もっと自分を生かしたい人のための「引き算」仕事術

実力はあるはずなのに生かせない

新人時代から夢中になって仕事をこなし、お客さんからの感謝の言葉をもらえたり、成果を出したりしていった結果、強みや得意分野と呼べるものも出てきた。

このように自分に実力がついてくると、その実力をフル活用したくなるものです。しかしそう考えて仕事をとっていくと、最終的に仕事が増えすぎてキャパオーバーを迎え、中途半端に終わったり、意図せず手を抜いたりと不本意な事態に陥ってしまいます。

このような事態を乗り越え、より自分の実力を生かせるような働き方をするためには引き算が必要です。ここでは「楽天大学学長」仲山進也さんの著書『組織にいながら自由に働く。』をもとに、自分を活かすための引き算の仕事術を紹介します。

自由に働くための「加減乗除の法則」

仲山さんは自分の会社を経営する代表取締役であり、横浜・F・マリノスとプロ契約を結ぶ個人事業主であり(2017年当時)、かつ兼業・勤怠・仕事内容自由の「楽天大学学長」として楽天に勤めている会社員でもあります。

仲山さんは組織の所属して働く人からすればとてつもなく自由な働き方をしているため、多くの人から「どうすればそんな自由に働けるんですか?」と尋ねられてきたのだそうです。

『組織にいながら自由に働く。』は、そんな問いに答えるために仲山さんが自身のキャリアを振り返るなかで発見した、自由な働き方のロードマップとも言える「加減乗除の法則」について書かれた本です。この法則は、組織にいながらにして自由に働くという段階まで到達するには、以下の4つのステージを進んでいく必要があるとしています。

前述した「新人時代から夢中になって仕事をこなし、お客さんからの感謝の言葉をもらえたり、成果を出したりしていった結果、強みや得意分野と呼べるものも出てきた」状態というのは、このうち加を乗り越え、減のステージに入った状態を示します。

つまり身につけた実力をフル活用しようとして、キャパオーバーに陥っている人は、強みに集中するために作業を選り好みする必要があるのです。

自由に働くための10の引き算


以下では仲山さんが減のステージで必要だとしている10の引き算について、簡潔に紹介していきます。これを一見するだけでも、自分の強みにフォーカスするためのヒントが得られるはずです。

●安定志向を引き算する

いわゆる安定志向は本来の「安定」と「不変・不動」を取り違えており、自分が変わらないため、組織が変わらないために策を講じる方向にいきがちです。しかし変化し続けるビジネスシーンにおいて不変・不動は陳腐化を招く自殺行為です。つまり安定し続けるためには、絶えず変化を繰り返さなければならないのです。

そのため仕事をしていく中で「変化するリスクをとる」か「自分や組織のやり方を守る」かで迷ったら、前者を選ぶようにしましょう。そうすることで、自殺行為のために余計な時間や労力を割くことがなくなり、自分の強みを磨くための時間と労力が増えるはずです。

●出世ルートへの執着を引き算する

進学、就職、出世……世の中には様々なレールがあります。そのうえをひた走ってきた人にとって、社内の出世ルートというレールから外れると「レール外の人生」などないように思えるかもしれません。このように考えていると、出世ルートへの執着が生まれ、そのせいで余計な仕事を抱え込む羽目になる可能性があります。

自由に働くことを目指すのであれば、出世ルートへの執着は早々に捨て去りましょう。心配は無用です。なぜならレールの外にも間違いなく人生は続いていて、むしろレールから外れたおかげで出会えるチャンスも無数に存在しているからです。

これは大企業から当時社員20人のベンチャーだった楽天に転職した仲山さんが証明していますし、これを書いている筆者自身もかつては一部上場企業の正社員でしたが、今はフリーのライターとして当時の2倍〜3倍の月収を稼いでいます。

●他人が決めたルールを引き算する

ルールのには2つの種類があります。一つは他人が決めたルール(他律)で、もう一つは自分が決めたルール(自律)です。自由に働くためには、他律に従うことで思考停止に陥ってはいけません。なぜなら自律を作り、それをもとに行動することで夢中になって仕事に打ち込めるからです。そのため、自由な働き方を目指す上では他律の範囲内に自律を作り、あくまで自分のルールに則って行動する癖をつける必要があります。

●社内から評価されたい気持ちを引き算する

「お客さんから評価されているのに、社内からは評価されない。なんでなんだ!」と憤った経験がある人もいるのではないでしょうか。このとき多くの人は社内での評価を優先して、やり方を変えがちです。しかしこれでは社内での評価から自由になれず、上司の顔色をうかがう働き方になってしまいます。

この不自由から抜け出すには社内から評価されたい気持ちを捨て、社内では評価されなくてもお客さんに喜ばれる仕事に打ち込む必要があります。これを実行すると十中八九は変人扱いされますが、変人扱いされた方が自分のやりたい仕事はやりやすくなります。

「『変人』をほめ言葉だと思えるかどうかが、自由な働き方をゲットする大事な分かれ目」(前掲書p103)だと考えて、自分の信じる道を邁進しましょう。

●上司からの許可を引き算する

上司からの許可を得るためには、さらにその上司からの許可が必要で、その上司からの許可を得るためには……と許可を得るには膨大な時間と労力が必要になります。しかしこれではいつまで経っても組織の中で自由に働くことなどできません。ですから、上司からの許可を得なければならない(もしくは得ることで安心したい)という発想を捨てる必要があるのです。

