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佐渡島庸平さんのコミュニティ論
『インベスターZ』『宇宙兄弟』『マチネの終わりに』など様々な名作をこの世に送り出し続ける編集者であり、株式会社コルクの代表取締役社長を務める佐渡島庸平さん。
この佐渡島さんが5月9日に『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 〜現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ〜』というタイトルの本を出しました。テーマはタイトルにある通り「コミュニティ」です。
キャリアサプリでは先日「短パン社長」こと奥ノ谷圭祐さんのコミュニティ論をお届けしましたが、ここでは佐渡島さんのコミュニティ論をもとに「自分が幸せになるためのコミュニティの作り方」を考えます。
「安全・安心を確保するとコミュニティは自走する」

●コミュニティの前提は「安全・安心」
佐渡島さんはコミュニティを機能させるためには、何をおいても「安全・安心」が必要不可欠だといいます。
ここでいう安全とは身の回りに危険がなく、危険が起きた場合の準備ができている状態であり、安心とは何が起きるかがある程度わかっている状態のことです。
この2つが前提として成立したとき、そのコミュニティはメンバーにとって所属していたい心地よい場所になり、コミュニティに時間やお金を投じるようになります。
例えばInstagramのストーリーズ機能は、投稿が24時間で消えてしまうということでユーザに圧倒的な安心感を与えています。
これはネットの情報が「一度発信してしまうと半永久的に保存されてしまう」という性質を持っています。
この性質は発信者に「発信した情報について批判されたり、一部を切り取って悪用されたりするのではないか」という不安を与えます。ストーリーズ機能はこの不安を見事に解消しています。
食べログのフォロー機能は口コミの信ぴょう性を高め、ユーザーの不安を解消しますし、Facebookの「共通の友達」も安全・安心を担保するための機能といえます。
こうして安全・安心が確保されて初めて、ユーザはそのコミュニティの中で「何かしよう」という気になるのです。
●コミュニティの安全・安心を高める3つの要素

「リアクション」「役割」「イベント」の設計もコミュニティの安全・安心を高める重要な要素です。
リアクションの設計の代表例はFacebookの「いいね!」です。この機能は何一つ文字を入力しなくても単にリアクションをするだけでユーザをコミュニティに参加させてくれます。
はてなブログの「今週のお題」も、ユーザがお題へのリアクションをするだけでブログが投稿できる仕組みの一つです。
多くの人にとって、「なんでもできる」は、「なんにもない」と同じだ。
引用:前掲書p185
「自分はここにいていいのだろうか」という所在無さを覚えるからか、人はコミュニティに入ったときに何をすればいいのかがわからないと不安になります。
そこで新しく入った人に対して「まずはこれをやってみましょう」とお題を出して、コミュニティに参加させてあげる。
するとユーザはそれによってコミュニティの一員になれたような気がして、より積極的にコミュニティに関与していくようになります。
役割やイベントの設計も同じ意味合いを持っています。何をすればいいのか、どう参加すればいいのかを運営側がある程度提示するだけで、ユーザにとってのコミュニティの安全・安心は格段に高まっていくのです。
学校にある、入試、入学前説明会、入学式、文化祭、運動会、クラスでの委員など、授業以外のさまざまな行事には、すべてコミュニティに必要な要素がつまっているのだ。
引用:前掲書p190
佐渡島さんは特にイベントの設計に関しては、学校の行事に置き換えられるようなものを作っておいたほうがいいといいます。それは学校という仕組みが安全・安心の確保されたコミュニティとして非常に優秀だからです。
●熱狂は「成長することか、成長を見守ること」で生じる
しかし安全・安心が確保されているだけでは、そのコミュニティが人を惹きつけることはできず、崩壊に向かいます。
そのため安全・安心の先には必ず「熱狂」が必要です。ではどうすれば熱狂を引き起こせるのでしょうか。佐渡島さんは著書の中で以下のように定義しています。
熱狂とは「成長することか、成長を見守ること」で生じます。
引用:前掲書p230
参加者が成長したり、その成長を見守れるような仕組みがあったりすれば、見ているだけでも楽しいですし、成長している本人はもっと楽しくなります。これがコミュニティの熱狂を生みだし、活動を加速させていきます。
例えば短パン社長こと奥ノ谷圭祐さんが主催する「短パンビール部」では、参加者たちがコミュニティ内で体験したことや学んだことを自分のビジネスに反映させるのが当たり前になっています。その実践の様子は下記のブログなどで紹介されているのでぜひご一読ください。
■はなぶさ旅館3代目ブログ
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こうした仕組みが整うと、「もっと成長したい」「自分も成長したい」と熱狂が生まれるのです。
ただし熱狂が加速させすぎてはいけません。なぜならコミュニティがどんどん盛り上がって急速に拡大していくと、コミュニティの価値観に深く共感していない人まで引き寄せてしまうからです。
そうすれば余計なトラブルが起きたり、本来大切にするべきメンバーの安全・安心が脅かされたりするでしょう。結果コミュニティは当初とは別物になってしまうか、崩壊してしまいます。
したがってコミュニティで熱狂が生まれたら、ある程度の段階でコミュニティの安全・安心をアップデートする必要があります。
例えば多くのSNSで行われているコメントの検閲やアカウント停止措置などは、行き過ぎた熱狂を落ち着かせ、コミュニティの安全・安心をアップデートするためのものといえるでしょう。
「安全・安心の確立→熱狂→安全・安心の確立→…」というループがコミュニティの拡大を緩やかにさせ、コミュニティを持続可能なものにしていくのです。
「幸せになるためのコミュニティ」が作れる時代
私たちは会社や家族、地元の友人たちなど、何かしらのコミュニティに参加しています。しかしそれらのコミュニティは必ずしも自分にとっての「幸せになるためのコミュニティ」ではありません。
価値観や悩みを共有し、互いに好きなものや問題意識について語り合える場所。それこそが「幸せになるためのコミュニティ」なのではないでしょうか。
インターネットが発達する以前なら、そんな場所を自分で作ることは至難の技でした。
例えばある漫画が10万部売れたとしても、日本国内でその漫画を買って読んだ人はおおよそ1000人に1人しかいません。その漫画の魅力や価値を語り合える機会はほとんどないでしょう。
しかしインターネットはとてつもなくニッチな趣味や、独特な価値観でも一緒に語り合える環境を実現しました。
現時点ではまだネットでの人間関係やリアルの人間関係よりも脆いものとされていますが、それでもリアルの人間関係を深めるためのきっかけ作りとしては十分です。
そうしてコツコツと自分が幸せになるためのコミュニティを作っていけば、既存のコミュニティでは癒されなかった孤独や閉塞感を癒すこともできるはずです。
そのためにまず何ができるのかといえば、それは何よりも「発信すること」です。TwitterやFacebook、Instagramやブログで自分自身のことや自分の価値観、好きなものについて何度も繰り返し語っていく。
そうして自分が何者かを伝えたり、何をしてほしいかを伝えたりしていけば、少なくともそれを見た人にとっての安全・安心が生まれます。幸せになるためのコミュニティはきっとそこから始まるのではないでしょうか。
参考文献『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 〜現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ〜』

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