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「25年ぶりの値上げ」CMで話題を呼んだ赤城乳業
2016年4月1日、2日の2日間限定で放映された「ガリガリ君」の値上げCM。1971年にリリースされた高田渡さんの名曲「値上げ」がBGMに流れ、画面には赤城乳業の会長を始めとする社員の方々が神妙な面持ちでこちらを見据え、最後には謝罪のおじぎをするというものです。
このあまりの誠実な値上げCMに、ガリガリ君のファンは感動し、「むしろこれからも買い続ける!」という声もネット上ではあがっています。
ここでは赤城乳業の監査役にして、このガリガリ君の生みの親・鈴木政次さんの著書『スーさんの「ガリガリ君」ヒット術』から、ヒット商品の作り方についての秘訣を解説します。
TOP画像出典:http://hirokunnews.com/1163.html
自ら逃げ道を閉ざす
ガリガリ君が生まれた1981年から遡ること2年、赤城乳業は倒産の危機にさらされていました。オイルショックとそれに伴う値上げによってメイン商品であった「赤城しぐれ」の売り上げが大幅に低迷。
工場は開店休業状態で、朝機械を清掃したら、その後は草むしりくらいしかやることがなかったほどでした。そこで状況を打開する商品の企画を任されたのが鈴木さんです。
試行錯誤の末、2年をかけてガリガリ君を生み出したわけですが、その時鈴木さんが宣言していたのは「赤城しぐれと同じいちごや練乳あずきといったフレーバーは絶対に使わない」ということでした。
すでに市場ができあがっている、いちごや練乳あずきなどのフレーバーなら開発に2年もかからなかったでしょう。しかし安易な逃げ道を閉ざし、イノベーティブなアイディアを出さざるを得ない状況に自分を追い込むことで、当時のアイスにはなかった「ソーダ味」を考案できたのです。
まずは「否定」してみる
鈴木さんは「新しい発想は否定から生まれる」と言います。すでに売れている商品(赤城乳業で言えば赤城しぐれ)を否定してみる。自分が「これだ!」と思うアイディアがあるなら、先輩や上司の意見をも否定してみる。そしてとにかく突き詰めてみる。
言われた通りにやっている限り、失敗すれば誰かのせいにできますし、成功すれば誰かの手柄になります。そこには達成感も責任感も芽生えません。
それらはビジネスパーソンとしての成長にもつながりませんし、達成意欲がなかったり、無責任だったりすればヒット商品も生まれません。
我を通すことで初めて、失敗しても成功しても自分の責任で企画ができるようになります。そうして初めてヒット商品への糸口を見つけることができるのです。
ヒット商品は「わかりやすい」
鈴木さんは商品企画の基本の1つとして「わかりやすさ」を重視しています。例えば鈴木さんが提唱する「ぱみ100(「ぱっと見」が100%)」というコンセプトは、その名の通り「ヒット商品になるかどうかは見た目がすべてだ」という意味です。
ガリガリ君が生まれる前に、新商品のコンセプトとして打ち出したのは次の4点。
1.でかい
2.安い
3.当たり付
4.おいしい
このうち最も「ぱみ100」を体現しているのが「でかい」というコンセプトです。当時もガリガリ君のような片手で食べられるワンハンドアイスはありましたが、ガリガリ君のサイズは既存商品の1.5倍。
「うわっ、でか!」というわかりやすい訴求力がガリガリ君にはあったのです。このわかりやすさが子供達に手を取ってもらう、大きな要因になったと鈴木さんは言います。
情熱がヒット商品を作る!
ヒット商品には「自己表現(セルフエクスプレッション)」があります。自ら主張し、魅力を発信できる商品でなければ多くの消費者に手に取ってもらえないからです。2000年にガリガリ君のキャラクターが2Dから3Dに変わり、それまで中学生だった年齢設定が小学生に変更になったのを覚えているでしょうか。
当時のガリガリ君の売上低迷の要因の1つに「キャラクターイメージの悪さ」があることを突き止めた鈴木さんは、キャラクターデザインの「抜本的な見直し」を決めます。その時に社外で手を挙げたのが当時グラフィックデザイナーとして活動していた高橋俊之さん。
高橋さんは鈴木さんに「この業界で、僕以上に、『ガリガリ君』を愛している人はいません。ぜひ、僕にやらせてほしい」とアプローチをかけ、鈴木さんもその情熱を買ってデザインを任せたのだそうです。
「この商品を絶対に売りたい」「この商品の魅力を絶対に伝えたい」という情熱があれば、自ずとセルフエクスプレッションできる商品になっていくのです。もちろん知識やテクニックも大切ですが、根本の「情熱」がなければヒット商品は生まれません。
ちなみに高橋さんはこの時から現在に至るまで、ガリガリ君にまつわるアートディレクションのすべてを行う「有限会社ガリガリ君プロダクション」のクリエイティブディレクターとして、大好きなガリガリ君に10年以上携わっています。
企画を通すための「伝え方の基本」
自分で起業するのでない限り、企画を実現させるには関係各所の承認が必要です。承認を得るためにはきちんと企画の魅力を伝えなくてはなりません。鈴木さんはこの時の基本を「相手に対して、『できるだけ丁寧』に『納得してもらえるまで』話す」だとしています。
「丁寧」というのは、すなわち「省略しない」ということです。企画についてずっと考えていると、ついつい自分の中での前提を相手も前提としていると勘違いしがちです。
例えば監査役である鈴木さんが「ナポリタン味が売れなくてよかったね。テレビに取り上げられて、3億円くらいの宣伝効果につながったから」という意味で、「ナポレオン味が売れなくてよかったね」とだけ言ってしまうと、人によっては「どうして鈴木さんはナポリタン味が売れなくて喜んでいるんだ?役員にあるまじき発言だ!」と受け取ってしまいます。
このような理解のズレをなくすには、面倒がらずにすべてを伝える必要があるのです。
また反対意見が出ればその理由をしっかりと聞き、それに対して返答し、関係者が完全に腹落ちするまで向き合うことが「納得してもらえるまで」の意味です。反対されたからといって声を荒げたり、感情的になるのはご法度。
本当にその企画を通したいのなら、「相手に対して、『できるだけ丁寧』に『納得してもらえるまで』話す」の基本を遵守しましょう。
失敗しながらでしか、ヒットは出ない
鈴木さんは商品開発部に数年間所属していた中で、1000案もの企画を出しましたが、そのうちヒット商品と呼ばれるようになったものは30個程度だそうです。1000戦30勝970敗。
つまり失敗に失敗を重ねなければヒット商品は生まれないのです。まずは失敗を恐れず、チャレンジすることがヒット商品への一番の近道だと言えるでしょう。
参考文献
『スーさんの「ガリガリ君」ヒット術』