指す

黒田投手の専修大学時代、その1学年上には小林幹英投手(現在カープ一軍投手コーチ)というエースピッチャーが在籍していました。後のレジェンドは同投手を「目標」「ライバル」と捉え、専修大学の中でのナンバーワンを目指して無我夢中でキャッチャーミッドに球を投げ込んでいました。

しかし、たとえ一番を勝ち取って目の前の殻を破ったとしても、自身の野球人生にはプロ野球、メジャーと目の前には決まって新しい外の世界が広がっていったのです。自分が所属する集団でトップになったとしても「結局世界は広いんだ…」そう思わされる繰り返しでした。

ただ、実はそれが重要でなのです。

誰しも自分が生きている範囲しか見えていない。でもそこで一番になってこそ、ようやく外の世界が見えてくる。

上のレベルだけを見て仕事をするのは間違いではありません。しかし、上だけを見過ぎていると周りが見えなくなり、足下をすくわれることもあります。現時点での範囲内で精いっぱいやり切り、トップの座を射止めて付けた自信こそが、今後の自分の視野を広げていくことに繋がるのです。

実績の積み重ねが自信を“本物”にする

一方で、小さい枠の中で満足してしまうとその枠の中で収まってしまい、自身の成長が止まってしまいます。

黒田投手がドジャースからヤンキースへ移籍した時、デレク・ジーター、アレックス・ロドリゲス、ロビンソン・カノー、マリアーノ・リベラといった世界的スーパースターが揃っていました。

当時メジャーで在籍経験のある球団はドジャースのみだったので、実績・経験を積んだベテランがクラブハウスの中にいるだけでこうも違うのかと。実績が作った自信、そして内面より満ち溢れる充実感が選手たちから感じ取れたと言います。

自信は与えられるものではなく、自分が地道に積み重ねた結果得られるものだ。

決して今日仕事を始めたからといって明日いきなりできるものではありません。ヤンキースのメンバーにはそういった「本物の自信」があり、そしてその本物がいるチームこそが上に登りつめる強さを持っているのです。

ヤンキースはそれをまさに体現している球団だと言えるでしょう。

集団や組織の中でトップになってこそ外の一流と比較できるようになり、それが次のモチベーションへと繋がるのです。

1度や2度の成功で「自信」を「過信」にしてはいけない

プロ野球でもヒーローインタビューで「今日の1勝は大きな自信になりました」と言う投手がよくいますが、黒田投手はそれを自信として心に植え付けないようにしています。

1勝で自信が持てるなら、その自身は1敗であっという間に失われてしまう。

たとえそれが完封試合、完全試合でも、1、2試合で結果が付いてきたから「俺はできる」と自分に自信を持ってしまった時点で、その自信は根拠のないものになってしまいます。

ビジネスシーンに置き換えても、はじめのうちに1度や2度仕事で成功して過度に自信を持ってしまうと、後に自分の仕事で自分自身を裏切ってしまった時の精神的なショックが大きく、耐えられなくなってしまう。

プロフェッショナルであれば、1年、2年かけて得た自身こそ「本物の自信」。長い年月で得た自信ならば簡単に崩れることはないのです。

生涯プロフェッショナルを貫き通すための「決断する力」

様々なキャリアを積む人ならば、「次はどこの職場に就こう…」というように、正解の分からない重大な選択・決断を迫られることはあるのではないでしょうか。その場合、一つの道を選ぶ際には徹底的に考え抜くことが必要だと黒田投手は言います。

たとえそれが正解とは限らなくても、

選んだ道が正解になるように自分で努力することが大切

そう。仕事場でそこのチームメイトと1年間を通して苦労と喜びを分かち合い、心底喜べるようにしたい。そのためには妥協のない練習と覚悟が必要であり、その過程を通してでしか「正解」に導くことはできないのです。

こういった所属先と、または利用する側とwin-winの関係を築き上げるために必要な「決断する力」を、黒田投手のカープ復帰の裏話を例に説明します。

メンタルを奮い立たせてくれる「場所の選択」

人間は年齢を重ねるに連れて、自分自身の体力とも向き合っていかなければなりません。黒田投手もシーズン終盤になると体力は限界を超え、メンタルでその体力を補いながらマウンドに立っていました。

そんなレジェンドにとって、仕事をするうえで最も重視するのはやはり〝メンタル”。自分がマウンドに立った時にメンタルを奮い立たせてくれるものは何か?それを常に考えていると言います。

それを踏まえると、2015年にカープに復帰したのは相応しいというように思えます。カープファンが大きな声援を送ってくれることは、黒田投手の心の中でワンランク上のモチベーションを発揮できるからです。

もし、そのままヤンキースに残っていたとしても、あるいはドジャースのユニホームにもう一度袖を通したとしても、心を動かされるほど喜んでくれる人はほとんどいなかったでしょう。

辛くてもやらなければならない場面は多々ある中で、チームの力になれるプラスアルファを出すことができるかどうか。そういった体力を補う以上にメンタルを奮い立たせてくれる場所の選択は、長期的にビジネスの第一線で活躍していくためには重要なことなのです。

最後は「気持ち」が「決断」の印を押す

「黒田が20億円を蹴って、4億円の広島に来た」。

こういった報道が世を賑わましたが、プロ野球選手にとって「お金=評価」。カープを含め、メジャーの球団から金額提示をもらった時点で、客観的に見ても、投手として、チームの戦力として評価されていることに黒田投手は十分満足していました。

黒田投手自身もちろんお金は欲しいし、少ないより高いにこしたことはありません。ですが、最終的にはそれを手にするかどうかより自分がプロフェッショナルとしてどういう思いでプレーできるのかという「気持ち」の方が大切だったのです。

しんどくて、楽しいとは思えない仕事に駆り立ててくれるもの。そのモチベーションを与えてくれるものを優先して考える。

シンプルですが、自分自身の所属先による「気持ちの在り方」を重視した「決断」が質の高い「仕事力」に繋がるのです。

プロフェッショナルは人の“心を動かす”

「アメリカへ行く前、僕自身カープファンに心を動かしてもらった。今度は自分がファンの方たちの心を動かして恩返しをする番」。

広島に帰ってきただけではなく、リーグ優勝という大き過ぎるプレゼントを残していった背番号「15」。

共にチームメイトとして戦った選手たちにも野球選手として、そして人間としても大きな影響を与え、それによって若手が台頭してきたことが今季の圧倒的な組織力の要因と言っていいでしょう。

また、野球界のみならず、日本のビジネス界においても、自分を支えてくれるお客・仲間を幸せにするためにプロフェッショナルとして人生を全うするということを体現してくれました。

まだこれからのビジネス・キャリアの方向性に迷っている方は是非、自分にしかできないことでプロフェッショナルを目指してみませんか?

参考文献:『決めて断つ』ワニ文庫
Career Supli
黒田投手はビジネス界の鏡ですね。どんな仕事であっても、お客からしたらその会社に所属していればその仕事のプロ。同じ会社の同僚や、担当の顧客から「あなたがいて良かった、ありがとう」と言われるようなプロのビジネスマンとして頑張っていきたいですね。
[文]佐藤 主祥 [編集] サムライト編集部