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本を読まないと生き残れない時代
1年に何冊ぐらい本を読みますか?10冊以上読む人もいれば、全く読まない人もたくさんいると思います。もしあなたが「全く読まない人」であれば、少し考えを変える必要があるかもしれません。
確かにこれまでも「読書は必要だ」と言われてきましたが、これからの日本は本格的に本を読まない人が生き残っていけない社会になっていくからです。ここではその理由と、具体的な読書の仕方について紹介します。
これからの時代に必要なスキルは読書でしか身につかない
まず考えたいのは「読書でしか身につかないスキルとは何か?」ということです。現代日本人の「活字離れ」が叫ばれる一方で、私たちはスマートフォンやインターネットなどの活字にどっぷりと浸かっており、文章に接する機会が全くないわけではありません。「本は読んでいないけど、ネットの文章なら読んでるよ」という人も多いはずです。
しかし2014年12月10日に放送されたNHKの情報番組「クローズアップ現代」の行った実験によると、どうやらスマートフォンやインターネットで情報を大量に集めるスキルがあっても、読書をしている人が集めてくる情報の質にはかなわないことがわかったのです。
実験は6人の学生を対象に行われました。4人は1日あたりの読書時間がゼロ、1人が30分、2時間が1人。彼らに対して「図書館内の書籍及びインターネットの使用は自由」という条件で1500字以内のレポートを作成させたところ、面白い結果が出たのです。
5人は早々にインターネットで情報を集めてレポートを仕上げたのに対し、読書時間が2時間の学生だけが合計4冊の本を図書館で借りてレポートを仕上げました。そのレポートの質を見たときに明らかにそこには差があったのです。
情報量が多いだけで「浅い」5人のレポートと、しっかりとした論理構成と5人にはない「自分の意見」が盛り込まれた読書時間が2時間の学生のレポート。ここには本を読まない人と読む人の差が非常に分かりやすい形で現れています。
「これからの時代」=「成熟社会」

その差とは「一応の正解」を見つけてくるスキルと、「自分だけの正解」を見出すスキルの差です。元リクルートの東京営業統括部長であり、中古車情報サイト「カーセンサー」を立ち上げた藤原和博氏は後者の「自分だけの正解」を「納得解」と名付けました。同氏によればこの「納得解」を見出すスキルこそ、これからの時代を生き抜くために必須のスキルなのです。
これからの時代を理解するためには、「これまでの時代」について知っておく必要があります。日本の場合明治時代の幕開け(1868年)からの100年は大まかに「成長社会」として括ることができるでしょう。
急速に工業化を遂げて列強の仲間入りをした明治・大正、そして「敗戦」という大きな挫折を乗り越えて高度経済成長期へと突入していく昭和期。しかし1990年初頭のバブル崩壊と1997年からの景気低迷による1人あたりGDPの低下をきっかけに日本の「成長社会」は終わりを告げ、藤原氏言うところの「成熟社会」へと突入していきます。これが「これからの時代」です。
今の日本で「終身雇用制度」や「年功序列賃金制度」を守り切れている企業は皆無に等しくなっています。国が管理していたはずの「国民年金システム」の崩壊も時間の問題です。なぜならこれらは全て「経済的な成長」という「正解」を前提としたシステムだからです。
企業や国が用意してくれる正解を受け入れていればいい時代は終わりました。「自分だけの正解」すなわち納得解を見出さなくてならない時代がやってきたのです。そしてこの納得解を見出すためには読書によって磨かれる「情報編集力」を鍛えなくてはなりません。
正解のない時代を生き抜く「情報編集力」を磨け
編集工学研究所を主宰する松岡正剛氏は、私たちが日常的に情報を編集していると言います。しかし同時に「われわれは歴史が培ってきた編集の成果に甘んじていて、それを享受するばかりになってしまっている」とも言います。
編集の成果=正解に甘んじるのはやめて、これからの時代は与えられた情報を自分なりに組み合わせて、新しい1つの情報を作るスキルを磨かなくてはいけません。松岡氏が言うようにこれは芸術や料理などでも鍛えられますが、その最もわかりやすい例が読書なのです。
本を読んで得た情報を鵜呑みにするのではなく、他の本や自分の経験などの情報を組み合わせて、自分なりの意見を作り出す。
この訓練によって情報編集力を鍛えておけば、未知の問題に直面したときにも手持ちの情報を駆使して解決に導けるでしょう。対して与えられた課題をこなすだけの「成長社会」の頃の思考のままでは、未知の問題には対応できません。
私たちは何冊本を読めばいいのか?

「いったいどれだけ読めば情報編集力が身につくんだろう?」と思う人もいるかもしれません。前掲の藤原氏は読書を本格的に始めて3年、300冊を読んだあたりから読書の内容が自分の言葉になり始めたと言います。しかし300冊も読むとなると、今度はどれから手をつければいいのか困ってしまう人もいるでしょう。
そんな人はまずは手当たり次第に読む「乱読」から始めてみてはいかがでしょうか。京大や東大で5年連続販売冊数第1位を獲得した『思考の整理学』の著者・外山滋比古氏は『乱読のセレンディピティ』の中で乱読についてこんな風に書いています。
やみくもに手当たり次第、これはと思わないようなものを買ってくる。そうして、軽い好奇心につられて読む。乱読である。(中略)いまの時代、もっともおもしろい読書法が乱読である。
引用出典:『乱読のセレンディピティ』(扶桑社)
そうして読んだ本の数が300に届く頃、きっと藤原氏と同じような「自分の言葉」を紡ぐ瞬間がやってくるはずです。
松岡正剛「多読のすすめ」
前掲の松岡氏は読書について次のように語ります。
毎日の服を選ぶような気軽さで、本と付き合ってほしい。
引用出典:松丸本舗 PRESENTS SEIGOW 読書術
そのための具体的な方法として松岡氏は多読をすすめます。通勤電車でSF小説を読むのなら、喫茶店ではビジネス書を読み、ベッドの中では科学の本を読む。そうやって色々なジャンルの本を並行して読むことで、本を読む習慣ができてくるのだそうです。
また同氏は本を読むのに疲れた時の対処法について、「読書の疲れは読書で癒せ」と言います。読んでいる本に疲れてきたら、別の本に切り替えてみる。
これを繰り返していると読書を読むためのメンタルが鍛えられ、本を読むのが苦にならなくなるのだとか。読書を習慣化し、情報編集力を鍛えたい人はぜひ取り入れてみてください。
「読書」からはもう逃げられない
成熟社会の中で生き残っていくためには納得解を見出す情報編集力が必要で、そのためには読書が必須です。私たちの日本はもう「読書」から逃げることはできないところまでやってきています。
乱読でも速読でも精読でも多読でも、一度読書が習慣になれば情報編集力はちゃんとあとからついてくるはず。読書への苦手が意識を拭い去って、まずは1冊2冊と読んでいきましょう。