とはいえ、何でもかんでも許可を得ずにやってしまえばあちこちで問題が噴出します。そうならないためのコツは、組織内でKPIに「なってない」仕事をやるということです。なぜならKPIになっているものは関係部署の利害関係が絡むため、許可なしにやると問題になりやすい一方、なっていないものは利害関係が絡まないので誰も文句を言わないからです。

●忙しいことによる自己重要感を引き算する

「ああ、忙しい忙しい」と言うことに対して、「自分はこんなに忙しくなるほど、あちこちから必要とされているんだ」という自己重要感を抱いてはいないでしょうか。しかし予定が埋まっているかどうかは、その人の価値とは関係がありません。むしろ予定に余白があるときほど、ちょうどいいタイミングで面白い仕事が舞い込むものです。

またこの余白は大きければ大きいほど、大きな仕事が舞い込みやすくなるという点も覚えておきましょう。実際仲山さんも、自分のスケジュールを大きく空けたところ、出版のオファーや横浜・F・マリノスでのチームビルディングの仕事が入ってきたのだそうです。

●肩書きを引き算する

会社名や部署名、役職名といった肩書きは、すべて他人が用意した看板です。その看板を使うことに慣れてしまうと、知らない間に看板にぶら下がって仕事をする癖がついてしまいます。これは結局肩書きに縛られて働いているということなので、自由な働き方とは言えません。

そこで仲山さんは肩書きを捨て、自分の名前だけで仕事をするようすすめています。具体的な第一歩としては、まず名乗りやメールの冒頭に会社名をつけるのをやめてしまいましょう。これをするだけでも自分の名前で仕事をする第一歩を踏み出せます。ただし会社名の省略をやっていいのは、会社の理念や行動規範をマスターしていることが前提です。

●「お客様」という関係性を引き算する

自分が楽しく夢中で仕事をするためには、一緒に仕事をするお客さんの存在が必要不可欠です。ここで言う「お客さん」とは目線が横並びで、密にコミュニケーション取れている相手を指します。この「お客さん」の距離感でいることが、相手に翻弄されずに自由に働くためには必要です。

しかし仕事の量が増えていくと、必然的に取引をする相手の数も増えていきます。すると「お客様(=神様)」と呼びたくなるような距離感の相手も増えていきます。すると相手との間に上下関係が生まれ、仕事の自由度は低下してしまいます。そのため自由に働くには、こちらから取引をする相手を選び、「お客さん」の距離で接することができる相手としか仕事をしないという覚悟が必要なのです。

「そんなことをしたら仕事がなくなってしまう!」と思うのだとしたら、それはまだ減のステージに進むのが早いという証拠です。その場合は加のステージに戻り、仕事を通じてお客さんとの関係の作り方を学ぶところから始めましょう。

●「お金がない」という言い訳を引き算する

「お金がない」という言い訳をしているうちは、お金に行動や思考を制限されているのと同じです。これでは自由に働くことはできません。お金から自由になるためには「お金を稼ぐ」と「お金がなくてもやりたいことをできるようになる」の両方が必要です。

具体的な方法としては収入源を複数持ったり、「お金を使わずにやりたいことを実現するにはどうすればいいか」と考える癖を持ったりすることです。実際お金がない方がアイデアは生まれやすいと言われていますし、お金をかけて外注に出すよりもノウハウが溜まります。お金がないという状況には、意外といいこともあるのです。

●ニガテ克服への努力を引き算する

加のステージではまだフォーカスするべき自分の強みが明確になっていないので、ニガテ克服は必要不可欠なタスクとなります。しかし減のステージでは、「どうやらこれが自分の強みのようだ」というものの中から、「軸となる強み」を選び、そこにフォーカスしていく必要があります。

これが許されるのは、その強みが強みとして確立しており、周囲にとってもニガテ克服に時間や労力を使われるより、強みにフォーカスして仕事をしてもらった方がメリットがある場合だけです。確かにハードルは高いかもしれませんが、こうして強みを磨いていくことで、乗のステージで必要な「ホンモノの強み」を手にすることができるのです。

「ホンモノの強み」を掛け算すればもっと自由になれる

減のステージを乗り越えれば、次に待っているのは乗のステージです。このステージでは減で磨いた強みを掛け算することでオリジナリティを手に入れ、より組織の中で自由度を高めていきます。それができればいよいよ最終ステージ除へと進みます。

仲山さんは楽天市場に出店するお客さんに対して、様々な研修や講座を行う「楽天大学」の学長です。つまりは伝えることのプロでもあります。そのため『組織にいながら自由に働く。』自体も具体例や誰にでもわかる言葉を軸に書かれており、非常にスムーズに加減乗除の法則の実践方法を理解できるようになっています。

組織にいるメリットは捨てたくない。でも今よりもっと自由に働きたい。そう心から思う人は、ぜひ仲山さんの本を手に取ってみてください。きっと自由に働くためのロードマップになるはずです。

Career Supli
これからは組織にいながら自由に働く人が増えていく時代になると思います!ぜひ本書を読んでみてください。
[文・編集] サムライト編集部