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大人になっても成長できる!成人発達理論という視点
「成長したい」「変わりたい」そう思ってもなぜか思うように自分が変わっていかないという経験は、多くの人がしているものです。
あるいは「どうしてあの部下は成長しないんだ」「本当に部長は(悪い意味で)いつまでも変わらない!」と他人に憤慨することもあるのではないでしょうか。
もしかするとそこには「成人発達理論」という学問的な視点が欠けているのかもしれません。ここでは成人発達理論の大家ロバート・キーガンハーバード大学教授の理論をわかりやすく解説するとともに、それをもとにしたコミュニケーション方法について提案します。
成人発達理論の4段階
成人発達理論とは端的に言えば「人間は大人になっても意識レベルでの成長を続けるという前提のもと、そのメカニズムやプロセスを研究する分野」です。
大人になっても意識が幼い(若いではなく)人や、年齢は若いのに妙に大人びている人がいるのは、成人してからあとの意識の成長度の違いが原因なのです。ロバート・キーガン教授はこの成人の意識レベルの成長度を4つの段階に分類しています。

※ロバート・キーガン教授の発達レベルは本来5段階ですが、ここでは成人以降の段階に絞っています。
第4段階にある人には第1から第3段階の人の考え方を理解することができますが、第1段階の人は第2段階以降の人の考えを理解することができません。
つまりここで言われる意識レベルの「成長」とは、より多くの人の考え方を理解できる、人間の「器」の成長を指しているのです。
器が大きくなるとより多くの知識や価値観を自分の中に蓄えられるようになり、さらにはそれらを組み合わせて新しいものを生み出すことも可能になります。
こうした人材が組織の中に増えれば、組織全体のパフォーマンスも向上するでしょう。成人発達理論を知り、部下や上司と相手の成長を促すようなコミュニケーションをとれれば、抜本的な組織改革を実現することもできます。
自分勝手な人とのコミュニケーション
ではまず第1段階の「道具主義的段階・利己的段階」について見ていきましょう。この段階の人はいわゆる「自己チュー」です。
自分が関心のある仕事だけに興味を示し、それ以外の仕事には見向きもしないというような人はこの段階にあると考えられます。
あるいは自分の欲求や関心を満たすためなら、まるで他人を道具のように自分の都合で振り回すのもこの段階の特徴です。
第1段階にある人の最大の問題は「自分以外の人の目線で物事を見られない」という点にあります。このせいで周りが自分をどう見ているのか、あるいは自分が振り回した相手がどんな気持ちになるのかを理解できないのです。
このような人が第2段階に進むためには、他人の目線や意図について考えるトレーニングを積まなくてはなりません。
自分がそうなら「この仕事を○○さんはどんな意図で自分に与えたんだろう?」などと自問自答してみる、他人がそうなら同じ質問をその人に投げかけてみる。
これを繰り返すことで、徐々に第2段階に必須の「相手の立場に立って考える」能力を養うことができます。
他人に対して答えを与えずに問いを投げかけるのは、この段階の人がまだ相手の意見をすんなり聞くレベルにないからです。あくまで自分で考え、自分の意見としてまとめてもらう必要があるのです。
「自分がない」人とのコミュニケーション

第2段階の「他者依存段階・慣習的段階」は利己的な自分の世界から抜け出し、他人の視点で考えられるようになった状態です。しかしこの段階にも問題はあります。
それは欲求や関心などの低次元の「自分」ではなく、価値観や意見などの高次元の「自分」を確立できていない点です。
そのため他人の意見がなければ行動ができなかったり、自分の頭で考えずに慣習に従って行動してしまうのです。
かつての日本式経営の中ではこうした「指示待ち人間」が重宝されていましたが、めまぐるしくビジネスシーンが変動する現在では組織にとってはお荷物でしかありません。この段階にある人は、組織のためにも自分のためにも次の第3段階へと進む必要があるでしょう。
そのためには高次元の「自分」を確立するためのトレーニングが必要です。自分がこの段階にあるのであれば、現在の組織のあり方や仕事のやり方について思っていることをノートに書き出してみたり、同僚などに相談してみるところから始めてみましょう。
他人の場合は「○○さんはどう思う?」「ここまではマニュアルにしたがって欲しいけど、この部分は○○さんの裁量に任せるよ」などと自分の意見や仕事のやり方を考えるきっかけをつくるのが効果的です。
これを積み重ねていれば必ずどこかで「アウトプットしてみたい」と思うようになります。そうなれば第3段階まではあと少しです。
「自分ルール」ができあがってしまった人とのコミュニケーション
第3段階になると第2段階で獲得した他人の視点を持ちつつ、自分の意見や価値観を確立ができています。
またその意見や価値観を他人に対して伝えようという姿勢もみられます。この段階は自己主導段階・自己著述段階と呼ばれます。
この段階の問題は「自分ルール」ができあがってしまったばかりに、「自分が正しい」という思い込みが強くなり、他人の意見を受け入れられなくなる点です。また成功体験に縛られ、新しいやり方を試す勇気を持てないのもこの段階の特徴です。
この段階にある人がするべきは「仕事の棚卸」です。今まで取り組んできた仕事を総ざらいすれば、自分以外の人が自分を支えてきてくれたことに気づいたり、自分のやり方の欠点に気付くことができるはず。
「自分が正しい」という思い込みが間違っていることを実感できれば、格段に自分ルールにも柔軟性が生まれます。
これを他人に対して行うのは難しいかもしれません。第1段階や第2段階の人に対して行うコミュニケーションよりも、格段に時間もかかりますし、次の段階に導こうとする側の器も試されるからです。
しかしそのぶん、うまく次の段階に導ければ自分にも相手にも大きな成長がもたらされるほか、組織にも大きなプラスになります。
自己変容・相互発達段階の人の見る世界
ロバート・キーガン教授の理論によれば第4段階の「自己変容・相互発達段階」は成人の意識レベルの最高到達点です。
この段階に到達すると自分ルールを絶えず更新し、常に新しい価値観や仕事のやり方を実践するようになっていきます。
例えばイチローさんのように毎シーズン新しいバッティングフォームを試したり、棋士の羽生善治さんが次々と新しい指し手を考案するように、です。
この段階にある人たちは「自分」というものを何か確固たるものとして持っているのではなく、時間や環境によって変化するものであると捉えます。
また他人を自分の成長にとって必要不可欠な存在だと考えているので、他人の成長に対しても積極的に取り組むことができます。
まるで理想論を語っているように聞こえるでしょうか。しかし実際にそうしたビジネスパーソンに出会ったことはあるはずです。
そうした考え方や行動ができない人と、そうしたビジネスパーソンとの差は「天性の人柄」や「才能」ではありません。単に成人としての発達段階が違うだけです。そしてそれはここで見たように訓練で乗り越えられる差なのです。
変われないのは「知らない」から
読者の皆さんの意識段階は4段階のうちどこにあったでしょうか。自分が思っていたよりも高い人、低い人様々だと思います。
しかし重要なのはそれを知ること、他人を成長させたいならそれを知ってもらうことです。「これができるようになれば、こうなれる」という道筋が見えれば、きっと成長していけるからです。器の大きな人間になるためにも、成人発達理論とハーバード流コミュニケーション術を実践していきましょう。
参考文献『組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』
