ヤフーに学ぶ部下との成長促進コミュニケーション術「1on1ミーティング」

爆速経営を可能にするヤフーの人事制度

ヤフーの「爆速経営」を可能にするには、人財も同時に爆速で成長していなければなりません。この個人の爆速成長を実現したヤフーの人事制度であり、コミュニケーション技法の1つが「1on1ミーティング」です。

この1on1ミーティングには、多くのビジネスパーソンが抱える「部下とのコミュニケーション不足(もしくは不良)」を解決するためのヒントが、たくさん詰まっています。

ここではヤフー上級役員である本間浩輔さんの著書『ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法』を参考に、1on1ミーティングの目的や効果、実施方法を解説しながら、それらのヒントを紹介します。

部下とのコミュニケーションがうまくいかない3つの理由


1on1ミーティングについて知る前に、そもそもなぜ部下とのコミュニケーションがうまくいかないかを考えておきましょう。細かい理由はもちろん企業によって、人によって変わりますが、大きな理由としては以下の3つが挙げられます。なお、ここでいうコミュニケーションは、主に部下の成長につながる「対話」の時間を意味しています。

1.コミュニケーション(対話)とは名ばかりで、上司が部下に自分の有能さをアピールしているだけになっている。
2.上司が部下の成長を待てずに、横槍を入れているだけになっている。
3.「言わなくてもわかる、伝わる」と考えて、コミュニケーションをサボっている。

●上司が部下に自分の有能さをアピールしているだけ

例えば仕事の悩みを打ち明けてきた部下に対して、部下が最後まで話終わらないうちに「俺が若い頃もそんなことがあったよ。俺はこうやって乗り越えたぞ」と返す。あるいは仕事を与えるときに「この仕事はこうやれば上手くいくから、俺の言う通りにやってくれ」と自分のやり方を押し付ける。

本人からすれば良かれと思ってやっているのかもしれませんが、結局これらは「俺は有能だ」という自己アピールをしているだけです。自分のアドバイスや指示を受けた部下が「はあ……」と微妙な反応をしているようなら、注意が必要でしょう。

●部下の成長を待てずに横槍を入れているだけ

また自分からすれば簡単な仕事をやっているはずなのに、部下がPCの前でウンウンうなっていたとします。これに対して「そんなにウンウンうなるほど難しかったか?これはこうやるんだよ」と親切に仕事のやり方を教えてしまうとすれば、これもまた理想的なコミュニケーションとは程遠い言動です。

例外はあるにせよ、自分から見て簡単な仕事も慣れない部下からすれば初めての難しい仕事です。それを自分の頭で考えて乗り越えるからこそ、部下は成長していきます。その成長を待てずに安易にやり方を教えてしまうのは、単なる横槍です。

●コミュニケーションをサボっている

「よく『芸を盗む』とかいうが、あれは嘘だ。盗む方にもキャリアが必要だ。時間がかかるんだ。教える方に論理力がないから、そういういいかげんなことを言うんだ」という言葉は、天才落語家立川談志さんが遺したものとされています。

芸を盗むためにも経験や技術がいるわけで、仕事も同じです。「言わなくてもわかる、伝わる」は「俺には上手く説明できないから、コミュニケーションなんてしようものなら恥をかきそうで怖い」という怯えの裏返し。しかし逃げているだけでは部下の成長は遅れ、組織のパフォーマンスも上がりません。

これらの問題を解決し、部下と上司の理想的なコミュニケーションを構築するためのヒントが、ヤフーの1on1ミーティングには詰まっているのです。

ヤフーの「1on1ミーティング」の基本


ヤフーでは上司と部下が事前に場所と時間を決め、定期的に1on1ミーティングすなわち1対1でのミーティングを実施しています。

ヤフーの1on1は、言わば、部下のために行う面談です。上司のための報告でも、連絡でも、相談でもありません。 引用:前掲書p1

1on1ミーティングにはこのような大前提があります。もちろん報告・連絡・相談は業務上必要です。しかしそれは1on1ミーティングの場面で行うことではありません。1on1ミーティングのはあくまで部下の目標達成と成長促進を行うものだからです。

本間さんは著書の中で、1on1ミーティングの基本として以下の5点を挙げています。

1.部下に十分に話をしてもらう。
→部下が話しやすい態度と環境を整える。

2.話は最後まで聞く。
→部下の話を遮ったり、途中で自分の質問を投げかけない。

3.上司は先に自分の考えを言わない。
→部下の話に対する自分の意見を先取りにして言ったり、部下の言葉を頭から否定しない。

4.上司依存の関係にしない。
→部下が上司に合わせてしまわないように、ニュートラルな立場を維持する。

5.行動で終わる。
→問題解決への行動を、部下自身に考えさせ、選ばせる。

この5つの基本を徹底するだけでも、部下とのコミュニケーションの質はアップします。なぜならこの5つの基本には、部下の考えを聞き、部下に考えさせているという共通点があるからです。これは前述のコミュニケーション不足もしくは不良を起こす3つの理由をまとめて解決してくれます。

よりコミュニケーションを深める方法

しかし5つの基本を守るだけで理想的なコミュニケーションが確立できるわけではありません。ヤフーの1on1ミーティングも同じで、本間さんは著書の中で様々な考え方について具体的なケースを挙げて解説しています。

以下の3つはそのうち経験に対する部下の学びを深めるために上司が行う働きかけと、そのために必要なスキルと働きかけによって部下が目指すべき状態をまとめた表です。

引用:前掲書p115

コミュニケーションの文脈で、この表の重要なポイントは2つあります。第一に「部下に対する働きかけを、意識的に使い分けること」、第二に「ベーシックスキルによって信頼関係を構築すること」です。

まずは第一のポイントについて説明します。上表の3つの働きかけにはそれぞれ使いどころがあります。コーチングが適しているのは、部下が経験から学び新たな行動を起こせるような場面です。

この場面で何を学ぶのか、どんな行動につなげるのかは部下の中から引き出す必要があります。一方、ティーチングが適しているのは、社内ルールやPCトラブルの対処法などのすでに答えが客観的に決まっている場面。

結果に対する上司と部下の間の認識のすり合わせ、自分では気づいていない本人の周囲からの評価、これらが部下の成長に役立つ時に行うのがフィードバックです。

質の高いコミュニケーションを行うには「自分がどんなことを狙って何を言っているのか」を自覚しておかなくてはなりません。

例えば本来コーチングによって部下から意見や感情を引き出す場面にもかかわらず、何も考えずにティーチングを行なっていれば、コミュニケーションはそこで終わってしまいます。これを防ぐためにも上表のようなリストを頭に叩き込んでおいて、状況に応じて使い分ける必要があるのです。

次に第二のポイントについて説明します。ベーシックスキルとは上表の「観察力」「傾聴力」「承認力」の3つを指します。観察力とは部下の表情やしぐさ、声のトーンなどから心情を読み取る力、傾聴力とは部下の話にうなずいたり、相槌をうったりして気持ち良く話せるようにする力、承認力とは部下の考えや意見を受け入れる力です。

これらの力が身についていると、コミュニケーションを重ねるたびに部下と上司の信頼関係が深まっていきます。一定以上の質のコミュニケーションをとるためには、この信頼関係が必要不可欠です。だからこそ、私たちは上表のベーシックスキルを磨き、信頼関係を構築しなければならないのです。

部下に成長してもらうのが上司の仕事

上司の仕事は「自分の仕事をスムーズにこなすために部下を使うこと」ではなく、「部下に成長してもらうこと」です。この本来の上司の仕事をこなすには、部下との質の高いコミュニケーションが必須です。

ヤフーが導入している1on1ミーティングには、そうしたコミュニケーションのためのエッセンスが凝縮されています。ただ、このエッセンスを知っただけで部下が成長したり、コミュニケーションの質が上がったりするわけではありません。

とにもかくにも行動あるのみ。まずは部下とのコミュニケーションの時間に、1on1ミーティングの5つの基本を実践することから始めましょう。

参考文献『ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法』
Career Supli
1on1ミーティングのスキルは重要です。ぜひ身につけましょう。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部